二十四話 『株、大暴落』
「そろそろ王都だ」
やっと、地獄の大迷宮から生きて戻ってきたのか……。
「感動やな」
「生きてるって実感ですネ」
「王都の安心感……」
馬車が王都の門をくぐり抜ける。
★ ★ ★
「まずはギルドやで」
「報告とか?」
「被害報告せなあかん」
ラルフがドアを左手で開ける。
中に入ると、驚愕の視線が向けられた。主にラルフに。
「あら、こんに――」
絶句すんなよ、受付嬢。
「ただいま、やな」
「……取り敢えず、奥にどうぞ」
「で? 何があったんですか?」
「順々に説明してくで」
「――っとまあこんな感じや」
「ラルフ君の右腕欠損と――」
「私の黒狼化」
「無理しすぎです」
「流石にリザさん無しはやばかったな」
「まさに女神の片割れ」
「ちょっと先輩呼んできますね」
手に負えなくなって逃げたな?
「まずは今後の活動についてです」
流石先輩、冷静で頼りになるな~。
「まず右腕、どうしますか?」
「鋼の義肢いうとこで義手のゲットや」
「あそこ一見さんお断りですよ?」
「リザさんの紹介や」
なぜそこでため息をつく?
「あの方S級なんですよ……?」
「金は要らないらしいで」
「本当は超高額ですよ!」
「次はアリスさんです」
「黒狼になりましタ」
「…………」
「制御訓練をシン君としますヨ」
「……分かりました」
「せんぱーい!」
「シンさんとアーロンさんは?」
「「問題ないです」」
「良かったわ」
あなたの健康のためにもね。
「後はあなたたちの判断です。気を付けてください」
「おおきに」
「ん」
「Thank you」
「ありがとうございました」
奥の部屋から見送られる。
★ ★ ★
「あ! ラルフ!」
「某勇者やないか」
「どんな呼び名だ!」
ハーレム勇者じゃねぇか。
「で、何の用や?」
「その腕、どうしたんだい?」
「ちょっと、な」
「どうせあんたがミスしたんでしょー!」
おい、勝手に推測しないでもらおうか。
「うん、他の人たちは何もないし」
「ま、うちらには関係ないけどぉ~」
「こらこら、そんなに僕優先じゃなくていいんだよ?」
うわー、全員頭のネジ飛んでやがる。
「本当にラルフがミスしたのかい?」
「…………ああ、せやで」
「そうなのか、仲間に迷惑かけちゃだめだよ?」
こいつラルフが謙遜したの分かってないのか?
「ああ、じゃーな」
「待ちたまえ、まだ話は終わってないよ」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ。
「お説教だよ。そもそもラルフは弱いくせに前衛に出たがるからね。後ろの仲間もちゃんと気にしないといけないんだ。しかも怪我をして帰って来る時にも回復するときにも仲間に迷惑をかけているの分からないのかな? その出しゃばりな性格を直さないと今度は死ぬよ。そもそもその雑魚みたいな魔法じゃ低ランクの魔獣には効果あるかもしれないけど腕を無くすような魔獣との戦闘では足手まといでしかないんだよ。僕がリーダーだったら君を追放してるね。あ、君がリーダーなんだっけ。君みたいな先走る性格があるような人はリーダーには向かないよ。僕みたいにいつでも冷静沈着で皆のことを考え、優しくて実力が伴っていて名声とカリスマ性がある人が向いているんだよ。君たちもラルフなんかがリーダーで困ってないかい? あ、そうだ! 仕方ないなぁ、僕のパーティーに入れてあげようじゃないか。男を僕以外に入れるのはちょっと不快だけど、寛容だから許してあげるよ。あ、アリスちゃんは大歓迎だよ! 可愛いし、戦闘能力もありそうだし! 重力魔法は使えないから荷物持ちとしようかな。あ、ラルフみたいな言いにくいけど足手まといは残念だけど入れられない。皆今度はラルフいないから迷惑されずに済むよ!」
は? 何言ってんだ?
「「「殺すぞ」」」
本気の殺意を込めて言い放つ。
「え……?」
「ライト君に何てこと言ってんのよ!」
「酷い言葉遣い」
「最低だねぇ~」
「「「は?」」」
「は? って……パーティーに入らないの?」
「逆に入ると思ったのカ」
「……やば」
「頭大丈夫か?」
「ええってみんな……」
このまま見過ごせるとでも? 俺は聖人じゃない。
「ラルフはパーティーの要だ」
「というか一人も欠けちゃダメ」
「ラルフ君いなかったら私たち死んでましたヨ?」
「最後のチャンスだよ……?」
こいつどこまで迷走するのか逆に気になる。
「死を実感したことない奴が死を語るな」
「Youに勇敢な騎士を馬鹿にする権利ないゾ」
「とっとと失せろ」
「アーロン、アリス、シン……」
「ラルフ、行くぞ」
「Goodby children」
呆然とした勇者(仮)を尻目に踵を返す。
「あ、そうだ勇者」
「何だい、シン君」
「アリスに手出したら――」
「綺麗な花は共有――」
「――殺すから」
★ ★ ★
ギルドから出る。空気が美味い!
「俺は『鋼の義肢』行ってんで」
「私とシン君は『黒狼』の制御でス」
「ん」
「俺は魔導具の整備と訓練してるから」
「んじゃ、解散や!」
「後でね!」
「あ、そうや皆――」
ラルフが珍しく口ごもる。
「何――」
「さっき、ありがとうな」
「「「……」」」
「No problem!」
「ん!」
「おう!」




