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四十一話 『シンの正体』

「Welcom、ベルモット邸でス!」



 御者さんにお礼を言い、門の中へ歩を進める。



「おお……」

「綺麗だね」

「せやな……」



 綺麗に切りそろえられた芝生。美しい生垣。虹を作る噴水……。

 どれをとっても超一級品だ。惚れ惚れする。



「ホンマにこんなんあったんやな」

「ラルフ……キョロキョロし過ぎ……」



 シンが思わずツッコミ。いや、ラルフの気持ちめっちゃ分かるけど!



「普通はこんなとこ入れないもんね」

「確かに、そうなのかもね」

「逆に入ったことあるんかい」





「堅苦しくなくていいですヨ」



 家のドアを開ける寸前、アリスが声を掛ける。

 ……主にラルフに。



「わ、分かってんで!」

「声震えてるよ……?」

「相当やらなきゃ大丈夫でしょ」

「でハ」



 ドアノッカーを数回叩く。

 いかにも貴族……。



 数秒後、扉が開かれ、中からメイドさんが顔を出す。



「おかえりなさいませ、アリスお嬢様」

「Hi! ただいまでス! 久し振りネ!」



 ラルフを見ると……リアルメイドに驚愕してる。



「ま、特殊なカフェでしか普通見ないもんな」

「ホンマに存在すんねんな」



「そちらの方々は……?」

「私の仲間でお客様でス!」

「かしこまりました。旦那様と奥様が中でお待ちです」



 直々に待ってんのかー。ハードル高そうだな……絶対ベルモット家って位高そうだし。

 ……俺の正体ってばれないよな? 流石に。



「お父さんってどんな感じなん?」

「ンー、気楽でいいですヨ」

「アリス、答えになってない」

「……婚約者って……殴られないよね?」



 一瞬アリスが硬直する。

 考える素振りを見せ……シンの肩を優しく叩く。



「回復魔法は掛けますネ」

「論点そこじゃないよ!?」

「こちらでございます」



 そして俺たちは、豪華な応接間に通された。



 ★ ★ ★



 応接間の扉が開かれ、中を覗き込むと……。



「アリス~! 会いたかったぞ!」



 扉が開いた瞬間、おっさんがアリスに飛んできた。

 が、アリスは軽く躱す。



「……お父様! 久し振りでス」

「娘よ! 長かったなあ!」



 抱きしめようとするお父さんを手で押しとどめる。

 んんー? 大分予想と違ったかな!?



「こら、いい加減にしなさい」

「あぐっ」



 パアンっと小気味よい音が鳴り響く。

 お父さんがお母さんに扇子で殴られたのか……?



「お母様!」

「アリス、久し振りね。元気にしていたかしら?」

「えエ! 何度か死にそうでしたガ!」

「今生きてるならそれでいいわ」



 ……いいの!?



「見苦しいところをお見せしたわね――」



 アリスのお母さんが俺たちに向き直る。



「サシャ・ベルモットと申します。娘がお世話になっております」

「シンです」

「アーロンです」

「あ、せや、あー、あれや! ラルフ・ランドですや!」

「「「「…………」」」」



 うん、何か所突っ込もうか。



 ラルフは自分の間違いに気づき。

 顔を赤くし、貴族の前での失態に気付き青くなる。

 咳ばらいを一つし、何事もなかったかのように二度目の挨拶をする。



「ラルフ・ランドです。リーダーやってます」

「……そう。いつも娘をありがとうね」

「恐縮でございますや」

「ちなみにミドルネームはあるかしら?」

「私は持っていませんねん」



 もはや誰も何も言わない。



「ほら、あなたも挨拶して」

「お父様……いつまで寝ているのですカ?」

「すまない、アリスの美しさに気を失っていたよ」

「気持ち悪いでス」

「辛辣う!」



 髪を払い、堂々としたなりで挨拶してくる。

 ……第一印象は決定したが。



「エレン・ベルモットだ。当主をしている。娘をありがとう」

「当然のことですや」



 にこやかに俺たちと握手する。

 最初はラルフ、次に俺、そして――



「君がシン君かね?」

「ええ」

「婚約者かね」

「……ええ。その通りです、お義父さん」

「……よろしく」



 俺は見たぞ。

 シンは表情一つ変えなかったが、エレンさんが渾身の力でシンの手を握りつぶそうとしたのを。

 ついでに青筋が数本浮かんだのを。



「とりあえず話は食事中にしようじゃないか」

「皆さん、どうぞ席へ」

「「「ありがとうございます」」」



 トラブルはあったが、和やかに席に――



「ああ、シン君。君にお義父さんと呼ばれる筋合いはないよ」



 場が凍り付いた。



 ★ ★ ★



「さて。シン君には後で話があるとして。私は君たちと話したいね」

「さあ、旅のお話を聞かせて頂戴」





 この料理うめー。

 最近普通の料理ばっかだったからさらにうまい。



 このドラゴンの肉とか最高だろ。



「アーロン君はどんな風に戦うんだい?」

「あ、私ですか?」



 流石にナイフとフォークを置く。



「私は魔法使いなので魔法の近接戦闘です」

「ほう。なんの魔法かね?」

「重力魔法です」



 エレンさんの目が見開かれた。そして口元に微笑が浮かぶ。

 なんかいつものパターンみたいだな。



「随分と面白い魔法だね」



 嫌味か?



「世間ではカス魔法として有名ですよ」

「そんなことはないさ」



 え? 困惑し、いつの間にか下を向いていた視線を戻す。



「あまり有名ではないがね。S級冒険者の一人は重力魔法を使うんだよ」

「そうなんですか」



 三人から何言ってんだこいつ、という視線を向けられる。

 流石に母です、とは言いにくい雰囲気だったんだよ!



「君も同じポテンシャルを秘めているんだよ」

「……ありがとうございます」



 ……なんか褒められた……んだよな?



「後はアリスについて聞きたいな」

「アリスはちゃんとやれているかしら?」



 サシャさんが不安そうに問いかける。



「それは大丈夫やで」

「ん」

「おう」



 遂に敬語を消したラルフが自信満々にそう答える。



「アリスはホンマにようやってくれてる。心配せんでもええで」

「アリスの魔法は弱いはずなのですが……」

「あーそれこそ心配いらへん」



 その言葉にアリスが何かを察する。



「ラル――」

「アリスは黒狼になれんねんから」



 場が静まり返った。



「……アリス……? 聞いてないわよ?」

「な、な、……」



 エレンさんが泡を吹いて倒れた。



 ★ ★ ★



「さてと」



 復活したエレンさんがシンを見つめてそう言う。



「婚約者君……君との婚約は破棄だ」



 扇子が炸裂する。



「申し訳ございません。シン君。婚約者の君とは別室でお話いたしましょう、ということです」

「は、はあ」

「では、こちらの方へ」



 二階へとシンが案内される。



「お母様! 私ハ?」

「アリスは皆さんをお部屋へ。では、参りましょう」



 ★ ★ ★



 またもゴージャスな部屋へ通された。



「シン君。どうぞお掛けになって」

「ありがとうございます」



 フカフカの椅子に深く座る。



「ご用件は何でしょうか」

「ああ、真面目な話をしよう」



 真面目じゃない自覚はあったんですね、お義父さん。



「君との婚約は非常に難しい」

「……真面目ですか?」

「残念ながら本当です」



 お義母さんが言うってことは本当か。



「理由を聞いてもよろしいですか?」

「ああ。ベルモット家は公爵でね」



 公爵……貴族の最高ランクか。かなりだな。



「失礼ながら貴方は市民でしょう」

「そこまで身分が違うと……な」

「やはりそうですか……」



 まあ、予想通りだな。



「アリスを見ていても君が好きなのは分かったが……」

「すみません。結果的に婚約破棄と――」

「身分が同じだったらいいんですか?」



 諦めムードの二人に問いを投げ掛ける。

 アリスをそう簡単に諦めて堪るか。



「ええ。しかし今からでは難しいかと……」

「S級冒険者になっても無理だぞ」

「ええ。知ってます」



 俺はその事をもちろん知っている。



 アリスのためなら身分を()()()()()暇はない。



 仕方ない。身分隠しはもうやめだ。



「聞いてください」

「何か貴族になる策でもあるのかね?」



 深く息を吸い、覚悟を決める。



「私の名はシン・ウェア・ウルフ。帝国の第二皇子でございます」







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