十七話 『大迷宮前哨戦』
「相変わらず暗いなぁ」
「外から見たのと変わんないんだな」
「アリス」
「えエ、『フレイム』」
「おおっ!」
「なんでもできんねんな」
アリスが蝋燭のような炎を出して、周囲を照らしてくれる。収集って便利だ。
「これは?」
「鉱石の類いだね。ダイヤとかルビーとか」
「It's beautiful!」
「手付かずだからね」
大迷宮の中は鉱石などで彩られていて感嘆するほど美しい。幅も広いからどこかの採掘場みたいだ。
「採集は帰るときやで。重いからな」
「OK」
「そういえばこの大迷宮は何階層まであるの?」
「不明や。最高で二階層を突破した人はいたらしいけどな。三階層で行方不明や」
「かなり危ないね」
「アリス、気配感知とかしてる?」
「やってみまス」
目に見える敵には会っていない。迷宮ってのは魔獣の巣窟だからちょっと変だが。
「スライムガ……三体でス。低レベルな気配感知だから確定ではないですガ」
「殺る?」
「シン……爆発物は基本禁止やで」
「…………俺の存在意義……」
「叩き潰そうか?」
「無視でいいヨ……っト! こっち来まス!」
「俺殺るよ」
ペチョンっと独特の移動音を立てながら三体近づいてくる。大人気スイーツ、スライムゼリーの原料だ。ありがたく貰ってこう。
「よっと」
回転蹴りで三体粉砕、討伐完了だ。
「これでいいよな?」
「簡単だね」
「急にムズくなるんかな?」
「…………」
「アリス?」
「っ! まだ来まス!」
「スライム?」
「人狼でス!」
「「「なっ!」」」
左の通路から何かがかなりの速度で駆けてくる。本能が警鐘を鳴らしている!
「っ! あっぶな!」
反射的に後ろに跳んでなきゃ顔抉られてた。グルルと不吉な声を出しながら避けた俺を睨んでくる。やっば、強え。
「人狼ってどんなやつや?」
「人型の狼。B級で、深い傷を負うとこっちが人狼になる」
「厄介ですヨ。ホーンラビットより強いでス」
「楽しくなってきたね。これこそ大迷宮だよ」
「爆発物は?」
「最悪許可するわ」
唸り声をあげながらも襲ってこない。どっちかご動いたら戦闘開始だ。
「アリス、できれば炎系の頼むわ」
「照明ってことネ」
「せや」
「俺動くぞ」
「ん、全員で一斉に。せーの!」
ばっと散開する。一瞬遅れて人狼も。
「『炎弾』」
飛び散った炎が周囲を照らす。狙いは……俺か!
「ガウッ!」
「『へビリティ』!」
凶刃を躱し、振り切った右腕の隙間を縫って下から蹴り上げる。やばい、左腕が当た――
「危ないやんか!」
「サンキュ!」
左腕を剣を挟んで止めてくれる。右を俺、左をラルフが抑えているから人狼の胸が空く。
「『炎弾』『風刃』!」
「ナイスやアリス! シンは!?」
「後ろだよ」
隠密で気配を隠しながら短剣を持って人狼の後ろに回っている。
「さよなら」
胸に風刃が、頸に短剣が刺さる。殺ったか?!
「殺れてない!」
「アーロン、離れろ!」
「何っ!」
咄嗟に離れる、なんで死んでないんだ?!
「ごめん、突き刺さんなかった」
「固いですネ」
「どうすんねん」
「爆弾使えばいける」
「崩落すんで」
「だったら……」
「口の中に突き刺せば?」
「噛まれて人狼の出来上がりや」
「二人で顎抑えたラ」
「それが最善、それでいこう」
「分かったで」
「了解」
高速でまっすぐ人狼に突っ込む。察知した人狼も真っ直ぐ向かってくる……が。顔面に岩がぶち当たる。
「グワン?!」
「ナイス引き付けや!」
「おう!」
一瞬視界と意識が外れた隙に、思いっきり側頭部に蹴りを叩き込む。続けて踵落とし、蹴り上げ、そして顔面突き!
「グガルル……!」
「フルコンボ食らってどうだ?」
「抑えまス! 『炎鞭』!」
炎の鞭が四肢を拘束。俺が人狼の上顎を岩のように重い足で開けたまま押さえつける。
「シン! ラルフ!」
「ん」
「あいよ!」
開いた口に、剣と短剣、ついでに弱めの爆弾を投げ入れた。
「離れて」
「おう!」
突き刺してすぐ戻った。俺も足で頭を蹴って後ろに跳ぶ。
「爆ぜろ」
離れた瞬間、人狼の頭部が爆ぜ、確実に死んだ。
「勝った?」
「勝ったね」
「よっしゃ!」
「B級に勝ちましタ!」
勝ったのは嬉しいけど……、一階層でこれか……。次はどんなのが来んだよ。
★ ★ ★
それからはスライム数体、あとB級のタランチュアっていう大蜘蛛に会い、撃退した。体から針を飛ばしてきて中々危なかった。毒あったみたいだし。結局遠くから爆弾何個か投げて終わった。爆弾強すぎな。
「ここが一階層の最後なんかな?」
「どう考えてもそうだろうね」
「物々しイ」
いま俺たちは、大きな大きな門の前に立っていた。明らかにやばい気配。
「一階層のボスってとこかな?」
そう、いわゆるボス戦前だ。




