二十五話 『進化』
「ここ……とちゃうか?」
『鋼の義肢』を探し始めて着いたのが――
「めっちゃ高級店やないか」
大通りのど真ん中に威風堂々と建っている。嘘やん。
「入るしかないわなぁ」
絶対服装釣り合わへん。
★ ★ ★
「失礼し――」
「帰れ」
「……」
ドア開けた瞬間閉められたんやけど。新手の嫌がらせなん!?
「失礼す――」
「一見はお断りだ」
また閉め出された! 何なん!?
「入るで!」
「駄目だっつってんだろ!」
「リザさんの紹介や!」
「おう、よく来たな」
その態度の差はなんやねん!
★、★ ★
「悪かったな、兄ちゃん」
「一見さんへの当たり強すぎやろ」
「短気だからな!」
笑いどころちゃうねん。
「で、何の用だ?」
「見た分かるやろ。右腕の義手や」
「ちょっと失礼する」
右腕を顕微鏡まで持ち出して観察してはる。
「これは……黒狼だろ」
「凄腕すぎん?」
「義手っつっても色々あるが。どれがいい?」
「知らんがな」
「逆に何をしたい」
そんなの決まってんで。
「S級冒険者になりたい」
「……」
「なんか変なこと言ったか?」
「いや! 若い頃のリザ嬢と同じでな!」
だからって爆笑せえへんやろ……。
「気に入ったわ、兄ちゃん!」
「今の一言だけやで!?」
「とりま一番戦闘向きな機械腕作るぞ!」
「……頼むで!」
「採寸するぞ」
「おう!」
「まず右腕の直径……、よう鍛えてんな」
「当たり前や」
「次左腕の長さ……、ん、採れたぞ」
「あとは?」
「左腕の重さだ」
「ほいっとな~」
「出来上がんのどれぐらいや?」
「普通なら二週間」
「もうちょい早くは……」
「でもリザ嬢の紹介は三日で済ますぞ」
「天才や!」
「三日後に取りに来い」
「了解や」
さてと、皆んところ合流やな。
★ ★ ★
時は遡り……。
「ここら辺でいいか」
「そうですネ」
シン君と一緒に街の外……普通ならデートですネ。
「アリス?」
「始めようカ、シン君」
「ん、成ってみて」
「無理しないでネ」
張り詰めていた気を抜ク。すると中かラ……。
「来まス」
「頑張れ」
黒狼となっても理性を捨てるナ! 飲み込まれそうな意識を繋ゲ!
「くっっ!」
「頑張れ!」
体毛に覆われていク……、意識ガ……!
「Help me!」
「ん!」
シン君の血を……経口摂取。やっと落ち着きましタ。
「やっぱ大変だね」
「……えエ!」
顔が熱いのは気のせいでス。
「もう一回やりまス!」
「目標は?」
「黒狼化を理性を保ったままやることでス!」
理性を溶かし、意識を自然に任せル。
「来ル」
「了解」
体の中を侵食……されてなイ?
私は意識が消えるのを感じタ。
★ ★ ★
「ッ!」
寝起きのような感覚……そしてここはどこでしょウ。周囲一帯真っ白でス。
「ここは貴様の意識の中よ」
「誰ッ!」
「我はお前……」
「現実的な話をしましょウ」
「……我は黒狼、貴様の中の黒狼じゃ」
こいつガ……?
「なぜ言葉をしゃべれル?」
「正確には意識の伝達だ、話していない」
「デ、何の用?」
「宣戦布告と貴様の意思の確認だ」
「ほウ?」
宣戦布告とナ? 受けて立とうじゃないカ。
「我は貴様の体を掌握し、自由になるぞ」
「つまり諦めろト?」
「その通りだ」
「断ル」
「まあ待て、話をしよう」
掴みどころがなイ……。
「我は暇が嫌いじゃ、だから貴様の体が欲しい」
「何が言いたイ?」
「貴様がより面白いことをすれば力を貸す。いわば交渉じゃ」
「なぜ体を奪わなイ?」
「人間も興味深いのでな。しかも乗っ取るのは疲れる」
こいつは何を考えていル?
「言え、貴様の目的を」
「……私ハ……魔王を殺シ、伝説となル!」
「それだけか?」
「今の皆と一緒に楽しく生きル! それが私の望みダ!」
「我が気に入らなかったら……」
「体を奪ウ、でしょウ?」
「本当にそれでよいのか?」
確かにこの目的は面白くないかもしれなイ。
「そこに嘘付いたら終わりですヨ」
「…………面白い。流石人間だ」
結果ハ?
「今体を乗っ取るのはやめだやめ」
「力ハ……?」
ニイッと黒狼が笑ウ。失敗かナ?
「気分次第、じゃな」
「とことんイラつきますネ」
「そろそろ現世に戻れ」
「えエ、さよならでス」
白い世界が霧散していく。
「改めて名乗ろう。我は黒狼の王じゃ」
「王様ですカ……名前はキングですネ」
「は?」
「名前ですヨ。呼ぶときキングと言いまス」
「はっはっはっ! やはり人間は面白い!」
★ ★ ★
「っアリス!」
「ヘ? シン君?」
「良かった、目が覚めた」
「寝てましたカ?」
草原の上に転がされている。
「うん、十分ぐらい」
「まあまあですネ」
あれ……言うべきだよネ?
「シン君」
「ん?」
「黒狼にキングと名付けましタ」
「何言ってんの?」




