四十三話 『第一の試練』
「ラルフ、招待状持った?」
「もちろんや!」
「アリスゥ~! 行かないでくれぇ~!」
「お父様……」
「行ってらっしゃい。怪我に気を付けるのよ」
「Yes!」
門の前にガン泣きしてるおっさんがいるが気にしない。
「シン君たちも気を付けてくださいね」
「「「はい!」」」
「特にシン君……アリスをお願いね?」
「分かりました」
美しい庭を尻目に、馬車に乗り込む。
「お母様もお元気デ!」
「「「ありがとうございました!」」」
「元気でなぁ~! アリス~!」
こうして俺らは、いよいよ特訓会へと旅立った。
★ ★ ★
「まずはギルドやねんな?」
「ん。招待状を見せればいいって」
「りょーかいや」
貴族街から、離れるにつれて住宅街が目についてくる。
あ、なんかお祭りやってるし。
「そろそろ到着いたします」
「分かりました」
「英国ギルド本部でございます」
「おおきに!」
「やっと着いた~!」
「ありがとうございました」
「Thank you」
流石にギルド本部はでかいな。しかも豪華な造りだ。
「とりま中入るで」
「ギルド本部へようこそ。本日はどのような御用件でしょうか」
「せや。これについて話が聞きたいねんけど」
「かしこまりました。奥の者をお呼びいたします」
ギルド嬢が手元のベルを押す。すると中から大物っぽい人が出てきた。
「私はここのギルド長です。では、こちらへどうぞ」
「おおきに」
受付を通り越し、二階へ通される。
「まずは招待状の確認をさせていただきます」
「これが四人分や」
「お預かりいたします」
何やらルーペを取り出し調べ始めた。
ちょっと緊張するよね。
「確かに承りました。本日の集合場所はご存じでしょうか」
「それ知らんねんな」
「了解です。こちらが地図でございます」
「ありがとう」
四人で顔を突き合わせて見入る。
あれ? 現在地ここで……。
「ここどこ?」
「ベルサイユ宮殿ですカ……?」
「おっしゃる通りでございます」
おいおい、ちょっと待て。流石に遠くないか?
「集合は何時なん?」
「本日の十八時でございます」
「馬車や間に合わへんやん!」
今の時刻は……十時。
ここが英都で、ベルサイユ宮殿は国境沿いだから……。
「馬車じゃ数日はかかるぞ」
「嘘やん!」
そんな俺たちにギルド長が声を掛ける。
「特訓会は、試練のようなものです」
「何やて?」
「何とかしてそこに辿り着けない以上、参加資格はございません」
その場にいる全員が感じた。
これは……駄目な奴は振るい落とす試験なのか、と。
「やったらどうにかしてそこ行かなあかんちゅーわけやな」
「どうする? あの人に……」
もしかしたら何か秘密兵器とか持ってないか?
「駄目だね。あの人も試験官。贔屓は無しだ」
「やっぱりそうか……」
流石にそう甘くはないよな。
というか他の奴らもこんな感じなのか?
「なあギルド長。行先分かんねぇのって俺らだけ?」
「はい。他の皆さんは事前に知っておられます」
「情報戦も架けてるってことか……」
どうする? このままだと参加もしないうちに脱落だ。
「……」
「アリス、何か案が?」
「はイ……。両親から聞いたことがあるのですガ……、ギルドは緊急の移動用に竜を保持しているとカ……」
「それはホンマか!?」
竜、移動用に飼いならされたドラゴンなら……ギリギリ間に合うか!?
「ギルド長! その竜貸してくれへん!?」
「確かに保持しておりますが……あれは緊急用でございます」
「そこをなんとか、や」
「……対価は何ですか?」
対価か……。なんかあったっけか?
「ラルフ、あのカジノの!」
「ナイスやシン!」
ラルフがバッグから大きい袋を取り出す。
「これでどうや!」
「まだ足りませんね。交渉なんですよ?」
「「「そんな――」」」
あれは恐らくカジノで得た全財産……。それ以上は……!
「そんなん知ってんで」
ラルフが力強くもう一つの袋をギルド長の手に叩きつける。
「これでどうや?」
二ッと笑いどや顔。いつの間に増やしてたんだ?
「……飛竜と地竜。どちらがよろしいですか?」
★ ★ ★
ギルドの裏の空き地に、立派な飛竜が止められている。
壮観だな……。これで空飛ぶとか最高か!
「鞍を付けるのは別料金ですが」
「そんなんいらんで。それよりもいつ着くん」
「ギリギリです」
「なら飛竜をぶっ飛ばすしかないわ」
物騒なこと言うなよ……。
吹き飛ばされたら……、うん、重力魔法で助けられるか。心配無用だな。
「本当にこの金額でよろしいのですか?」
「ええねん。交渉してる暇ないやろうし」
「……嫌いじゃないですよ。では、いってらっしゃいませ」
「俺もあんたんこと嫌いじゃないで――」
全員飛竜の背中にしがみ付く。
一応シンの血を飲ませ、ラルフが操縦担当だ。
飛竜が翼を広げ、大空へと飛び立つ。
「こんな格安で飛竜貸してくれたんからなー!」
「「「え?」」」
「……このクソ野郎がぁー!」
ギルド長の絶叫が空に響き渡る。
雲の高さまで飛び上がり、猛スピードで宮殿まで駆ける。
「そういえばラルフ。格安って何のこと?」
「けっこうな大金じゃなかったの?」
「ああ、それはな。あの中身、全部銅貨やねん」
「「「は!?」」」
大体あの袋一つに硬貨四百枚が詰まってるとして……。二袋だから……。
「あの人金貨八百枚を貰ったと思ったのに」
「銅貨八百枚、金貨たったの八枚分ってことですカ?」
「正解や!」
「超外道だね」
「計略やで」




