三十四話 『大迷宮との別れ』
奇襲……完璧だと思ったんですけどネ~。
「まさかの身代わりの魔導具ですカ」
「卑怯者め」
「戦略だ」
キング、聞こえますカ?
『ああ、聞こえる』
「こっちはいいので、あれ頼みまス」
『……了解した』
キングも準備完了……。
「戦闘開始ですネ」
★ ★ ★
前に飛び出シ、刃渡り20㎝の爪を振るウ。
「見えてるぞ!」
体をのけ反らセ、剣を返されル。
爪で受け流シ、次の一手……。
「『携帯ライト』」
「ナイスでス!」
後ろから強い光! 私を眩しくて見えないでしょウ!
「小賢しい!」
後ろに飛びながら鞘と剣でガード……。
流石に一筋縄じゃいきませんカ。
でモ……まだですヨ?
「――さよなら」
隠密で後ろに隠れてからの短刀での奇襲!
前からは私の凶爪!
「取りましタ!」
「甘めぇよ!」
体を下げ、私の爪を回避。
同時に剣を背中に回し、シン君の短刀を受け止める。
乾いた金属音が鳴り響く。
「後ろ向きなのになんで分かるんですカ」
「長年の勘だな」
体を下げた状態への私の右蹴リ。
寸前で鞘を顎と足の間にねじ込まれル。
咄嗟に左足で回し蹴リ。
不利な体勢だったのもあリ、流石に当たりましたネ。
「ったく危ねぇな」
「アリス!」
後ろ手の剣で短刀を飛ばシ、上段からの凶刃!
「クッ!」
咄嗟に腕でガードするガ、肉が裂ケ、血が滴ル。
超絶技ですネ。
「『エクスプロージョン』!」
「何……?!」
黒狼の魔力を使って魔法を発動。
体勢を立て直さなけれバ。
「シン君、came on!」
「ん」
爆発直後に後ろに下がり距離を取ル。
キング、まだですカ?
『もう少し粘れ』
「了解でス」
「魔力、使い切ってなかったの?」
「これは黒狼の魔力でス。私のはもうとっくニ」
「魔力が二人分あるんだ」
「私の中にもう一人いる感じですヨ」
来ますネ、あれくらってモ。
「散開するよ」
「OK」
奴が駆けるのと同時に左右に散開。
「右か!」
「……『幻影』」
あなたが切り裂いたのハ……私の幻!
本物ハ……――
「こっちでス!」
幻影、私の幻を作り出す魔法!
剣振り切った瞬間、不可避でス!
「くそっ!」
体を咄嗟にずらすが間に合いませン。
左腕を抉る感触が手に伝わル。
奴が後ろに下がる瞬間、頸に死の鎌がかかる。
「とった」
「あぁ?」
意識外から頸に短刀が迫る。
気配を隠し、必殺のタイミングに出現する黒コート。まさに――
「Reaper、ですネ」
「ぐっ!」
「――」
左肘に短刀が突き刺さる。
瞬時に引き抜き、右も――
「右は、どらせねぇ!」
強烈な肘打ちが繰り出される。
咄嗟に避けたが、絶好の機会を逃してしまう。
「あーあ、ごめん」
「左だけで十分ですヨ」
それニ――
「キング?」
『もういいぞ』
彼に向かってウィンク。
指文字でカウントダウンが始まル。
シン君も気づいたみたいですネ。
3、2、1――
「――真打登場!」
「ナイス!」
「いくよ」
盗賊の後ろかラ、屍だった者の攻撃ガ――
「「アーロン!」」
――詰めの一手ですネ。
★ ★ ★
断続的な戦闘音が聞こえる。
いや、なんで聞こえてんだ? 意識無かったはずだが。
体の痛みが和らいでいく。アリスか。
でもアリス魔法使ってるぞ? 同時には……。
ああ、黒狼が担当してんのか。
回復は戦闘に混ざれってことだな?
一番ダメージを与えられる、決定的なタイミングで。
やっと目を開けられた。
辺り一帯は死屍累々……。加えてアリスの半黒狼化。
そうか、黒狼の力を借りたのか。
で、今戦ってる奴が最後な訳だ。
見た感じ中々強いな。
体は……そろそろ動く。意識もバッチリ。
戦闘音が止まる。このチャンスを逃してたまるか。
指でカウントダウン。アリスは気付いたな。
あ、シンも気付いた。
3、2、1……今だ!
「……真打登場!」
「ナイス!」
「いくよ」
『へビリティ』で高速で横に落ちる。
『ゼログラビティ』『へビリティ』
一瞬の間も与えずに、完全フリーの側頭部へ鉄拳が炸裂する。
「ぐがっ!」
「『レビティ』」
振り向き様に薙がれる剣を飛び上がって回避。
上で反転。
「『へビリティ』」
隕石のごとく奴向かって踵落とし。
「この野郎――ッ!」
「紙か?」
手で受けられたが、当然のごとく砕く。
左腕はもうダメだな。
「うらぁ!」
「『プレッシャー』」
振りかぶる右手を重力で押さえつける。
右手だけだったら完封できる!
「終わりだな」
「サンキュでス!」
「流石」
無防備な身体に三人で連続のラッシュ。
盗賊団の長の意識を――刈り取った。
★ ★ ★
「アーロン、大丈夫ですカ?」
「ずっと回復してくれてたからな」
「何よりでス」
「ラルフは?」
倒れたままのラルフに目を向ける。
弱々しいが、手でグッドサイン。大丈夫か。
「近接戦闘はやっぱアーロン強いね」
「シンたちよりは一日の長があるからな」
師匠のアドバイス凄いんだよな。的確で。
何気に遊びで動体視力上がってるし。
……悔しいけど。
「ラルフ拾って帰ろう」
「俺が浮かせるよ」
「Please」
★ ★ ★
「やっと――」
「地上や……」
「今回は収穫有だね」
「A級素材取れましたシ――」
シンが引き摺ってるものを見つめる。
「盗賊、捕まえたし」
「……てめえら……」
「無駄。麻痺毒を刺してるから」
「じャ、帰りましょウ!」
「「おおー!」」
★ ★ ★
「戻りましたー」
盗賊を引き摺ったままギルドに入る。
道ではめっちゃ見られたな。
……騎士団に職質されたし。
「あ、アーロンさんたち、お疲れ様です」
「……それは何か聞いていいですか?」
目、凍ってますよ。
「先輩! これ!」
「ん? んんー?」
後輩さんが奥から一枚の紙を持ってくる。
先輩さんがそれを怪訝な目で見た後……思い至ったように手を打った。
「あなたたち!」
「「「はい!」」」
「お手柄です!」
知ってます! 捕まえたんですもん!
「そいつは……かの『迷宮狩り』です!」
「何ですって?」
随分とかっこいい二つ名じゃないか。
「迷宮を荒らしまわる盗賊ですよ!」
「はあ」
「注意喚起するのを忘れていました。手強かったでしょう」
「Yes」
「元A級パーティーのリーダーだったんです。ギルドでも苦戦していまして……」
これ勝てたの凄いんじゃない?
「賞金あったりせーへん?」
「出ますよ!」
手配書の下の部分を指さす。
えーっと……。
見ていて桁の多さに愕然とする。まさか――
「金貨30枚です!」
「「「「……おおーー!」」」」
「さらに!」
「「「「さらに?」」」
「A級素材の買取で合計金貨40枚!」
「「「「おおっ!」」」」
「合計金貨70枚です!」
「「「「おおおーーっ!」」」」
「お、大金持ちだ!」
「豪遊すんで~!」
「ギルドでお祝いしましょウ!」
「金の心配が消えた……!」
「取り敢えずお祝いや! 俺の奢りで!」
「「「サンキュ!」」」
テーブルに付き、メニュー表を見る。
銀貨1枚とか余裕じゃねぇか! 笑いが止まらねぇ!
「こっからここ全部で頼むわ」
「かしこまりました」
「ラルフ、太っ腹!」
「やろ?」
「すみません、アリスさん宛てにお手紙が届いてます」
お姉さんが高そうな封筒をアリスに手渡す。
「マミーからでス」
「どんな内容?」
「えーっト……――」
『Hello Alice
How are you?
久し振りね、アリス。色々話すことは会ってからにしましょう。
本題に入るわ。
一週間後、ユナイト英国でS級冒険者たちによる特訓会のようなものがあるわ。
私のコネで許可は得られたわ。
もし強くなりたいのならいらっしゃい。歓迎するわ。
ああ、宿は家で泊めてあげるからお仲間さんと一緒にいらっしゃい――
「なんやて!? 凄いやないか!」
「アリスの親御さんって……何者?」
「まだ二枚目が――」
『そう、約束の婚約者と一緒にね』
「「「……は?」」」




