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十四話 『脱却の狼煙』

「んじゃ、とりま魔獣倒しに行かなあかん。さっさとCに上がらへんと」

「ん」「分かった」「Yes!」



 ギルドの掲示板を見て、C級ぐらいの魔獣討伐の依頼を探す。簡単すぎる気もするが、こんな感じの依頼をこなしてかないとC級に上がれないらしい。



「これなんてどうや? ビッグフロック討伐」

「あ、それ俺が帝国に来るための食糧にしてたやつ」

「これ食べてたの……?」

「美味しいんですカ?」

「割といける。鶏肉みたい」

「まあ、アーロン一人で倒せるぐらいには簡単やけど……行くしかないわなぁ」

「だね」



 ★ ★ ★



「シン、索敵頼むわ」

「ん、分かった」



 ごそごそと懐からなんか取り出す。なんだあれ?



「テッテレー!」

「なんでアリスが言うねん」

「なにその効果音」

「地元のやつでス」

「それは?」

「双眼鏡ってやつ」

「シンの自家製やで」

「すごっ!」

「母さんが魔導具師だったから」



 シンが双眼鏡を目に当て、遠くの方を索敵する。シンは索敵係らしい、ラルフ曰く。



「あ、いた」

「どこや?」

「あっち。あのでっかい木の左12度、距離300m」

「了解、後は俺の光速スナイプで仕留めたるわ」



 肩に掛けかけてた弓を取り出し狙いを定めている。……無理じゃね?



「流石に届かないし当たらなくないか?」

「いや、いけるで。この弓もシンの魔導具で威力とコントロールの強化付いてるからなぁ」

「有能すぎね?」

「流石シン君でス!」

「……別に、普通」



 ちょっと顔赤いのは気のせい? 無表情が売りのシンが……!




「ひゅうっ、てな。せや、肉も回収せなあかんし、三人は先行っててええで」

「ん」「了解」「分かっタ」



 シンが走ってるときにまた懐から何か取り出す。四次元○ケットか。



「あ、ちょっと待ってて。先行かないで」

「え、なんで?」



 シンは無言で拳大の何かを取り出し、口でピンらしきものを抜いた。おい……それ爆弾?カエルの近くで何か爆音とともに光った。



「俺の魔導具シリーズの一種。爆発強化と範囲拡大が付与されてる。ちなみに今身体強化の魔導具着てるからこんなに飛ぶ」

「えっげつねぇ爆発なんだけど」

Good(すごい) explosion(爆発)!」



 肉残ってねぇんだけど。高威力すぎやしませんかね。



「俺あっちやる。アリスは――」

「こっちやりまス!」



 上空にレビティで上がり、体全体へのヘビリティで奴の脳髄をぶちまける。アリスは……うん、炎弾を無限に打ち続けてカエルほぼノックアウトだ。簡単すぎんな、こんな依頼は。



「終わた?」

「ああ」

「簡単すぎるね」

「もっとすごいのやりたいでス」

「せやな、ギルドの人に頼んでみるわ。とりまこの焼肉たち運ぶで」

「ん」



 ★ ★ ★



「はい、お疲れ様です!ビッグフロック討伐完了です。お肉代と報酬合わせてこちらになります」

「おおきに。せや、相談なんやけど……俺らはよC級に上がりたいんやけど、なんか他に方法あらへんの? このままじゃお爺さんになってまうで」

「説明の時にも申し上げた通り、仕事をギルドが認めるほどしたら自動で上がることができます」

「それがあかんから言うてんねん! 他にないんかい!」

「えぇぇ……。あ、先輩、D級から手っ取り早くC級に上がる方法って無いですよね?」



 お姉さん先輩に聞くほど困ってんだけど。ちょっと過ごして分かったけどラルフはまあまあ短気だからな。



「あるわよ」

「「え?」」

「研修の時に習わなかったっけ。危ないから推奨はしてないけど」

「何ですか!? その方法って!」



 流石、先輩ってのはアイス食ってても頼りになる。業務中にアイス食べるほど仕事に慣れてるベテランだからこそだな。



「っと熱いわね、色々と。その方法って言うのは――」

「その方法って言うのは?」

「D級ならB級の魔獣を討伐すること。そしたらCに上がれるわ」

「ホンマ!?」

「嘘つくわけないでしょ」

「よっしゃ! 皆聞いてた?」

「意外と簡単?」

We can!(できるわね!)

「せやな!」



 皆盛り上がってるけどB級か……。そんなに簡単か?



「本当にやるなら立会人が必要よ。少なくともA級の。伝手はあるの?」

「そこは……金か?」

「思考よ」

「ちょっト……、ラルフ?」

「考え終わってんだろ」



 いや、一人当てはあるんだが……。あいつはB級かもしれないしそもそも頼むのに問題が……。



「立会人か? 俺やってもいいぜ、後輩のためだしな!」

「出やがった!」

「先輩に対して出やがった! ってなんだよ!」

「先輩もどきじゃねぇか! 先輩じゃねぇ!」

「あっれれ~、そんな口をきいていいのかな~? A級を雇うには少なくとも銀貨7枚は必要だぜ?」

「「「え」」」



 痛いところを突きやがる……!この悪魔……!



「今なら先輩価格で銀貨0枚! どうだ?」



 殴りたい、その笑顔。



「アーロン、受けるよな?」

「もちろんお願いするよね?」

「アーロン君ですよ? 当然してくれるに決まってまス」



 ぎりっと歯ぎしりする。数秒の葛藤……。



「し、仕方ない! お願いします!」

「お願いします、先輩、だろ?」



 ぶん殴りたい、その笑顔。



「お……お願いします。……………………先輩」



 俺は今プライドっていうプライドを捨てたぞ。



「よろしい! 時間決めたら教えてくれ、ああそれと後輩」

「何ですか?」

「今度飯奢ってくれ」



 蹴りたい、その笑顔。



「B級だとどんな魔獣を討伐することになりそうですか?」

「掲示板に出てる依頼から選ぶのよ。だから……ホーンラビットね」

「え?」



 その瞬間、俺の中から屈辱や怒りという感情が抜け落ちた。ぞわっと体中に武者震いが走る。これは恐怖じゃねぇぞ、……楽しみだ。



「いつに……」

「明日で」

「え、明日なん?」

「早すぎない?」

「Oh……」

「いや、これはどうしても明日がいい。どうしても嫌だっていうなら考え直すけど」

「いやええけど……なんで?」



 そういえばこういうのはリーダーが決めるものだっけ。まあいいや。



「ちょっと衝動が抑えられそうになくてね」



 めっちゃ困惑したような表情なんだけど。それもそうか。さあ、餌食だったものの反逆だ。

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