三十三話 『ダブルス』
「『黒縛憑依』!」
その言葉と共ニ、キングが私に憑依すル。
全部獣化したらただのB級、奴には敵わなイ。
でモ、混ぜたラ、二人なラ!
両手両足に黒い毛と鋭い爪、尻尾まで生えル。
筋肉量が増大シ、手と足は黒狼ですネ。
『避けよ』
鞘が振り下ろされる瞬間バックステップ。
今までとは比較にならないスピードで回避すル。
「怪我、治ってますネ」
『半分我の体だからな』
「残り二十人――」
『雑魚から仕留めるぞ』
視界が共有されまス。酔いそうでス。
『最後尾からだ』
「OK」
身体強化の魔法だけかけル。こっからハ……近接戦闘でス。
★ ★ ★
五感が鋭敏になったようでス。視界も広がりましタ。
後ろからの風切り音――
『右だ』
「えエ」
指示通り右に回避。隣を凶刃が通過すル。
『前へ』
ボスを無視して雑魚どもに突貫すル。
ちょっとの怪我は許してくださイ。
『右に二人、左に三人』
「後ろの警戒お願いしまス」
まずは右からでス。
一人目のナイフを躱シ、そのまま奥ヘ。
咄嗟で固まってる奴を側頭部への回し蹴りで落とス。
『後ろだ』
「了解」
抜いた一人目のナイフをもう一度しゃがんで回避。
一瞬の躊躇――
『たわけ』
「分かってまス」
覚悟は決めましタ。
鋭い爪デ、ナイフを持つ手を切り落とス。
「あ?」
ゆっくりと手首が落下する。
一瞬遅れて断面から血が噴水のように噴き出す。
「ぎゃあああ!」
「すみませんネ」
まだでス。
右を終えたので左の三人。
「後ろハ?」
『あと数秒で到着だ」
数秒で片付ければいいんですネ?
正面突破でス。
「うげっ!」
一人目の顔を鷲掴みにシ、力の限り二人目に投げつけル。
「は、はぁ……」
「すみませんッ!」
勢いのまま跳び膝蹴リ。
顎を直撃シ、意識を奪ウ。
『後ろ五人だ』
「了解」
数秒たちましたカ。
「後ろどのくらイ?」
『一歩強だ』
「了解でス」
後ろ向きのまま踏み込ミ、後ろ手で肘打チ。
キングの指示通りクリーンヒットでス。
「このっ!」
「化け物がっ!」
『左と右に分かれたぞ。二人ずつだ』
「えエ」
反転。
倒した者を盾にして右からの攻撃を防グ。
盾として機能する数瞬で左をやりますカ。
「右見といテ」
『承知した』
蜘蛛のように低い姿勢で横薙ぎに振られるナイフを回避。
振り切ったところで下からのアッパーカット。
一人目を奥に投げつケ、左完了。
『来るぞ』
右から二人……。
『危ない!』
体が勝手に動キ、横からの矢を回避。
キングが避けてくれましたカ。
「射手を落としたいですネ」
『こっちを速めに頼む』
攻撃を避けながら二人の間を通過すル。
通るとき腕を振るったのデ、一瞬遅れて血しぶきが上がりまス。
「殺してませんよネ?」
『……恐らく』
射手を片付けに走ル。
真正面から矢が飛んで来まス。
『左だ!』
「上ですネ」
キングを無視しテ、空中に躍り出ル。
「格好の的だぜ!」
『この馬鹿!』
「いいんですヨ」
「『空力』」
空中を足場にシ、斜め横に飛ブ。物理法則無視の魔法。
『これは……』
「Yes、黒狼の固有魔法でス」
単純ですガ、初見での意外性は半端じゃないはずでス。
「その弓、貰いまス!」
射手の近くに着地、弓と腕を切り裂いていク。
「ひっ!」
「危ねぇぞ!」
「魔法は使うな!」
全員こっちを向きますガ、仲間が邪魔で魔法打てませんよネ?
敵の隙間を搔い潜りながら腕ヲ、足を乱雑に切り裂ク。
密集してるので楽勝ですネ。
残像すら残さないスピードデ、九人、奴以外をものの数秒で殲滅しタ。
★ ★ ★
「おおぉ……!」
拍手……? 倒れてるの仲間ですよネ?
「いいな、お前。一瞬で壊滅させるとは」
「この人たちは仲間でしょウ」
「少し、語弊がある――」
血だまりヲ、頭や腕を踏みつけに進撃してくル。
「――道具だ」
「……あなた人間ですカ?」
「お前もただの玩具かと思っていたのを謝ろう」
「No thank you」
謝罪とかいらないんで帰ってもらえませン? 疲れてるんですヨ。
「冒険者時代のような血沸き肉躍る興奮だ!」
「冒険者……だったんですカ」
「ああ、身体強化の魔法だったからな。勝ち組だ」
なんで道を踏み外したんでしょウ。
身体強化とカ、本当に勝ち組なのニ。
「俺たちは盗賊に襲われたんだよ」
「そこ恨むところじゃありませン?」
「俺たちはA級だったんだ――」
普通に凄腕じゃないですカ。
「なのに負けた」
「だからそこ復讐を誓う場面じゃないですカ?」
「A級に勝つ盗賊! 光が見えたんだ!」
ああ、もう狂人ですネ。更生は無理そうでス。
「あなたを全力で叩き潰しますヨ」
「おう! 来い!」
獰猛な笑ミ……。戦うの楽しみなんでしょうカ。
少々罪悪感ですネ。
「やってくださイ、シン君」
「ん」
「なっ!」
「気絶用魔導具、『スタンガン』!」
隠密で後ろから近付いてきたシン君。
時間稼ぎ成功ですネ。
首筋に電気を流す魔導具が刺さル。
一瞬痙攣、地面に倒れこみましタ!
「やったか」
「やったでしょウ!」
手を取り合った瞬間――
『まだだ!』
「フラグって知ってるか?」
ナ!?
抜かれた真剣、全力回避!
「つゥ!」
「なっ!」
受け身を取リ、戦闘態勢。
なんでダメージが入ってないんですカ!?
「ああ、驚いたぜ」
「……魔導具か」
「ご名答」
手の中から落ちるのは割れたペンダント。
「『エクスチェンジ』、身代わりの魔導具だ」
「……奇襲、失敗ですカ」
「正面戦闘、だね」
「やってくれたな! 殺してやるよ」




