二十九話 『繋がれた本命』
不可避かつ不可視の刀をサイクロプスの目に突き刺す。
「ウオオオオッ!」
「避けられへんやろ」
一歩も動かずにインビジブルソードで皮を削る。
「相変わらず固いなぁ」
でも、削りきんで!
光速であっという間に全身を削り尽くす。
でも、あかんな。ダメージになってへん。
「ラルフ! 来るぞ!」
「ああ!」
やっぱし予想通りやな。これで倒せるなら苦労してへん。
まあ、俺でも同じことするしなぁ。
インビジブルソードを意に介さずこっちに突っ込んでくる。
「こっからが勝負やな、デカブツ!」
「ウオオッ!」
棍棒をすんでで見切り、懐に潜る。
二刀流の方も間合いやで!
「とった――」
「足でス!」
……蹴りかっ!
「ッ!」
寸前でのけ反り、蹴りを躱す。やば、顎に掠っ――
後ろに強制的に引き戻される。瞬間、地を割る打撃が炸裂。あっぶな。
「サンキュや、アーロン」
「すまん、流石に戦えんからな」
「最初の奇襲避けてくれただけで十分や」
たまにくる意識外の攻撃が怖すぎんな。
顎に掠っただけでめまいがする程や。
「できれば遠距離がええねんけど」
インビジブルソード、縦横無尽に動かしてるがまるで効果なしか。
金剛がやばすぎんねん。
「二刀流の方で攻めるしかないわなぁ」
「できんの?」
「やってたからな」
サイクロプスが駆け出す。
おしゃべりはここまでやな。
「来い」
双流剣術独特の構え。
攻撃のため腕を振り上げる。恰好の的やで。
「双流剣術 『十薙ぎ』」
二本の剣で十字に切り裂く。
腕と足の合間を縫う正確な攻撃。
一瞬遅れてくる腕をバックステップで回避。
ヒットアンドアウェイじゃないと勝ち目がないねん。
「一瞬腕押さえるぞ」
攻撃の隙をか? 助かる!
「頼むわ!」
「おう」
横薙ぎに振られる腕が一瞬動かなくなる。その隙で――
「十分や!」
双流剣術 『縦横円斬』
踏み込みと同時に縦の回転切りで鼻先を切り裂く。
奴は下がるが、ちょっと遅いな。
勢いのまま横回転切りで後頭部に斬撃。
しかし――
「後ロ!」
あかん! 振り向きざまの棍棒やと!?
「くっ!」
インビジブルソードを体と棍棒の間に捻じりこむ。
間一髪、インビジブルソードが砕け散る。体はギリギリセーフや。
「全く効いてへんのかい」
「ウオオオオ!」
魔剣がなかったらスプラッタやで、今の。
「しかも補充無しかいな」
「二本目出ないのかっ」
連続の突きを大剣で受け流す。
攻撃に転じれへん。密度がえぐいな。
「ぐおおっ!」
「ウオオゥ!」
大剣で防御、魔剣で目狙え!
しかし、後少し届かない。攻撃の密度に阻まれる。
魔剣も防御に回さな即ゲームオーバーや。無理やん。
「チイッ!」
くそっ! 大剣が余波で吹き飛ぶ。
魔剣一本? まずすぎる。
「回復終わりましタ!」
「頼むわ!」
棍棒の攻撃を倒れこむことで躱す。次の突きが――
「やべ、死んだわ」
「グオオオオオッ!」
うつ伏せの状態で、必殺の蹴りが体を抉る。
肋骨? そんなレベルやない。
蹴りの勢いのまま、壁に叩きつけられる。
目の前が真っ赤になるが、痛みで逆に気を失えへん。
背中を強打し、全身の感覚がない。やば。
膝から倒れこむが、力を振り絞ってシンに問う。
「ラルフ! 大丈夫……じゃないな」
「シン……できたか?」
腹の中が燃えてるように熱く、視界が明滅している。
「大丈夫、寝てろ」
「よかった……わ」
体がふわふわする、これは……回復魔法か。
「サンキュ、アリス」
「シン君一人じゃラルフの二の舞でス! 早くしないト!」
「アリスがいねぇと攻撃はできひんかもなぁ」
シンと言えどあれを一人で圧倒すんのは無理や。爆弾も効果薄そうやしな。
「でも、回避の方は安心し」
「Why?」
「何のために命張って時間稼ぎした思てんねん」
シンの本領は魔導具だけやないってことや。
★ ★ ★
ほぼ瀕死のラルフ。でもありがとう。
おかげで、戦闘方程式が完成した。
さてと――
「戦闘開始だ、サイクロプス」
二人の落とし前、払ってね。
棍棒を振りかざしてくる。
一回当たったら即終了。攻撃は通じない。どうやって突破するのか。
今この瞬間成長する、悪くないけど生憎俺はそんな主人公じゃない。
緻密に積み重ねるデータと計算。
成長できなくても、今、戦う手段を探す。それが俺の――
「戦闘方程式」
でかい一つ目を睨み返す。
「舐めるなよ」
確かに速いし避けにくい。でも――
攻撃の合間を縫い、真正面から短剣で目を切り裂く。ちょっと浅いか。
「癖、目線、心拍、呼吸のタイミング、利き腕、利き足、筋肉の動き」
堂々と奴の後ろから説教する。
「攻撃の速さ、威力、範囲、隙」
お前の攻撃はもう当たらないよ。もう知ってる。
「よく見ていれば戦闘はただの数学、物理学だ」
絶対に当たらない安全圏、絶対に生まれる隙がある。
「遅いだろ、俺。でも当たらない」
相手の全てを予測し、掌に載せる。それが、戦闘方程式。




