十八話 『一階層の支配者』
重厚な雰囲気の扉が目の前に立っている。
「開けるで」
「了解」
「OK」
「ん」
心臓がドクドク鳴っている。楽しくなってきた。
ギイッと軋む音を立てながらゆっくりと扉が開いていく。
★ ★ ★
「おおーっ!」
「綺麗だな」
入ると中は洒落た部屋のようだった。壁に付いている鉱石が一瞬にして手前から順番に点いていく。
「ボスいなくない?」
「気配感知にもないネ」
「一応気ぃつけぇや。どっから出てくるか分からへん」
突如、前方に魔法陣が浮かび上がる。
「来る!」
「総員、戦闘態勢や!」
「これは…………」
「黒狼、ですネ」
魔法陣から召喚されたのは、大型犬程の大きさの真っ黒な狼だった。
「目が真っ赤だネ」
「シン、情報頼むわ」
「黒狼、B級でも上位」
「なるほど」
先手必勝! 『ゼログラビティ』『へビリティ』
「はぁっ!」
狼の顔面を、蹴り翔ばす!
「待て!」
ん? なんでだ?
「そいつは強い!」
「え? っ!」
大きく振り切った足をギリギリで躱され、足と入れ違いに懐に入られる。待って、やばい。
「くそっ!」
足はすぐに戻せない、やばい!
「ガウッ!」
「噛ま――」
「危ねっ!」
光速で短剣が飛んでくる。ラルフか!
「キイッ!」
「助かった!」
「ええねん、それにしても思ったより強いなぁ」
黒狼は刺されて後ろに飛び下がった。一瞬安心――
「気を付けて! そいつは――」
「アーロン!」
「何?」
「後ロ!」
振り返って見てみると、後ろに飛んだはずの黒狼がこっちに向かってくる。なんで?! 物理法則は?!
「チィッ!」
「アーロン!」
避けきれずに、爪で頬を切り裂かれ、血が頬を伝って流れる。
「一旦下がるで!」
「分かった」
「怪我は?」
「かすっただけ、大丈夫」
「一応回復魔法掛けとくネ」
ヒールとアリスが言うと傷が一瞬で塞がった。回復魔法って初期でも便利だな。
「人狼になったりはしないよな?」
「あれは魔法。上位の魔獣は固有魔法を持ってる」
「あいつのは?」
「空中を足場にするって魔法。だから物理法則を無視した方向転換とかができる」
「さっきのはそういうことか」
「……ボスってだけあって強いなぁ」
「爆弾使いまス?」
「最終手段やけどな」
低い唸り声を上げながらゆっくりと近づいてくる。作戦会議は終わりみたいだ。
「一応作戦を伝えんで」
「ん」
「俺とアーロンで特攻や。シンはいざというときに備えて敵の観察。アリスは黒狼を狙うんやなくてその外側、なんもない空中を狙ってバカスカ魔法頼むで」
「なんで外側?」
「俺たちに当たるとあかんし、やつの魔法対策や。空中を飛び回られると厄介やからな」
作戦開始。第二ラウンドだ!
★ ★ ★
「行くで、アーロン!」
「おう! 『ゼログラビティ』」
俺が最初に突っ込む。さっきと同じように大きく振りかぶり、顔面を狙って蹴りとばす。
「グルル」
「だよねぇ」
やはりさっきと同じように振り切った足の内側、死角に入られる。ただ――
「それは読めてんだわ」
「せやなっ!」
予想した位置にラルフの剣が突き刺さる。殺ったか?
「キュウン!」
「「チッ!」」
「すんでで避けられたな」
空中を足場にして、普通では不可能な動きで避けられた。だけど――
「私がいル! 『炎弾』『風刃』!」
一歩先を行った攻撃は、避けられない!
「ギャウンッ!」
「当たった!」
「あかん、まだやで!」
「流石に威力が弱いね」
「まだまダ!」
ちょこまかと空中を動くと魔法に当たるのを学習したのか、低く襲ってくる。それは……俺の独壇場だ!
「はあっ!」
爪を避けきれず、脇腹を抉られる。流石B級。だが! 怯まず黒狼の腹の下に足を入れ込み、上に蹴り上げる。
「アリス!」
「『炎弾』『風刃』『水刃』『電撃』っ!」
魔法の嵐が空中の黒狼を襲う。
「アリス!」
「OK!」
ラルフの掛け声で魔法が止むが、息つく間もなくラルフの剣撃が無防備な脇腹に突き刺さる。
「シン! これで終わりや!」
「爆ぜろ!」
やっぱ爆弾使うんかい。口の中入れるから安全なのか?
シンが弱った黒狼の口の中に爆弾を詰め込む。
「離れて」
「ラジャ、や」
「さよなら、ボス」
黒狼はかろうじて口から手榴弾を吐き出すが、所詮無意味な抵抗。頭のすぐ上で爆ぜ、固い頭蓋骨を粉砕し、葬った。
「…………終わった、よな?」
「ええ、まずはアーロンの回復からネ」
「無茶しやがって」
「もう少し深かったらやばかったんじゃない?」
くそ、今になって痛みの感覚が戻ってきた。腹が熱い、痛ってぇ。
「『ヒール』」
「この辺から傷負うみたい」
「まだ前衛だけやけどな」
「多分三階層突破は無理だね」
「せいぜい次の二階層だネ」
「よし! 怪我治ったし次いこうぜ!」
「昼飯食ってからな」




