四十話 『意識改革』
「ふーむ、かなり鍛えてるね」
褒めてもらってると受け取っていいの? 皮肉にしか聞こえねえぞ。
「攻撃の威力も速度も申し分ない。連携もできてる。だけど――」
一呼吸置かれる。
「まだ私には届かない」
「くっ」
ぐうの音も出ないほどの事実。強すぎる。
「まさに次元が違うわな」
「全てが私たちより上ですネ」
「とりあえず母さん、この重力を解いて……」
★ ★ ★
「さてと、講評ってやつをやろうかな」
魔法を解いてもらい、アドバイスを受ける。
たった十秒で分かるのかと思ったけど分かるらしい。母さん曰く最強だから分かる、らしい。
「「「「お願いします」」」」
「まずは全体的な評価だけど魔法をもっと使った方がいい」
ん? 俺たち結構使ってないか?
「これよりもまだ、ですか?」
「ええ。ただ別にたくさん使えばいいってわけじゃないわよ」
んんん? 全員の顔が怪訝になる。
「例えばシン君。魔法でもっと気配の緩急をつけた方がいい」
「気配の緩急……ですか?」
「気配を消したり、逆に強めたり。そうすることで相手は混乱するのよ」
シンがため息をつきながら感心する。
「あとは攻撃のバリエーションの少なさね。ナイフと爆弾しかないでしょう」
「……改善します」
次はラルフの方へ向き直る。
「ラルフ君はね、もっと魔法を使った方がいいわ」
「使う言うても……使いどころが分からへんねんけど」
「君の魔法は本当に物を光速で投げるだけ?」
つまり?
「もっと魔法を拡張しよう。可能性を捨てないで」
「…………はあ」
理解していなさそうな返事だが、それに構わずアリスの方へ。
「アリスちゃんは黒狼を飼っているんでしょう?」
「Yes」
「戦闘中にその黒狼ともっと話した方がいいと思うよ」
「What?」
「まあ、疑似的な人数有利を創ろうってことだね」
「??」
聞いてるこっちも全然意味分からん。簡潔すぎるだろ、講評。
「最後はアーロンね」
「はい」
「問題点は、魔法の威力不足でしょ」
やっぱりか。母さんの魔法に比べて圧倒的に出力が弱いんだ。
「うん」
「理由は?」
一回目の大迷宮の時……極限状態に陥ったら馬鹿みたいなパワーが出た。故に――
「気持ち?」
「んー、それもあるけど全然違う」
「正解は?」
母さんの魔法の使い方だ。絶対強い。
「今アーロンは、0を1にしてるの」
「……はい?」
ぜんっぜん分からん。
「つまり、魔法で一から重力を創造してるよね?」
「はい、もちろん」
「その前提が違うのよ」
んん? 重力を作り出さないのか?
「私たちには常に重力がかかってるよね?」
「うん」
この地面に引っ付いてるのってことだろ?
「この重力を媒体にしてそこに魔法で足していくのよ」
「……んんん?」
「この重力を元に、強い重力を掛ける。そうすると重力を創造しなくていい」
「どういうことですか!?」
重力を元に重力を足す!? 意味が分からん……。
「つまり!」
「つまり?」
「0を1にするんじゃない。1を100に変えるのよ」
ああ、なるほど。……やっと理解はした。できる気がしないけど。
「与えられるヒントは四人ともここまでね。あとは自分で考えて……勝ち上がってきてね」
「勝ちあがるって何をや?」
「……お楽しみ」
ふわっと母さんが宙に浮く。
「今のことをマスターすれば皆劇的に強くなるわ」
「もう行くの?」
「ええ。じゃあ、また会う時まで!」
言い終わると同時に急加速。一瞬で視界から消える。
「なんか……突風みたいな人やったな」
「……だね」
呆然としながら空を見上げ続けた。
★ ★ ★
「あのアドバイスは結局何なんや?」
「自分で考えろってことじゃない?」
日が暮れてきたので、馬車でアリスの実家へと向かっている。
「めっちゃ抽象的やもんなぁ」
「的を射てるとは思いますけどネ」
「せやな!」
「ま、そこは追々考えよう」
「だな。俺のアドバイスも……めっちゃ核心をついてる気がする」
0を1ではなく、1を100に。
この例えが本当なら莫大な威力増加だ。
「それよりモ、もう家でス」
「お、着いたん?」
「ベルモット邸でございます」
「ありがとうございました」
シンがお礼を言って先に外に出る。
「おお」
小さい驚きの声。どんなんだ?
「おおー!」
「……ええー?」
感嘆の声を漏らす。これほどの屋敷は帝国以来だ!
逆にラルフは愕然とした驚きの声。
まあ、そりゃそうか。普通こんな邸宅見ないもんな。
というかシンがあんまり驚いていないのに驚きだよ。
「Welcome、ベルモット邸でス!」




