十二話 『伝説の始まり』
手には木刀。周りは広ーい土の地面。前にはラルフって呼ばれてた人、斜め上にはギャラリーたち。……俺の平穏な冒険者デビューはどこいっちゃったんだろ?
「準備はええか?」
ぜんっぜん良くないっす。一ミリも整ってない。
「まずはこの状況を説明してもらっていいか?」
「せや、まだ言うてへんかったな。自分勇者のパーティー断られてたやろ?やったらウチに入らへん、思て。これはそのための試練みたいなもんやな。」
「……つまり、これで合格したら君たちのパーティーに入れてくれるってこと?」
「せやな。君は玄人の目から見たら光っとるからな。ああ、アーロン君に説明無しでここまでやっちゃったことは堪忍な!俺ちょーっとばかし子供にむきになってしもたからな。」
勇者子供扱いとかめっちゃ煽るじゃん。
「まあいい。で、合格条件は?」
「俺が合格やと思ったらや!手加減は無しで頼むで。」
「というかさっきから気になってたんだけどなんで試験?どっかの一流パーティーか?」
「……俺らのパーティー名は『オーサムベスト』、意味は最高、や。俺らは最高を目指してんねん。最強だけやない、仲間をないがしろにしない、横暴やない、そんなの全部込めて、最高、のパーティーや。やからメンバーを追放しない。これも鉄則やから、元々強そうで、本気の奴しか入られへんようにしてんねん。」
「なるほどね。分かったよ。……本気で行くぞ。」
「どんとこいってやつや!」
ギルドの闘技場による模擬戦は正当な理由があれば無料でできて、審判も付き、一般公開される。武器も支給されるし、治癒士もいる、かなり本格的なものだ。審判が旗を掲げる。
「模擬戦っ、始め!」
旗が振り降ろされる。
★ ★ ★
「『ゼログ――ッ!」
何かが顔にぶつかった。石か?いっってえ!あいつが振りかぶるのが見える。やっぱり石か。ただそのぐらいなら避けれ――
「ッ!?ブッ!くそっ!」
「どや?避けたらええやんか。」
「この野郎……!」
見えない、見えないんだが。お手玉で動体視力はかなり鍛えたと思ったのにやつの投石がまるで視認できない。振りかぶったと思ったら投げてる。
「ッ!お前、それ魔法か?身体強化……じゃねぇな。物を高速で投げる魔法?」
「半分当たりやなっと!」
「グッ!」
くそっ!避けらんねぇ!このままじゃダメージ蓄積してKOだ。……仕方ない。ダメージ覚悟で特攻だ。こっちも本気を出そうじゃないか。
「『ゼログラビティ』」
「お?」
重力を限りなくゼロに!この速度なら……避けれた!
「急に速なるやん!それでこそや!」
「『へビリティ』」
まずはその木刀、叩き折ってやるよ!顔のお返しだっ!
「ッ!……冗談やろ?どんな火力してんねん。」
「近接には自信があるんだ。」
「ええやないか。」
折れた木刀を横凪に振るってくる。普通ならしゃがむのがセオリー。だけどそれは相手の思惑にはまることと同じだ。俺は、重力使いだ!
「『レビティ』」
魔法の意味は空中浮遊。咄嗟に上に落ちて剣を回避。上から思いっきりやつの顔面を蹴りとばす。
「おおっ!あっぶねぇ!」
「避けんのかよ。」
そのまま追撃。左の蹴り、から一回転して右の回し蹴り。その後縦回転して左の踵落としっ!蹴りは振動破砕が付いてるからかなりのダメージだろ。
「ッ!いった!」
「いやいや、三回中二回避けんのか。」
「こりゃー……左腕持ってかれたな。」
「まだまだだよっと!」
ここまで近づけば振りかぶった瞬間に攻撃できる。完全に俺の間合いだ。加えて上の位置取り、こっちは攻撃しやすいがあっちは腕や足をあげなきゃいけないからやりにくい。
「あかんな、これは時間の問題やな。」
「俺の勝ちだな!」
「いや、まだやで。」
突然無言で持っていた剣の柄の部分を投げてきた。当たるが、それほどじゃ――
「グブッ!」
「へへっ、ざまあみろってことや!」
「こいつ……!」
柄を投げて、その一瞬で先っちょの方を持って思いっきり俺の顎を殴りやがった。こいつ、近接も行ける口か!グラングランする。やばい、いいの貰いすぎた。早めに決着付けねぇと。
「『レビティ』」
「逃げんのかい!」
かなりの速度で上空へ。高いところまで来たらくるっと回転して、体全体にへビリティ、踵落としの状態で、全力落下!
「なんや?」
「上だよっ!」
隕石のように落下して、確実に奴を捉えた感覚があったが、謎に俺の意識も切れた。
★ ★ ★
「ん、ん、ここは……?」
「医務室でース!」
「君、気絶したから。」
「あれ?!なんでだ?!」
「Youが落ちたときに丁度ラルフもattackしたんでス!Veryhotなbattleでしタ!」
「ん、凄かった。」
「あ、ラルフって人はどこだ?合格か不合格かを聞きたいんだが。」
「Maybe、youは合格だと思いますヨ。」
「ラルフとあれだけの勝負をした人は中々いない。というか僕たち以外にいない。新人ではね。」
「へー。」
「おう、アーロン君起きてたか!」
ラルフって人が来た。おい、後ろで治癒士さんが慌ててるから……。
「怪我は大丈夫やで、えらい威力やったなあ!」
「俺も突然気を失ってびっくりだ。」
「危なかったで。あそこで剣を振ってなかったらリーダーの地位を譲るところやったわ。」
豪快に笑ってるけど笑いどころじゃなくね?
「でだ、合格か不合格かどっちだ?」
「ああ、なんやそんなことまーだ思ってたんか。もちろん合格や!当たり前やろ!」
「おおっ!ありがとう!」
「おめでとう。」
「よかったでス!」
「重力魔法も強かったなぁ!全然カス魔法やなかったやん!」
「本当は、な。イメージが難しいんだ。俺もまだまだ強くなるから安心しろ。師匠はもっと強いしな。」
「そうなんか!楽しみやな!取り敢えず――」
「「「パーティー入団おめでとう!」」」




