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四十六話 『連続する壁』

「逆刃・疾風」



 そう呟いたのがかすかに聞こえた。

 その瞬間、目にも見えない速度で抜刀する。



 せやけど流石にここは間合いの外、まだ詰めんくても――



「かっは!?」



 腹部に鈍痛が走る。刃が飛んできたような感触。押し出されるように吹き飛ばされる。



「一体いつから間合いの外に攻撃できないと錯覚していてん?」

「何や今の攻撃……」



 あかん、やばすぎんで。

 打開策は……俺の間合いまで突っ込む! それだけや!



「はぁっ!」

「馬鹿正直に突っ込みかい?」



「逆刃・疾風」



 その言葉と共に刀身が動く。

 ……来るっ!



「双流剣術、両盾の構え!」



 二本の刀身をクロスさせ防御する。



「ぐうぅ!」



 無数の剣撃が剣に叩きつけられる。

 半端じゃないなぁ。やけど、インビジブルソードはまだ使わへん。



 あと数歩や! 飛べ!



「双流剣術、縦横円斬!」



 大きく踏み出し、縦に回転しながら切りかかる。



「やっと攻撃がきたやんか」

「うっさいわ!」



 剣で縦回転が止められる。

 そこに力を掛けながら……無理やりに横に回転する。



「おらぁ!」

「よっと」



 軽くいなされる。やけど、まだや!



「双流剣術、十薙ぎ!」



 後ろから二本の刃を叩きつける。

 当たんで!



「逆刃・凪」



 先生の体は反対方向向いてんねん、絶対不可避の剣撃やったはずやのに……!

 驚異的な反応速度で刃を合わせられた。信じられへん。



「一旦距離飛んで!」

「逃がさへんよ! 逆刃・疾風!」



 斬撃が飛ぶ。

 思いっきり横に飛ぶねんけど回避できひん。



「ぐあっ!」



 肩が脱臼する。切れ味がない分衝撃がやばい。



「Sorry! 回復ができませン!」

「ええ! 手ぇ出すな!」



 雑に肩を入れなおす。痛ったいわぁ。



「降参する?」

「冗談やろ? 第二ラウンドってやつや」



 ★ ★ ★



 深く深呼吸をする。



 魔法使えんから投げナイフも使えへんのはキツイなぁ。

 あと一回、あと一回だけ突っ込めばええねんけど。



「よっしゃ」



 覚悟は決めたか? と自分に問いかける。

 そんなものはとうの昔に、や。



 ダメージ覚悟で突貫や! それが勝利条件! いくで!



「双流剣術――」

「お、来たね」



 怪盗なんちゅーふざけた格好切り刻んでやるわ!



「逆刃・疾風」



 またも威力と速度を持った斬撃が舞う。

 それを……一切躱さずに駆け続けろ!



「がぁぁ!」

「……マジ?」



 肩が抜ける。左足にヒビが入る。骨が砕ける!



「そんなの……知ったこっちゃねー!」



 ただの狂人のごとく突っ込む。



「双流剣術……双閃ッ!」



 喰らいつき続けたその間合いに入る。

 やっと、満を持して……その左腰の剣を抜き放つ。



「今や! いけ!」



 同時に合図! これならいけるやろ!



「攻撃と同時に仲間に合図か~」

「防御したら止められへん。止めたら痛い目見るで」

「いい作戦じゃあないか!」



 剣が、先生の頸に吸い込まれる。皆も横を駆け抜け――



「惜しいやん」

「何やて!?」



 先生は頸を振って回避する。それだけでも化け物やねんけど……。俺にはもう一本あんねん!



 右手の剣が躱された瞬間、右腰からもう一本の剣を抜く。

 崩れたその態勢やったら躱されへんはずや!



「危っぶない!」



 当たる、そう確信した瞬間。

 先生は俺の二本目を……指で挟んで止める。



「真剣白羽取り」

「は? 嘘や――」



 開いた手で剣を握り、シンたちに視線を移す。



「残念、俺の勝ちや。逆刃・疾風」



 ★ ★ ★



 ラルフの指示で飛び出したが、横から殺気が迸ってくる。

 やばい、まだ重力は使えない!



 鍛え上げた動体視力に、風の刃が一瞬映る。

 駄目だ、躱せない。作戦は……失敗?



「何のために、温存したと思てんねん!」

「何やて?」

「なあ! インビジブルソード!」



 風の刃が当たる瞬間、目の前で何かが砕け散る。

 まさか、ラルフの不可視の剣か!



「俺の勝ちやな! 先生!」

「嘘やん!」



 風の刃を防ぎ切り、怪盗の横を駆け抜ける!



「サンキュ! ラルフ!」

「おう! 気張れよ!」



 そう言って俺たちは、庭園から飛び出した!

 時間にしてほんの数分。まだ追いつける!



 ★ ★ ★



「シン! もう一人は!?」

「……いた! 川を渡ろうとしてる!」

「逃がしませんヨ!」



 怪盗の近くから離れたら魔力が戻る感覚。



「飛ばすよ。『プレッシャー』」



 前方向に重力を掛けながら全力疾走。ああ、魔法が使えるってすげぇ!



「あと距離百!」

「あ、こっち見た」



 冷えた瞳がこちらを向く。手には……まだ女王はいるな。

 しかし、一瞥した後川を渡り始める。



「どうやって渡るんでしょウ?」

「さあ――」



 疑問は、一瞬で解決した。



「「「…………」」」

「俺たち、あいつを相手にするのか……?」

「あっちも怪盗と同ジ、相当の化け物ですネ」



 川が一帯すべて凍り、その魔術師は悠々と渡り始めた。



「待て」



 川岸に追いつき、声を掛ける。

 周囲は凍り付くような冷気が漂っている。



「何の用だ?」

「女王を返せ。それだけだ」

「返さないなら?」

「無理やりにでも」



 見渡す限り川は全て凍っている。相当どころじゃない手練れだ。戦いにくそうな環境だしな。出来れば戦闘は避けたい。



「傲慢め」



 ぼそっと何か呟いた。

 その瞬間、体が吹き飛ばされる。あいつ? いや……アリスに蹴られた? シンもだ。痛ってえ――

 アリスは俺たちと反対側に跳んでいる。



「何すん――」

「逃げテ!」



 次の瞬間、俺たちが一瞬前にいたところには……巨大な氷山が出来上がっていた。

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