四十九話 『交錯する謎』
「……シーロン」
「……兄さん!」
突然の再会に絶句してしまう。
何より何も言わず家を飛び出してしまって気まずすぎる。
今更会って迷惑か? それとも喜んでくれるのか?
「やっぱり……生きて……」
シーロンがおぼつかない足取りで俺の方に向かってくる。まるで信じられないものを見たような表情だ。
両手で何度も俺を撫で、そこにいるのを確かめるように触ってくる。
「俺は……死んだことになってたのか」
「うん……、本当に……兄さんだよね?」
道理でその反応なわけだ。実の兄が死んだと思ってたら生きていた、なんてな。それにしても随分と簡単に殺してくれたもんだな。父さんもこんな目してんのか……?
幽霊を見るような目つきで怖々と抱き着いてくる。
他の奴らがそんなことをしても振り払うだけだが……、優しく頭に手を乗せる。
落ちていたシーロンの視線が上がり、俺と目が合う。
安心させるように笑顔で――
「大丈夫、生きてるぜ」
「本当に……よかった……」
★ ★ ★
シーロンが一旦俺から離れ、隣のテーブルに着く。もう一人の仲間も一緒だ。
「悪い、待たせた」
「全然大丈夫でス」
アリスの目が赤い。まさか……。
「凄い感動の展開ですネ……。よかったじゃないですカ……」
「アリスさっきから号泣だよ」
「……ええことやと思うけどそんな泣くか?」
まあいい、笑われるよりはましだ。
突然、広間の電気が落ち、ステージにスポットライトが当たる。
「さあ! 予選突破者は全員揃ったので! 会を始めます!」
会場からパラパラと拍手が送られる。テンションの差が激しいな。
「まずは私たちの自己紹介から! それが終わったら解散で、決勝戦は明日からね! ちょっと付き合って!」
決勝戦は明日からか……。思ったより早く来たな。内容が知りたいが……、まだ未発表か。
「まずはこの私! 『影踏み童子』、魔法は『テレポート』!」
……それだけ!? 名前は!? 魔法の詳細は!?
「基本的にS級冒険者は皆二つ名の方で呼んでね。では次! マイパートナー!」
「あぁ~。『怠惰な王』、魔法は『言霊』だぁ~」
ステージの袖の中にマイクを向ける。出てきたのは……。
「や! さっきぶりだね!」
リザさんだった。……なんというか、うん、S級冒険者のリザさんって地味に新鮮なのなんでだろ。
「自分で言うの恥ずかしいんだけど……『女神の片割れ』、魔法は『究極の回復』ね」
会場の空気が冷えた。あのシリアスそうな剣士でさえ「何言ってんの?」みたいな顔してた。
全員真顔で誰もヤジを飛ばさない。地獄みたいな空間だな、これ。
「ほら言ったじゃん! 絶対冷めるって!」
「いいじゃん別に。次!」
「良くないよ!?」
続いてマイクを受け取ったのは……俺らと同年代ぐらいの少年だ。
「あー、『道化の人形』なんて不名誉な二つ名だ。魔法は『鬼化』な」
道化の人形が隣の男にマイクを向ける。男は当たり前のように手で持たず、持たせているところに若干の違和感。そして男は喋りだした。
「やーぁ。私は、『魔の支配者』、魔法は『魔獣操作』だぁーよ」
男が話した瞬間、背中におぞましい寒気が走る。この男の言葉を本能が拒絶するような感触だ。酷く粘着質な奇妙な話し方。怠惰な王、さんとは似てるが、絶対に違う。
そう感じたのは俺だけではなかった。シンも、掌にじっとりと汗をかいている。表情は真顔のままだが。
「嫌な感じだな」
思わずシンにそう呟く。
シンは小さく頷いた。
★ ★ ★
「次はーぁ?」
「俺」
クールな感じのイケメンが出てきた。いや、さっき戦った人か。
「俺は『氷炎の魔術師』、魔法は『氷炎』。以上」
次にラルフの師匠さんにマイクを渡そうとすると、俺らより若干若い女子がそのマイクを奪う。
「あ」
「先儂でいいかの?」
「「御意」」
急にかしこまった口調で二人がマイクを渡した。しかもなんだ儂って。どんな趣味だ。
「あ、あー。儂がこのギルドの長、ギルド長よの。よろしくな、童」
「「「「……は?」」」」
いやいや、説得力の欠片もねぇぞ。ただガキが冗談言ってるようにしか思えねぇ。
「あー! 皆! この人が言ってることは事実やから、ちゃんと聞いてなー」
「嘘だろ……?」
「魔法じゃないですカ?」
確かに、アリスの一言が納得できるな。若さを保つ魔法とかあるのか。
「続けるぞ、儂の魔法は今ここでは言えんの。ギルドの重要機密だからのう」
重要機密? ギルド長の魔法一つが何か戦局を変えるのか?
確かに今までギルド長の姿を見た人っていなかったもんな。噂によると指示だけが回ってくるらしいし。ずっとここで仕事してんのかな?
「まああれじゃ。強くなりたかったら――」
一瞬の間が開き、深く息を吸ったらしい。薄い胸が上がる。
「ここにいる他を蹴落とす、強欲になるんじゃな。儂からの挨拶はこれだけじゃ」
最後の一言、凄まじい迫力、重みだ。思わず体が引き締まる。
「せや、最後は俺やな。『笑う剣聖』、魔法は『反魔法』――」
「アナスタシア・ヴァン・ランドや」
俺らのパーティーだけ一斉にラルフを注目した。ラルフの本名はラルフ・ランド。姓が同じだ。
ラルフは気まずそうに、俺らと目を合わせない。
「じゃ、以上で開会式は終わりよの。各々の部屋で休むがよい」
その言葉を皮切りに、一斉に立ち上がる。
「さてと、ラルフ。流石に説明が必要だと思うぜ」
「せやな……。はぁ、あとで俺の部屋に集合や」
「「分かった」」
そう言ってラルフに背を向け、シーロンの方へ足を向ける。あいつも同じだ。
「シーロン」
「後で僕の部屋、来てくれない?」
「同感だ」
ギルド長、ランド、違和感、シーロンと、多くの気になる点を残して、開会式は幕を閉じた。




