二十三話 『女神の片割れ』
「まずは落ち着いて現状確認よ」
「「「「はい」」」」
「アーロン君!」
「はい!」
「何かある?」
腕あり脚あり、違和感なし!
「魔法が上手く使えるようになりました」
「……」
「いだっ!」
急に無言で殴られたんだが。仮にも元怪我人だぞ?
「ラルフ君は……」
「腕だけや。あんたのおかげで助かってん」
「…………ごめんなさい」
「気ぃせんといてや」
「じゃあ次シン君」
「異常なしです」
「よかったわ」
シンが一番重傷だったのに後遺症なしか。リザさんスゲーな。
「アリスちゃんは……」
「黒狼化でス。今も気抜いたら飲み込まれそうでス」
「そもそも黒狼化って何なんですか?」
人狼化は人狼に傷つけられ人狼になる固有魔法だ。でも黒狼化は……?
「非常に稀で私も一回しか見たことないわ」
「原因は?」
「生きている黒狼の血を吸うと黒狼になるわ。極稀にね」
「運が悪い……としか言えへんなぁ」
「精神力で押さえてるのが不思議よ」
シンの血とアリスの精神力。片方欠けたらやばかったな。
「取り敢えずは様子見ね」
「制御出来たら武器二……」
「で、私が聞きたいのはシン君の血よ!」
「あー、俺も聞きたいわ」
「……俺の血は魔獣の抑制に効く」
「その条件ってのは……」
「キス……なんやな」
アリスが爆発した。
「ん、先祖の都合で」
「どんな都合やねん」
あれ……? 帝国でその血を聞いたことあるような……。
「シンって帝国出身だよな?」
「ん」
「…………どっかの貴族だったりする?」
一瞬、空気が冷え、タブーだったことを悟る。
「…………いや、一般市民だよ」
「っ…………と、そうか」
シン……、俺の知る大貴族だったりすんのか? 隠し子、虐待児……とか。
「せや。あんたのこと聞いてへんかったな」
「私? リザだよ?」
「ちゃうちゃう。自己紹介や」
「あー……、あんましたくないんだけど……」
リザさん……? 闇の人なの?
「命の恩人やしな」
「ん」
「Please」
なんでそこでちらっと俺を見る?
「しょーがない、か」
「リザさん……怪しくないじゃん」
バサッとローブを翻す。師匠のデジャブ!
「怪我あるところに私あり! S級冒険者『女神の片割れ』リザよ!」
「「「「…………」」」」
「「「「ええぇーー!?」」」」
そこで俺を見るな! 初めて聞いたぞ!?
「え……? リザさんS級だったの……?」
「ええ、ちなみに君の師匠もよ」
「嘘でしょう?!」
「S級ならあの魔法も納得やな」
「ひ、費用が……!」
「女神の片割れ……! Very cool!」
突っ込みどころが違がーう!
「女神の片割れって……二つ名ですか?」
「ええ。S級は皆持ってるわ」
「ちなみに師匠は!」
「紅桜」
★ ★ ★
「じゃあ、元気でね」
「はい」
「Thank you!」
「おおきに」
「ありがとうございました」
王都行の馬車に乗り込む。
「ラルフ君は『鋼の義肢』って店に行ってね。リザの紹介って言ったら大丈夫」
「義手が買えるん?」
「冒険者を続けるならね」
一見さんお断りの厳格な店らしい。腕は確かだとか。
「で、全員3日は絶対安静ね。アリスちゃんは黒狼の訓練やること」
「Of coruse」
「手伝うよ」
「シン君……」
……空気が甘ったるい。
「アーロン君は魔導具の整備してね」
「手袋と靴ですね。分かりました」
「私から言うことは以上! じゃあ、また会える時まで!」
「あ! リザさん!」
聞きたいことがあったの忘れてた。小声で問いかける。
「母さんはS級なのになんであそこにいたんですか?」
「ああ……任務よ」
「…………そうなんですか」
「極秘のね」
あの草原に極秘任務……?
「じゃあ、さようなら」
「「「「さようなら!」」」」
馬車がゆっくりと進み始める。俺たちは手を振り続けていた。
★ ★ ★
「まさか、それ聞かれるとはねぇ、アン」
最新型の魔導具に向かって話しかける。
「本当よ。察しの良さは誰に似たんだか」
「アンも旦那さんもないもんね」
「それは悪口よー」
「ふふっ、冗談よ」
本当にこの親友と話していると笑えてくる。
「まあ、言えないよね」
「そりゃあね。あの子を天狗にさせるには早いもの」
「あの子たちは伸びるわよ、女神が保証するわ」
「リザがそんなに褒めるなんてね」
アーロン君に一つ、隠し事をしちゃったよ。
任務の内容は、先代S級『預言神』が遺した一言によるものだ。
『歴代最強のS級が現れるから、帝国付近の草原にて待て』




