二十二話 『黒き眠り姫』
「リザさん……頼む」
「任されたよ、アーロン君」
ここで俺の意識は途切れた。
★ ★ ★
「リザ……さん、治せますカ?」
「大丈夫、私、最強だから」
五条○じゃないですカ。
「こっちの子はあと数分遅かったら死んじゃってたね。危なかった」
「アーロン君のおかげですネ」
「まあ死んじゃっててもすぐなら治せるけどね」
「化け物……!」
リザさんがシン君に手を当テ、詠唱していク。
I must look! 見て収集!
「君の魔法は?」
「収集でス。他の人の魔法を使えまス」
「それかなり強くない?」
「いエ、最底辺しか使えないんですヨ」
「な~るほどね。ま、私の魔法見てな。そこらの回復魔法よりはいい」
シン君を金色ノ、神々しい光が包んでいク。
「『究極の回復』」
その言葉と共ニ、血が止まリ、傷が塞がっていク。顔に血気が指シ、意識ガ――
「シン君……!」
「……アリス」
「シン君! よかっタ!」
思い切り抱きつク。もう二度と離さないようニ。
「アリス……心配ありがとう」
「もウ、笑ってるけド……」
そう言ってモ、私も笑みが止まらなイ。
「ごちそうさまでした」
「リザさン?」
「この人は?」
「君の回復したよ。次、こっちの腕ない子ね」
ラルフをさっきと同じ金色の光が包ム。
「腕の欠損はあなたの魔法で治りますか?」
シン君が半ば懇願するように質問すル。
「……ごめん、手足の欠損は……治らない」
「そんなっ!」
「私の『究極の回復』はあらゆる回復魔法を凌駕し、死んでても蘇生が可能」
「なら!」
「それでも、万能じゃない」
膝を折り、目に見えて落胆してしまウ。
「そう……ですか」
「ええやん、命が繋がっただけでな」
「「ラルフ!」」
「おう、ラルフさんや!」
元気そうだけド、右腕ガ、なイ。バランスを崩して倒れそうになってしまウ。
「大丈夫?」
「大丈夫や、シン。そっちも大丈夫なんか?」
「俺は」
「ふらつきながら何言うてんねん」
シン君も立っているのすら辛そうでス。私も相当怪我してるのになんで調子がgoodなんでしょウ。
「次はアーロン君ね」
「アーロン君とは知り合いなんですよネ?」
「ええ。この子の師匠とパーティー組んでるのよ」
またもや女神の使うような光がアーロン君を包ミ、傷を癒ス。
「なんで私はこんな快調なんでしょウ」
「え? その傷で?」
「えエ」
「待って、あなたたちは何と戦ったの?」
切羽詰まったように聞いてくル。そんなに焦ることですカ?
アーロン君の目蓋が動キ、ほっと気が緩ム。
「黒狼や」
「まさか! 待って! アリスちゃん!」
何? ん……いや、あレ? 何かが私を侵食すル……!
「これ……ハ?」
私の手が毛皮に覆われていク。私の理性ガ……消えル――
「アリスちゃん!」
「「アリス!」」
★ ★ ★
俺が起きた瞬間に見たのは、アリスが黒狼に変化するところだった。
「は? 何が――」
「黒狼よ! 特殊な条件で人が……なる!」
「「「はぁ?!」」」
爪で襲ってくる。やばい、ふらつく……。
「痛って!」
くそ! 避けられない!
「離れて! 私が!」
「どうすんねん!」
「殺す!」
「ダメ!」
シンの一言がリザさんを止める。
「戻ったって例は聞かないわ!」
「だけど! 殺させない!」
「じり貧よ!」
魔力も底をつき、俺たちは動けない。普通にピンチかも。
「俺がやる。そこで待ってて」
「「シン?!」」
爆弾持ってないシンが?!
「俺の血は魔獣を制御できる。それで!」
「さっき出来てへんかったやん!」
「条件がある。効果も薄いけど、アリスが残ってれば!」
「勝機はある、か」
かなりのロングショット。正気じゃない。
「あの子に血を吸わせるの?」
「ええ」
「今のあなたじゃ危険よ?」
「絶望的な状況から生きれた、ここまで来て失えるか!」
「馬鹿やなぁ、シン」
「でも……それでこそ俺ら」
「…………援護するわ」
「よし! 行け、シン!」
「ん!」
★ ★ ★
俺の血には代々魔獣を使役する力がある。ある条件下で発動する能力。俺の代じゃかなり薄まってるが。でも、これなら――
「いける」
捨て身で黒狼に正面から走る。
「「シン!」」
「サンキュ」
ラルフとアーロンの必死の援護でできた隙……逃さない!
「ごめん、アリス」
唇を噛みきり、アリスに……キスした。
「シン……?」
「…………マジか」
「わぉ、大胆だね」
戻れ、理性を取り戻せ! アリス!
突如、毛皮が抜け落ち、アリスに変わっていく。……成功だ。
「「アリス!」」
「ッ…………? ??? っッ!? シン君!?」
「あ、戻った」
そっと唇を離す。
「ほーら、男子共、まじまじと見ない」
獣化したことで衣服が無惨な形になってしまった。リザさんがローブを羽織らせる。
「シシ、シ、シン君……? Why?!」
「落ち着いて」
顔真っ赤だから。
「獣化したの、覚えてる?」
「ア、あーア! I understand!」
「それで――」
「まずは治療よ、シン君」
「はい……」




