表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/102

四十二話 『来たる招待状』

「私の名はシン・ウェア・ウルフ。帝国の第二皇子でございます」



 二人の目が見開かれる。そりゃそうだ、第二皇子なんて聞いたこともないだろう。



「帝国に第二皇子などいたのか?」

「隠された存在ですがね」



 お義父さんの目つきが剣呑になる。



「何故だ?」

「それは……私が出来損ないだからでしょう」

「はぁ?」



 地味な黒髪。社交的とは言えない性格。薄い影。そして……魔法。

 どれを出しても王家の恥だったらしい。



「兄様……ラインハルトが優秀過ぎるのもありますがね」



 兄様も、父様も、母様も優しいが、周りはそれを許さない。

 普通の暮らしはさせてもらえたが、一切外には出られなかった。



「その生活に嫌気がさして、城からこっそり出てきてしまったのですよ」

「身分を明かそうとは思わなかったのか?」

「兄様たちに迷惑はかけたくないですから」



 駄目だな。大分湿っぽくなってしまった。話題を変えよう。



「皇子の証拠ならありますよ。これです」



 俺は懐から銀色の懐中時計を取り出す。



「それは……」

「ご存じでしょうか、お義母さん?」

「ええ。話に聞いたことがあります。帝国の王家は伝説級の魔導具を持つと……」



 博識で何より。手間が省けた。



「その通りです」

「これがその魔道具だと?」

「はい。名は『神命壊し』。意味は運命を変えるもの、です」

「まさか……その効果は……」



 察しが良くて助かります、お義父さん。



Redo(やり直し)だな」

「はい。()()()()発動から一日前へと時を戻す魔導具です」



 二人の視線が集まる。やがて、緊張が解けた。



「嘘じゃあないな」

「ですね」

「では、婚約は続行でよろしいでしょうか」

「それは認め――」



 遂に拳が振るわれた。



「はい。身分的には問題ないでしょう」

「ありがとうございます」

「ただし」



 お義母さんの指がピンと立てられる。



「その身分を結婚の時には明かしなさい」



 ま、当たり前だね。じゃないと公爵の面目が立たない。

 だが……。



「……今でなくてよろしいのですか?」

「はい。隠しておきたいのでしょう」

「……ありがとうございます」



 話は終わりだな。席から立ち上がる。



「では、くれぐれもこの事は内密にお願いします」

「かしこまりました。皇子」



 後悔はない。むしろ清々しい気分で部屋を出た。



 ★ ★ ★



「おー! シン帰ってきたやんか」

「何してんの?」



 ここ俺に割り当てられた部屋なんだけど。



「アリスが開けてくれてん」

「シン君の部屋ならシン君が帰って来たの気付くじゃないですカ」



 俺のプライバシーはどこに?



「今皆でトランプやっててん」

「ラルフ強すぎな」

「シン君もやりましょウ!」



 これだ。この普通の扱いが嬉しいから、俺は身分を明かせないんだ。



「ん!」



 ★ ★ ★



 ベルモット邸で過ごして五日目。

 俺たちは必死に母さんのアドバイスを練習していた。



「アーロン。魔法の拡張ってなんやと思う?」

「……違う使い方を見つけろってことじゃね?」

「俺の魔法って他の使い方あるん?」

「……知らねぇ」



 俺は、1を100にしろ……。掴めない……。

 今かかってる重力に加えろってことだよね?



「アーロンは上手く行ってるん?」

「微妙。ほんのちょっと感覚は分かったかもしれないけど」



 この五日間。一回だけ出来たんだ。

 今の重力を自分のものだと思い込んで威力を乗せる。

 けどその感覚が中々引き出せない……。



「なんか切っ掛けがあればいけそうなんだけどね」

「前途多難ってやつやな」

「シンとアリスは?」

「ひたすら二人で実戦してんで」



 あの二人も頑張るなぁ。ぶっちゃけ母さんは赤の他人だったのに。



「俺たちももうちょっとやるか」

「せやな!」



 ★ ★ ★



 五日目の夕食の時。エレンさんが話を切り出した。



「皆、この五日間よく頑張っていたね。何か掴めたかい?」

「まあそれなりには」

「私もでス」

「それはよかった。で、だ」



 エレンさんが四枚の封筒を取り出した。



「これ、何だと思う?」

「まさか……」

「ご察しの通り。特訓会への招待状だ」

「遂に――」

「来ましたネ!」



 体中に武者震いが走り、口元に笑みが浮かぶ。

 強くなれる機会だ、逃してたまるか。



「これを持って明日ギルドに行けば色々教えてくれるだろう」

「ありがたくいただきますわ」



 ラルフが全員分を受け取る。



「私はアリスと離れてしまうから行かせたくない! アリス! 君だけ残らないか!?」

「行ってきまス、お父様」

「行ってらっしゃい、アリス」

「そんなぁ!」



 こうしてベルモット邸最後の夜は更けていった。





 自分の部屋に戻り、ベットに寝転がりながら思いを馳せる。



 脳裏にはあの化け物じみた強さの母さんが映る。

 S級冒険者はあんなのがゴロゴロしてるのか。至極楽しみだね。





 そして、朝はやって来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ