三十七話 『』
ザンドラ分国の一角。
魔族との戦争の最前線地域。
人間側のある集落が、本日未明、消滅した。
★ ★ ★
村だったところに一人の少年が立ち尽くしている。
褐色の肌をし、漆黒のコートを羽織っているその姿は少年だが、その身に似つかわしくない雰囲気を纏っている。
「ふん、汚らわしい」
服に付いた埃を手で払う。
大きなクレーターを尻目にその場から立ち去る。
次現れたのはある建物の中だった。
「魔王様」
執事のような男……悪魔か? が少年、魔王に声を掛ける。
「なんだ、『原始の悪魔』」
「どこへ行っていたのですか?」
「ある村だ」
男には一瞥もくれずに少年は歩き続ける。
「皆集まっております」
「知っている」
木製のドアを手を触れずに開ける。
中には数人……いずれも寒気がするほどの凄腕だ。
「今日は報告があって来た」
「何だと?」
……な、龍神……!?
「座れ」
「……はっ」
椅子に片肘を付きながら少年は告げる。
「この七柱の一人、『餓狼の王』が消えた」
「殺された……ということでしょうか?」
紫のドレスに身を包む美しい女性が尋ねた。
「『原始の悪魔』、報告だ」
「御意」
紙を取り出しながら告げる。
「ロンダート王国内の反応が最後です」
「場所は?」
……今度はヴァンパイアか……!
「恐らく、迷宮かと」
「けっ、また『使役』してたのか」
使役? 何のことだ?
「で、殺されたのですか?」
「いえ……推測ですが……。誰か、何かの体に取り込まれたような形跡です」
「ほう、取り込まれたのか」
少年が口をはさむ。
「取り敢えず捜索だ。期待はしないが。『龍神』」
「仰せのままに」
「そろそろ始めるの?」
なんだ、幼き少女だと……? 何者だ?
「まだだ」
「ボクもう待ちくたびれちゃったよ」
「もうちょっとだぁーよ」
奥から声が。この声……どこかで。
「戻ったのか、S級」
「ええ、ただ今」
S級!? S級と言ったか!?
「ああ、魔獣王はそろそろだ。待っていろ……人間」
ニヤリと笑った。
魔獣王!? S級!? 分からないことが多すぎる!
「誰だ?」
まだ誰か来るのか!? くそっ、もう少し調査を……!
「お前だ。そこのお前」
誰のことを言っているんだ?
「魔法で聞き耳立ててるお前だ。何者だ?」
ぞわっと寒気が走る。
まさか……俺か!?
「魔王様、情報が」
「ああ、分かっている」
急げ! 魔法を切れ! 早くしろ!
「死ね」
その言葉を最後に通信を切った。
「危なかっ――」
「きゃああっ!」
★ ★ ★
ギルド本部。
諜報科の人間の死亡が確認。全身からの出血。
死因は失血死。原因、不明。
謎のメモを残して死亡。
内容は、『スパイ』『魔獣王』とのみ。
解読不可。引き続き調査を進める。
これにて王国編完結です! 次は英国へ!
王国編は迷宮だらけになってしまいました……英国編はもっと色々な人物が登場します。乞うご期待!
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