二十六話 『武器革命』
「魔導具整備の店……ここか?」
ギルドで聞いた店のドアを開く。
「ダリヤ魔導具店にようこそ!」
「こんにちは」
「どんなご用件で?」
「ああ、整備をお願いします」
「はい、そこ座っててください」
洒落た雰囲気だな。明るい。
「どれですか~?」
「この手袋と靴です」
「拝見しま~す」
虫眼鏡を使って何見てんだ。虫眼鏡だぞ?
「製作者は誰?」
「リザさんです」
店員さんが真っ青になっていく。
「……冗談でしょう?」
「なんで嘘つくんですか」
「これ……いくらしたんです?」
「貰いものですから」
そっと机の上に魔導具が置かれる。
「ん?」
「リザ冒険者の魔導具って……超高級品ですよ」
んん?
「普通に買えば金貨300枚程です」
レアコイン30枚!? 馬車が買えるぞ!?
「冗談ですか?」
「なんで嘘つくんですか」
デジャブ!
「整備はしなくていいと思います。リザさんのなんで」
「そんなすごいんですか」
「最高級ですね」
「整備いらないぐらい?」
「ええ」
リザさん……化け物ですか!
厳かに受け取り、嵌めなおす。大事にしよう。
「またのご来店をお待ちしてま~す」
「ありがとうございました?」
見てもらっただけだけど。
★ ★ ★
「お、アーロンやないか」
「ラルフ!」
店の正面の大通り沿いに店があったそう。
「どうだった?」
「攻撃用の作ってくれるらしいで」
「よかったじゃねぇか」
「魔導具はどうや?」
「リザさんのは整備いらないって言われた」
「すごすぎんな」
「あの二人と合流しに行こうぜ」
ギルドの中に入ると先に二人が。
「よ、アーロン、ラルフ」
「大丈夫でしたカ?」
「せや、三日後に取りに行くで」
「俺は整備の必要なしらしい。二人は?」
アリスは黒狼の姿になってないが。若干顔赤いし。
「それなんだけど……」
「ちょっと長くなりまス」
「「ん?」」
枝豆を食べる手を止め、向き直る。
「私の黒狼は自我を持っていまス」
「ホンマ?」
「そんなことある?」
「事実でス」
高位の魔獣しか自我は持てないはずだ。黒狼じゃ……。
「そいつは黒狼の王、と自称していまス」
「王……やて?」
「自意識過剰なのか?」
「名前はキングでス」
「アリスが付けた」
ネーミングセンス!
「私の体を乗っ取ろうとしましたガ――」
「されてない、と」
「面白いと感じたから見逃したそうでス」
「「意味分からん」」
「危険は取り敢えず去った、ってこと」
★ ★ ★
「今日機械腕取りに行ってくんで」
「いってらっしゃい」
「で、提案なんやけど」
「何?」
「もう一回あの大迷宮行かへん?」
「正気ですカ?」
勇気と無謀を取り違えてないか? 生きて帰れたのが奇跡だったのに。
「理由はちゃんとあんねん」
「聞こうか」
「まず、アーロンの覚醒やな」
俺が自分以外に重力を掛けられるようになったことか?
「多分期待外れだぞ」
「なんでや?」
あの時は人狼を捻り潰せたが、今じゃそうはいかない。
「あの時はリミッターが外れた状態だったんだ」
「今はそんなできない?」
こくっと頷く。
「どのレベルや?」
「大体この木のコップ破壊できるぐらい」
『プレッシャー』と唱える。意味は重圧、だ。
木のコップに全方向から重力がかかり、ヒビが入る。もうちょい……。
重力が増し、ヒビが増え、コップが……砕け散った。
「すごないか?」
「全然。精々手の骨を折るのがやっと」
体の破壊は、強烈な重力が必要だ。肉片すら残さないためには建物ぐらいは余裕で潰す力が必要だ。
……なんで俺できたんだろう。
「次に俺の機械腕や」
「攻撃用のなんだっけ」
「せや、やから腕より強なるかもしれん」
義手でも本人の技量が変化するわけじゃない。それの補佐だ。
「それでも――」
「そしてアリスの黒狼や」
「私?」
「意思疎通ができるんやったら使いこなすこともできんとちゃう?」
「……やってみましょウ」
「それにシンの魔導具使えば割と行けるんちゃう?」
あまりに強引すぎないか? いつもならもう少し慎重だぞ?
……何か隠してるよな?
「で、本音は?」
目、派手に泳いだぞ。
「――がないねん」
「ん?」
「金が、ないねん!」
衝撃の事実!
「残り金貨数枚や」
「数日分の食費じゃないですカ」
仮にも騎士団長の息子だったから金には困ったことねぇ!
庶民の敵、金欠ってやつか! 現実にあったとは!
「本気でピンチやねん」
「「「大迷宮行こう」」」
背に金は替えられない。全員即決!
「宝箱で一発逆転や!」
「「「おう!」」」
★ ★ ★
ああは言ったがやっぱ危険よなぁ。機械腕に賭けるわ。
鋼の義肢のドアを開け――
「出直してこい」
「なんかの洗礼なん!?」
「悪かったなぁ! 兄ちゃん!」
「ループしてんのか思たわ」
お詫びの茶をすすりながら愚痴をこぼす。このお茶美味いなぁ。
「その茶美味いだろ。高級品だ」
「へぇ、原料は?」
「魔獣の尿」
「ブッーー!」
漫画みたいに勢いよく噴き出してしもた。なんの仕返しや。
「何飲ませんねん!」
「床が……」
「客の心配せえ!」
「美味そうに飲んでたじゃねぇか」
「尿となれば話は別や!」
この店主といるとツッコミに疲れるわ。共和国戻たみたいや。
「もーええわ。機械腕の話や」
「おう、できてんぞ!」
「流石、仕事はプロやわ」
接待技術はゼロやけどな。メイドに謝った方がええ。
「これだ」
「おお、壮観やな」
黒光りする鋼の表面と、機械らしい強そうなフォーム。それに――
「えらい軽いなぁ」
「職人ってことよ!」
「この肘の穴は何や?」
「戦闘用のオプションだ。嵌めたら分かる」
仕上げに腕と神経を繋ぐらしい。痛いそうやけど……。
「準備はいいか?」
「この拷問台みたいなのは何やねん」
左手、両足を固定され、台に貼り付けられる。
「覚悟しろよ?」
「余計に覚悟弱まってきたわ」
どないな儀式始まんねん。
「いくで!」
「は、いっ!?」
右腕にえげつない電流!? 肩もげるっ!
「ガァッ!」
「終わったぞ」
「はぁ、はぁ?」
肩、付いてはる?
肩に触れると、固い感触が伝わる。
「あ、これが」
「そう、お前の機械腕だ!」
金属の冷たい感覚。なのに自分の腕みたいに動く違和感がやばいなぁ。
「腕、無くなったんやなぁ」
★ ★ ★
「で、肘の機能はなんやねん」
「これは加速装置だ。右腕を異常に速く振れる」
「いまいち分からへんな」
「使ってみろ。速く振る! って考えるんだ」
全然説明になってへん。
右腕を……速く!
瞬間、俺の前の空気が切り裂かれた。いや――
「右腕が、めっちゃ速よ動いた?」
「その通り。肘の激発を利用して筋肉の限界を超えて稼働できる」
「機械腕ならではやな」
圧倒的な一撃必殺として使えんな。これで剣振るったらワンパンや。
「クールタイムは約三分。無制限だ」
「凄いな! これで迷宮にも役立つわ!」
「お前……また行くのか?」
まぁ、そうなるわな。迷宮で腕失ったやつが一週間でこれや。
「行くしかないわな。何よりも、強ならな」
金よりも、強さや。魔王の出現まで時間がないねん。多少のリスクは背負わな。
あいつらにはちーっと嘘ついたかもしれへんけど。
「そうか」
「世話になったな。二度と来うへんよう頑張るわ」
「ああ、二度と来んな。あとは――」
あいつが店の壁に掛かっている剣を取り外す。随分と業物やな、武器店とちゃうのに。
「ほれ、これ、持ってけ」
「……何言うとんの?」
店の家宝かなんかやろ? 勝手にあげちゃあかんやろ。
「これはお前のための剣だ」
「本気で頭大丈夫か?」
「まだボケちゃあいねぇなあ」
客に尿出す時点でボケボケや。
「これはリザ嬢の父さんの形見だ」
「リザさんに返せってことやな?」
やっと納得いったわ。言い方が紛らわしすぎんねん。
「違う。お前のだ」
「なんでやねん!」
「リザ嬢の頼みだ」
「『もし私の紹介でこの店に来た奴に、この剣をあげて』、だとよ」
S級の考えてることは全然分からへんなぁ。なんでそうなんねん。
「これは十二魔剣の一本、『インビジブル』。意味は『不可視』」
「十二魔剣やと!?」
「そう、売れば金貨100枚は下らない。伝説の剣の一本だ」
十二魔剣とは、世界に十二本しか存在しない魔剣の一本。
魔剣には特殊な能力が宿ってるって噂や。
「どないな能力や?」
「さあ、知らねぇな」
「ほな――」
「魔剣が教えてくれえるらしいぜ?」
伝説の魔剣、剣士なら夢にまで見る一本が手の届くところにあんねん……!
「(欲しいっ!)」
「この剣は、お前らの生存率を飛躍的に上げる」
「……」
「これを取れ。リザ嬢の期待に、強さで答えろ」
「……ああ。……S級の地位で待っててな、と伝えてといてや!」
俺は、リザさんから魔剣『インビジブル』を継承した。




