三十一話 『劣等感』
「アリス……」
「何ですカ、シン君」
アーロンとラルフとA級素材、どうやって持って帰りましょうカ。
「めっちゃ情けないと思うんだけど」
「大丈夫ですヨ」
「俺も立てないから……頼む」
Really?
★ ★ ★
仕方ないとはいえどうしましょウ。
『我の力を欲するか?』
アー。面倒くさそうなのが来ましたネ。
『聞こえてるぞ』
「厄介なことでス」
精神で繋がってるから心の声が聞こえるんですカ。
『その通りだ』
「もしかして普段も聞いてるんですカ?」
『常時ではないがな。貴様があの男を――』
「祓って貰いましょウ」
『なんと心が狭いのか』
戦闘中には声も掛けなかったくせニ……。調子いいですネ。
『貴様には必要なかったであろう』
「いりませんでしたけド」
シン君たちを運ぶの困ってるからきたんですカ?
『その通り。運ぶ術がなかろう』
「身体強化すればNo problemでス」
『素直でないな』
「一生大人しくしててくださイ」
『暇』
「侵食禁止!」
確かに黒狼になれば力も強くなるでしょうガ。
そのまま乗っ取られるかもしれませんシ。
なによりあいつを信用してませン。
「『身体強化』」
仕方なイ、かなり辛いですがこれで三人と素材を回収でス。
★ ★ ★
重っも! 歩くのが精一杯でス!
気配感知で全力で魔獣を回避しながら進んでいく。
戦闘になったらアウトでス。
「アーロン、目覚めたりしないですよネ」
『気絶中だ』
「重力で軽くなれば楽なんですけド」
『怪我人だぞ。鬼か』
上から目線ヲ……!
「はァ、ちょっと休憩でス」
三人を地面に置き、座り込ム。
まだ二階層なので油断も隙もあったもんじゃなイ。
身体強化してても腕が痛イ。筋肉痛確定ですネ。
『右、来るぞ』
「休憩即終了ですカ!」
気配感知、ウィザースケルトンですカ!
ちょっと邪魔しないでもらいたかったですネ!
三人を抱えてダッシュ。一階層のボス部屋まで一気に向かウ。
「はァ、はァ、やっと着きましタ」
『大儀であった』
「お前に言ってませン」
まだ皆気絶してますネ。
サイクロプスの棍棒とウィザースケルトンの頭も無事ですネ。
『扉の前に誰かいるぞ』
「入ってこようとしてるんでしょうカ」
確かに気配感知に反応。
一人……じゃないですネ。
「ボス、本当にここで待つんですかい?」
「ああ、二階層から高級素材持ってる奴がここ通る」
「あなたたチ……何者ですカ?」
随分と物騒な会話ですネ。
「ほら、言っただろ」
「流石です、ボス!」
「へへ、やっちまいますか?」
「A級素材持ってますぜ!」
「しかもお仲間は気絶中だ!」
もしかして戦闘になっちゃうpatternですカ?
「おい、女」
「何でしょウ」
「今すぐ金目の物全部置いてけ。命は助けてやる」
「断ったラ?」
ナイフをちらつかせ――
「殺し合いだ」
「疲れてるんで手短ニ」
即断ル。素材を渡してたまるカ。
「断ってるとみていいんだな?」
「国語力ないんですカ」
「死にやがれくそアマ」
いけ、と子分たちにゴーサイン。
三十人ぐらいですカ。意外とやばいかもしれませン。
「疲れてるんですヨ」
「『スティール』!」
……何も発動し――
「素材取ったり!」
「盗賊スキルですカ!」
チッ、取られた。しかも逃げられる!
「死ねぇ!」
頸を搔き切るようにナイフが振られる。
お返しでス。
「『スティール』」
ナイフを盗リ、私の手の中ヘ。
ナイフが消えて驚いてますネ。
振りかぶられた空の手にナイフを突き刺す。
「ぐあぁぁっ!」
「「この野郎!」」
右と左から一人ずツ……。
「『炎弾』『水弾』『電撃』」
右を炎弾で牽制。
左を水を顔に掛けてからの電撃で意識を落とス。
続き様に撃ってくる攻撃を後ろに逃げて回避。
ある程度距離が離れたところデ――
「『エクスプロージョン』!」
魔力を大量に持ってかれル。
けど今ので数人戦闘不能でス。
まだまだッ――
「『スティール』!」
「は、何を」
私の手にはシン君製爆弾。
ピンを飛ばシ、投げつけル。
「ッ――!」
轟く爆発音。地面を抉りとル。
「もう一発――」
残り二十人程!
「いい加減に――」
「ア?」
ボスだった奴が視界から消えル。
「――しやがれ」
「キャッ!」
鞘で側頭部を殴られタ。
意味不明なスピードと威力でス……。
やばイ、ふらつキ――
「おい」
「いッ!」
後ろ……、反応できなイ。体が動かなイ。
背中を強打されル。痺レ、――
「おいおいおい」
「ッ! クッ!」
腹を突かれル。内臓が抉れるような痛ミ……。
肩が脱臼すル。
腕の骨が砕けル。
脇腹を殴打さレ、大量の吐血。
足の骨が割れタ。
「ああああッ!」
強すぎル。戦闘態勢ガ……取れなイ。
私ハ……アーロンのようにモ、ラルフのようにモ、シン君のようにも強くなイ。
ただの回復要員でしかなイ。
その回復だって中途半端ダ。
肩を殴打さレ、腕を折らレ、腹を四方八方から殴られル。
他は手出ししなイ。蹂躙劇だからダ。
たかが盗賊団なのニ……!
血を吐ク。膝を折ったら下から跳ね上げられル。
倒れそうになる瞬間強打されて倒れられなイ。
痛イ、苦しイ、熱イ、気持ち悪イ。
地獄ダ。
「うぅッ!」
皆S級を目指しているのに私はなれル?
ここにいるのがアーロンだったラ、ラルフだったラ、シン君だったらこんな盗賊位倒せてるんじゃなイ?
劣等感。私は弱イ。私は彼らニ……なれなイ!
「ああああああッ!」
『無様だな、貴様』
突如、精神世界に飛ばされた。




