三十二話 『絶望と劣等の淵から』
「ここハ……」
「精神世界だ。現実では時間は止まっている」
「何故呼んダ」
ボロ負け確定。惨めで無様だったろうニ。
「面白くはないだろウ」
「ああ、ひどく不快じゃな」
溜め息をつきながら寝転がル。
どうせ現実に戻ったら地獄からの死でしょウ。
「貴様は死にたいのか」
「そう思いますカ?」
「貴様からは覇気が見受けられん」
覇気、ですカ。事実、私はもう諦めているのかもしれませン。
「我を制する異常なまでの執念。そこが唯一の取柄だろう」
「今だったら体を乗っ取れますカ」
「いとも簡単じゃな」
唯一の取柄……奴には通じなイ。
何の役にも立たなかっタ。
「私、戦えないんですヨ」
「……」
「どこまでいっても器用貧乏。オリジナルには敵いませン」
「……だから、どうしたというのか」
エ? お話を聞いていなかったのですカ?
「貴様に潜むのは劣等感だな」
「えエ、うちのメンバーは凄いですヨ」
ラルフ、リーダーで魔剣使イ、強いでス。
アーロン、圧倒的な魔術師でス。
シン君、多彩な魔導具が強いでス。
私は……? 誇れるものは何もなイ。
「魔法も中途半端。体術もできない。何が残っていますカ?」
「清々しいまでの自虐じゃな」
「事実なんですヨ」
私の魔法は強くなイ。嫌がらせ程度でス。
やはり私は彼らと肩を並べられなイ。
「ではなぜリーダーはお前を引き入れた?」
「昔は強いんですヨ。この魔法」
進化しきっていない魔法では私の多彩さに敵いませン。
でも今じゃ私が相手になりませン。
「それでいいのか?」
「いいわけないでしょウ!」
私だって彼らに近づきたイ!
強くなりたイ!
こんな奴ら倒せるS級になりたイ!
「でモ、できませン」
頬を涙が伝ル。
悔しイ、悔しイ、自分に腹が立ツ!
「私ハ、私が嫌いでス」
何もなせなイ。何も出来なイ!
理想ばっかり高くて現実が見えてなイ!
パーティーの足手まといでしかなイ!
回復も、命を繋げることしかできなイ。
サイクロプスの時、私が戦えたラ、ラルフは怪我しなかっタ。
奇襲を分かれバ、アーロンは怪我しなかっタ!
「私の家、有名な貴族なんですヨ」
家族は私の魔法を「凄いね」と言ってくれタ。
だから冒険者になるのも許可してくれタ。
私に期待してくれていタ。
でも、実際今死にかけでス。
私は……出来損ないでしタ。
「いっそ、今仲間と引き換えに死んだ方ガ――」
「たわけ」
「ッ!」
頬を張られル。
小気味いい音がきれいに鳴り響いタ。
「何ヲ――」
「この阿呆が。貴様が死んだら我も死ぬのだぞ」
黙りこくっていたキングが感情を露わにして語り掛けてくル。
「我の主がそんなひ弱でどうする」
「この魔獣――」
「我との対話で豪語したことを忘れたのか」
(……私ハ……魔王を殺シ、伝説となル!)
「その言葉まで嘘だというのか?」
「そんなわケ、ないでしょウ」
「もう一度問おう。なぜリーダーは貴様を入れた?」
「だからその時ハ――」
「違うな」
何だト?
「貴様らのリーダーは慧眼だ」
「だから何ですカ」
「貴様を入れたのは、貴様に何かを見出したから、期待したからだ」
「貴様とだったら魔王を倒せる、そう感じたからだ」
「その期待に、貴様は何で答える!」
「……私ハ――」
「弱弱しい自虐はやめろ! もっと傲慢に、強欲になれ!」
「私ハ! 何ガ……?」
しばしの沈黙が下りル。
「リーダーには、魔剣と、魔法がある」
「えエ」
「赤ローブには、圧倒的な魔法がある」
「えエ」
「貴様の想い人には、魔導具がある」
「何ですカ!」
「貴様には! 我がいる!」
はイ? 何を言ってるんですカ?
「魔法がない? 体術ができない? なら! 我を使え!」
「キング……?」
「足りないんだろう! 分かってるだろう! なら!――」
初めて感じるキングの感情の高ぶり。
「我を頼れ! 一心同体なのだから!」
恋したわけじゃなイ。でモ、その咆哮ニ――
「かっこいイ、ですネ」
たかがB級? なら考えロ!
どちらも一人じゃできなイ、なラ! 二人デ!
「いけるな?」
「えエ、もちろン」
「我を呼び出すときはこう叫べ――」
精神世界から抜け出シ、現実に戻ル。
鞘が振られる瞬間、私は覇気を込めてこう叫ブ――
「『黒縛憑依』!」
キングが顕現すル。




