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四十七話 『明かされた正体』

 アリスに思いっきり蹴られ、横に吹っ飛ぶ。



「何すん――」

「逃げテ!」



 次の瞬間、俺たちの間には巨大な氷山が出来上がっていた。



「な――!」



 その魔法に絶句する。

 川を凍り付かせただけでは飽き足らず、こんな広範囲超威力攻撃までできるのか。



「シン」

「ああ、食らったら即終了だよ」



 一瞬でも判断が遅れれば氷像だ。

 背中に冷汗が流れ、体が恐怖で震える。しかし、対照的に口元には笑みが浮かぶ。



「最高のシチュエーションだな」

「……理解できないよ」



 奴の目を見据える。氷のように冷たい視線に、攻撃を躱したことへの微かな驚きが混じっている。



「よく躱せたな」

「私の『予知』がなければ終わりでしたヨ」

「マジで感謝だわ」

「ん」

「そうか……まあいい、次だ。邪魔する者は――」



 奴の手に魔力が灯る。



「来ますヨ!」

「止めるだけだ」

「後ロ!」



 予知。最底辺の状態でも攻撃の一瞬前に察知できる。アリスが最近手に入れた魔法らしい。


 後ろを振り向くと、既に氷の棘が雨のように降り注いできた。



「チイ! 『プレッシャー』ッ!」

「前からモ!」

「右に避けるぞ!」



 氷の棘を横にずらして回避! そしてシンの声だけを頼りに右へ重力で移動する。

 回避した一瞬後に馬鹿みたいな質量の氷が通り過ぎる。



「攻撃に転じれるか?」

「何とか。回避お願い」

「了解!」



 シンが口を使って器用に爆弾のピンを抜く。

 同時に前から山のように氷の槍が。



「『プレッシャー』」



 シン諸共上に跳んで回避する。それと同時に、爆発直前の爆弾を投げ――爆ぜる。



「まだ!」

「畳みかけテ!」



 アリスとシンは氷上から接近戦に持ち込む。

 俺だけは上空に飛び上がり、奴の出方を伺う。新技も試したいしな。


 アリスの爪と、シンのナイフが同時に何かに当たり、大きな硬質音がたつ。



 まさか……あの爆発を防いだのか!? その考えに行きついた瞬間、猛烈に嫌な予感がする。



「シン! アリス! 避けろ!」

「「ああ!」」



 即座に後ろに跳ぶ。しかし、シンが氷で足を滑らせる。



「あ」

「あ、ちょっ――!」



 止める間もなかった。一瞬、尻餅をつき、氷に飲み込まれる。



「シン君!」



 アリスがシンの方に踏み出すが、一歩進んだところで踏みとどまる。中のキングってやつの指示か?

 同時に煙の中からぼそっと声がする。



「……いい判断だ」



 爆風が晴れ、出てきたのは自分自身を氷で包み込み、全くの無傷だった氷使いだ。

 あまりの強さに乾いた笑いが出てくる。


 だが、まだ攻撃は終わっちゃいない。

 空中浮遊していた重力を解き、自由落下に切り替える。調節をミスれば即死だが、俺が持つ最大威力の攻撃。体に重力を感じ、宮殿に滑り込んだ時の状況になる。今なら使える!



「『グラビオル』ッッ!」

「何?」



 上空からの奇襲! 俺に何の警戒心も抱いていない意識外からの攻撃だ!



「沈め!」

「ッ!」



 半端じゃない重力が扱える! 今回は容赦なしだ。下方向の重力を奴に叩きつける!



 足元の氷が粉砕し、奴が氷の下、川の中へ落下する。作戦成功!



「よっしゃ!」

「ナイスでス!」



 出来た隙にアリスがシンの氷を溶かしにかかる。



「ふー」



 俺も安心から警戒を解く。解いてしまった。倒した感触、倒せてはいなくても時間は稼げたという油断。致命的だった。



「怠惰、傲慢だな」

「「え?」」



 視界は一瞬で氷に埋め尽くされた。



 ★ ★ ★



 あーしくった。まさかあそこで転ぶとはね。



 俺は氷の中でそう思う。皆の中で一番最初に戦闘不能になるなんて情けなさすぎる。



 ただね、まだ俺の戦いは、終わっちゃいない。

 最初に相対したとき、万が一のことを考えて川に爆弾を仕掛けておいた。しかもそれは今俺の手が握っているスイッチで爆破できる。



 タイミングは二人が凍らされたときか、俺の意識が消える寸前。

 っと二人とも凍らされちゃったか。じゃ、度肝を抜く復活作戦開始だ。俺はスイッチのボタンを押した。



 ★ ★ ★



 ッー! 動けませン! キング、何かいい案ありませんカ?!



『この氷は非常に硬い。いくら我でも中から砕くのは無理だ』



 じゃあ打つ手なしでこのまま敗北ですカ……? 



『我と貴様だけであったらそうだろう』



 ということハ!?



『恐らく、だが貴様の想い人は何か仕掛けているな。奴は非常に頭が回る』



 キングがそう言ったとキ、私だけじゃなイ。周囲全部の氷が砕け散っタ。



 ★ ★ ★



 打つ手なしで呆然としていた時、急にすべての氷がぶっ飛んだ。



「何事だ!?」

「成功だ!」

「流石シン君でス!」

「何をどうしたんだ?」

「手榴弾って水中に入れると強い衝撃波を出せるんだ。それを起爆した」



 この状況を想定して準備していたのか!? あまりにも凄すぎる。



「さてと、第二ラウンドってやつ――」

「その必要はない。女王はお返ししよう」



 奴はゆっくりと近づいてきて、女王を手渡した。警戒していたが何もされなかったな。



「何故だ?」

「合格だ。お前ら」

「「「へ?」」」



 突如上空に炎が一瞬上がる。その瞬間、元々そこにいたかのように自然に、二人組が現れた。



「この子たちは合格者?」

「ああ」



 じょ、状況についていけない……。



「逃げるか?」

「ん」

「OK」



 三人で目くばせし合う。なんかよく分からんけどとりあえず逃げろ! こんな危ない連中に付き合ってられるか!



「あ、逃げちゃった」

「怠惰な王、頼む」

「面倒くせぇなぁ~。『動くな』」



 後ろで何か声が発せられる。と、体が……動かねぇ! 何だ!?



「逃げないで大丈夫だよ。私たち、怪しい人じゃないから!」



 怪しくない人は急に攻撃しねぇよ? しかもこいつ……ノーモーションで移動したな。テレポートか?



「お前ら……何者だ?」

「合格って何のことですカ?」

「なんで急に攻撃してきたんだ」

「ふむ、その問いに答えようじゃないか」



 妙に芝居がかった格好でその……女? 男? は名乗った。



「実は! 私たちはS級冒険者なんだよ! 『影踏み童子』、マルタ・ス―ウェン!」

「俺はぁ~『怠惰な王』、ユリウス・エルリックだぁ~」

「俺は『氷炎の魔術師』、ロキ・アルセーヌだ」

「「「はぁ!?」」」



 ちょっと待て! さっきまで俺たちの相手をしていたのはS級冒険者だったってことか!? 状況についていけねぇ!



「君たちはS級特訓会、予選通過だよ! おめでとう!」

「すまない、君たちを試させてもらっていた」

「特訓会には何個かの試験を突破しなきゃいけねんだぁ~」



 まさか……この一連の騒動全部特訓会の予選だったってこと?



「どんだけ人騒がせなんだあんたたち!」



 思惑は全て明かされた。

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