二十七話 『再来の大迷宮』
俺らは――
「IN THE――」
「大迷宮や~!」
瀕死の重体から生き残ってたった一週間。
「戻ってきた」
「恐怖って感情はあんのか、お前ら」
トラウマ? 何それおいしいの状態。
「頑張るで~!」
「お~ウ!」
大迷宮に戻ってきた馬鹿パーティーである。
★ ★ ★
「準備怠ったあかんで」
「アリス、OKでス!」
「俺も」
「俺もできたよっと」
「いざ、大迷宮へ――」
「「「「出発!」」」」
「今から考えると人狼って雑魚やな」
「油断ダメですヨ」
「でも事実」
「冷静に見て余裕だな」
あの黒狼の群れに比べれば余裕すぎる。
マジ今でも夢に出るレベルで悪夢だ。
「気配感知に反応でス」
「何?」
「人狼でス」
「迎え撃つぞ」
正面から風切り音。来るっ!
「『プレッシャー』」
下向きの最大重力を人狼に。
「ガウッ!」
「ナイスや、アーロン」
地面に叩きつけられた人狼に、ラルフが剣を突きさす。
「討伐完了、やな」
「マジで簡単」
「……ですネ」
★ ★ ★
「ボス部屋やけど……」
「一回クリアしたけど」
「次も出現すんのか?」
「素材製造機じゃないですカ」
確かに。出入りすれば無限に素材が……!
「金欠解消に最高だね」
「鬼ですカ」
「入るで」
「ん」
ゆっくりとボス部屋の扉を開ける。が――
「何も出ないんやな」
「金欠解消機が……!」
「そこなの!? アーロン!」
シン初ツッコミかも。
「皆トラップの位置とかは?」
「覚えてる」
「なら出発や!」
悪夢の二階層へ一歩を踏み出した。
★ ★ ★
「流石にこっからは全力警戒やで」
「えエ」
周囲の音に耳を傾ける。弓を引く音、要チェック。
「アリスは気配感知を全力で」
「明かりは俺が」
「サンキューや」
シンがコートの中から筒状のを出す。
「俺特製『携帯ライト』」
前方が一気に照らされる。
「「「おおっ!」」」
「流石シンや!」
「オールラウンダーですネ……」
「相変わらず凄いの作るな」
顔、赤いぞ? 明るいからばっちり見える。
『キリ』
一瞬にしてその音で現実に引き戻される。
「避けろ!」
『プレッシャー』、全員を横にぶっ飛ばす。
「って、あっぶな!」
「サンキュや!」
「ウィザースケルトンでス!」
対策はしただろ! ウィザースケルトンは矢が異常に上手い。だから――
「俺が矢をずらす! 先に行け!」
「……了解や!」
「付いてきて」
上手すぎる、故にちょっと重力でずらせば必ず外れる。
「カラララ?」
「ざまあ、だな!」
必死に考えたんだ! お前を破るためにな!
「こっちや!」
「おう!」
後ろに下がりながら矢を捌ききる。
「シン!」
「爆ぜろっ!」
導火線がない手榴弾! 矢もずらす!
「ガララッ!」
「当たった!」
「殺りますカ?」
「殺ろうぜ!」
A級魔獣の素材は約金貨20枚! 最高のコスパだ!
「分かったで!」
煙が晴れ、死神のような視線が突き刺さる。
「物凄い殺気だな」
「もう一発投げる」
「援護する」
無数の矢を必死にずらし続ける。
「散れ」
焼夷弾が炸裂する。ウィザースケルトンを炎が包み込む。
「ガララ?」
「『オーバーホール』」
アリスの新魔法……?
「ガラッ!」
空気が爆ぜた。爆発の魔法か?
「ナイスでス、シン君!」
「終わりや! ウィザースケルトン!」
「いけ!」
ラルフが心臓部を貫く。目から生気が消え、ただの骸と化した。
「ふー、アーロンがいて助かったわ」
「矢、当たらなかったもんね」
「サンキュでス!」
あの数日間、必死に策を講じた甲斐があったな。
「皆いなきゃやばかったよ」
「アリスのあの魔法は何なん?」
「あれは分解の魔法でス」
「「「分解?」」」
爆発系じゃなかったのか。
「空気中の水蒸気を酸素と水素に分解したんですヨ」
「俺の炎がそれを燃やしたの?」
「えエ。そうすると大爆発するんですヨ。サンキュでス!」
アリスの魔法……組み合わせとかでA級にも届くのか。よかったな。
「そして――」
「二階層のボス部屋、か」
「気配感知で戦闘は避けたけど……」
「これは不可避ですネ」
一階層より禍々しい雰囲気……S級魔獣でも出てきたらどうしよう。
「ホンマにここ入る?」
「人はギリギリの実戦で強くなる」
「限界なんて軽く超えないト――」
「魔王になんて届かない」
手袋を嵌めなおす。
「行こうぜ、ラルフ」
ドアが開かれる。
★ ★ ★
中はあの部屋と同じ、神殿のような造りだった。
手前から紫色の灯火が付いていく。未来と逆に幻想的な光景だ。
「あれ……?」
「何もいなイ……ですネ」
「前行こう」
最後尾から前に進みだす。
三歩目、寒気が。やばい、死――
「逃げろ!」
「「「え?」」」
俺以外の全員、振り向いた瞬間絶句した。何がいるんだ!?
「『プレッシャー』っ!」
俺含め、全員前に落とす。でも……間に合わ――
「ぐっは……!」
肋骨が思いっきり折れる音。内臓が傷つき、大量の吐血。やばい、死ぬかも。
「サイクロプス……かよ」
天井から落ちてきて棍棒で殴られた? 不可避じゃねぇか。
「後……頼むぜ」
「「「アーロン!」」」
意識が落ちた。




