四十八話 『敵での再会』
「実は! 私たちS級冒険者なんだよ! 『影踏み童子』、マルタ・ス―ウェン!」
「俺はぁ~『怠惰な王』、ユリウス・エルリックだぁ~」
「俺は『氷炎の魔術師』、ロキ・アルセーヌだ」
この一連の出来事全部特訓会の予選だったのか!? 人騒がせすぎるだろ!
「俺はまた試験に戻る」
「りょーかい! 私が送っとくね!」
氷炎の魔術師と名乗った奴が宮殿の方に戻っていく。
「送るってどこに連れていかれんだ?」
「しかもラルフは?」
「心配無用! 私がその子を今連れてくるから! 怠惰、その子たちお願いね」
そう言って影踏み童子ってやつは突然俺らの前から姿を消した。
「どこに送られんだ?」
俺が怠惰な王、さんに尋ねると面倒くさそうに答えてくれた。
「ギルドの本部だぁ~。場所は言えねぇ~」
「本部? 英国の本部か?」
「違ぇな~。言うなれば総本山ってやつだぁ~」
言葉が終わった瞬間、突如目の前にラルフを連れた影踏み童子って人が現れる。
……ラルフ、気絶してないか?
「……ラルフ、どうしてくれるんだ」
「ごめんね、着いたら回復できるから!」
「そういうことじゃないですネ」
見えるだけで体中に痣が出来ている。俺たちが行った後も無理して足止めしてくれてたのか。後でなんか奢ろう。
「さてと、もう準備はいい?」
「なんで本部に行くんですカ?」
「怠惰、説明してないの?」
「悪いなぁ~。面倒くさくてなぁ~」
「ったく――」
影踏み童子さん曰く、宮殿で行われた騒動は特訓会の予選らしい。毒入りの酒を飲まない、急な状況に対応できるか、などのふるい落としだ。
そして今から行くのは特訓会の本選らしい。内容は分からないが、残り一パーティーになるまで落とし続ける。
「つまりは特訓会に参加できるのはあの中から一つだけ、ってことか」
「そう!」
「鬼ムズじゃん」
「ま、頑張って! あ、そうそう――」
何かを思い出したように、バックから何かを取り出す。
「これ、着けて!」
「何ですか、これ?」
「目隠しだぁ~」
「なんで!?」
なんでギルドの本部に行くだけで目隠し!?
「本部の場所は最重要機密だからなぁ~」
「その通り!」
二人からそう言われて渋々目隠しを付ける。自分が完全な無防備になったようで怖いな。
「では! しゅっぱーつ!」
一瞬ごとに空気が変わるのを肌で感じていた。
★ ★ ★
「んじゃ、目隠し外していいよ!」
目隠しを外すと、そこは魔王城と対照的なまでの城だった。
「……なんでこんな大きいんですか?」
「昔のお城を再利用してるんだよ」
「絶対目立つよな? なんで最重要機密なんだ?」
「S級になったら分かるぜぇ~」
影踏み童子さんに連れられ、門を潜り抜ける。
中は特に装飾はなく、殺風景な廊下が続いている。
廊下の突き当たりに、やたらと豪華な扉があった。
「じゃ、この中で待っててね!」
「女神がいるから安心しろぉ~」
女神? もしかして……。
大きなドアが開かれる。
「おー! 待ってたよ!」
「「「リザさん!」」」
「来ると思ってたよ」
そう言ってリザさんはにやっと笑った。
「というわけで、ラルフの回復を……」
「ん、お安いご用だよ。『究極の回復』」
淡い光がラルフを包み込み、痣が消え、目を開けた。
「……ここどこや?」
「お、目覚ました」
「師匠はどこいったん?」
「全部説明するので落ち着いてくださイ」
★ ★ ★
「中々にハードな特訓会やないか」
「でもこのくらい乗り越えられなければ――」
「S級、魔王には届かない、やろ?」
ラルフが豪華な椅子から立ち上がる。
「しゃーないわ! 全員倒すで!」
「随分と傲慢だね、ラルフ」
後ろから突然声をかけられ、苦虫を噛み潰したような顔をする。
あからさまに嫌そうに振り返る。
「いい空気に水を差すなや、勇者」
「そっちこそ、ラルフじゃ相手にならない」
強者を求めていたのに、と大袈裟に溜め息をつく。なんだこいつ。
「いいじゃーん、ライバルが減って」
「むしろ好都合」
「お前らは俺を苛つかせんのが得意なやなあ」
勇者のハーレムメンバーをラルフが鬼の形相で睨み付ける。
「もう行こ」
「そうだね、さよならラルフたち」
軽蔑しきったような目で見つめ、一番離れたテーブルに着く。
「ホンマ付き合ってられへんわ」
「うるさいぞ! ラルフ!」
「聞き耳たてんなや! アホ!」
「何言い争ってんのさ」
「あ、影踏み童子さんと――」
横には眼帯をした切れ目の剣士が。研ぎ澄ました孤高のオーラを出している。ソロか?
「自分ソロなん?」
ラルフが椅子に寄りかかりながら聞く。
そいつはラルフを一瞥して答える。
「ああ、仲間は死んだ」
「は?」
声に押し殺したような響きを纏わせ、一言。
「それは……すまんかった」
「よせ。分国だから……いつものことだ」
それを最後に口を噤み、一人離れたテーブルに着く。
「分国って大変なんだな」
「魔王軍、魔物との最前線やからな」
「……気の毒ですネ」
知ってはいたが現実を見せられた。
横目でシンたちを見る。こいつらが死んだら……考えたくもねぇな。
「これで終わりですか?」
「ん? あと一パーティー来るはずだよ?」
言い終わるのと同時に、テレポートで戻ってくる。
思わず、椅子を倒して立ち上がった。
相手も大きく目を見開く。
俺と同じ赤髪、俺と同じ透き通るような青い瞳。間違えるはずがない。
「……シーロン」
「……兄さん!」




