十話 『王国なりの洗礼』
2章スタート!
「っはぁ、はぁ。……やっと着いた!」
師匠の元を卒業してからひたすら草原を歩き続けて三日三晩――
「ロンダート王国だ!」
目の前には国境を告げる大きな、大きな門が建っていた。
★ ★ ★
「めっちゃ並ぶじゃん」
門の前には入国しようとする人たちの長蛇の列が出来ていた。30分は余裕で並びそうだ。
「兄ちゃん、見ねえ顔だな! どっから来た!」
「ん……? あぁ? 俺のことか?」
なんか冒険者みたいな格好をしたおじさんが話しかけてきた、お兄さんではなくおじさんだ。
「おうよ!」
「あぁ、俺は帝国から。てかほとんど見ない顔だろ」
「いやいや、違うぞ兄ちゃん。ほとんどは商人だからな! みーんな、知り合いだ!」
「そういうもんか」
「帝国からってえらい遠くないか? 見たところ馬車とかも使ってなさそうだしな!」
「徒歩だからな」
「めっちゃかかるだろ!」
「まあな」
実際体重ゼロにした状態で歩いてたから速いし疲れなかったんだよな。それでも三日三晩かかったが。普通だったらどんだけやばいんだ。
「先輩からのアドバイスだけどな、とりま王都に行けば大体なんとかなるで! ほな、そろそろ俺の番だからな!」
ありがたーい情報をもらった、だが! 誤解があるな。
「俺の先輩じゃねーだろー!」
去っていく後ろ姿に叫んだ。
「ほら、お兄さん、入国許可証とか持ってる?」
「持ってないっすね。何ですかそれ?」
「基本常連の商人とかが持ってるやつだね。持ってないなら入国手続きするから正直に答えてね」
「そんなのあんのか。」
「王国は大陸で一番平和な国を名乗ってるからね。その政策の一環だよ」
「ああ、なるほど。承知した」
嘘付くことないしな。別にいい。
「まず名前は?」
「アーロン」
「家名は?」
……俺の家名はアスレイドなんだが、帝国の騎士団長の息子が王国にいるなんて知られたらな……。仕方ない、嘘付くか!
「アーロン、ただのアーロンだ」
「そうか、じゃあ次に入国の目的は?」
「冒険者になりに」
「へ~、冒険者志望かい、死亡しないようにね」
「寒っ! なんか急に気温下がりませんでした?」
急に寒気が。背中にゾワッと走ったぞ。
「どっから来たの?」
門兵さんが若干がっかりしてるのはなんでだろう。
「帝国だ、ウェアウルフ帝国」
「それは……子供一人じゃ遠すぎない?」
「実際今ここにいるんだから可能だろ」
「……まあ、いいか。んじゃ最後に持ち物検査ね。持ってる物全部出して」
「分かった」
ボン、と財布を手渡す。
「他にも全部だよ?」
「それしか持ってないんだが。」
「そんな馬鹿なことないでしょ。ご飯とかどうしてたの?」
「D級とかC級の魔物倒して焼いて食った。」
「ワイルドすぎるだろ! 嘘だよね? 体検査しますよ?」
「どうぞ」
ポンポンと何か隠し持ってないかを探してくが、持ってないものは持ってねぇな。
「嘘でしょう?! 帝国から財布だけでこっち来たの?!」
「だから実際今ここにいるじゃねぇか!」
「ええ……? んん……通すしかないか?」
悩んでても俺は事実しか話してねぇんだが? 名前以外、あれは許せ、誰の迷惑にもなってない。いや、父さんの迷惑になってるか?
「んじゃ通るぞ。ありがとうな」
「んんー……、まあいい。あぁ、冒険者になりたいんだったら王都に行くことをおすすめするよ。では、良い旅を」
「ああ。アドバイス感謝する」
さっきの先輩風吹かしてたやつも今の人も王都行けって言ってたな。仕方ない、金かかるが王都に行くか。さすがに国境から王国の真ん中まで歩く気にはならないからな。んじゃ! 気を取り直して出発!
★ ★ ★
馬車に乗られて一日半……やっと来た。
「王都だ~!」
俺の時代だー! なんちゃって。
「銀貨4枚な、兄ちゃん。」
「おう。ありがとな、おっちゃん。」
この世界の通過の価値は簡単だ。通貨は4種類あって、銅貨、銀貨、金貨、レアコイン。それぞれ10枚集まると次の硬貨と同じ価値になる。大体銅貨一枚がパン1個。銀貨2枚ぐらいで居酒屋一人分。金貨5枚ぐらいで一般的な武器。レアメタル300枚ぐらいで家だ。
「ああ、そうだおっちゃん、冒険者ギルドってどこにあるか分かるか?」
「ギルドならこの大通りを真っ直ぐ行って4つ目の角を右に曲がった先だ」
「ありがとう」
ギルドに向かって足を進める。それにしても王都はすげーな、なんか、色々と。パッと見ただけでめっちゃ店あるし。金使いきりそう。金貨10枚ぐらいしか持ってないんだよな。
「ここの角を右だっけ? って本当にこの先かよ。」
どう見ても路地裏なんだが。仕方ない、進むか。
「よう、兄ちゃん、久し振りだな」
「会ってすぐなんだけどさ、金貸してくんね?」
「そしたら道案内してやるよ」
スルーした。俺のことじゃ無いかもしんないし。こいつらと会ったことないし。てか王国って兄ちゃん呼び流行ってんのか?
「おうおう、なに無視してくれちゃってんの?」
後ろを振り向く……誰もいない。
「お前のことだよ! 何舐めた態度とっちゃってんの?!」
「へへっ、さっさと金置いてきな。じゃないと……怪我しちゃうぜ?」
スッと小型ナイフをこっちに向けてくる。逃げる? いやいやとんでもない、……腕試しだ。
「断る」
「「「あぁ?」」」
「断ると言ったんだ」
「怪我しても後悔すんなよ?」
「かかってこいよ」
相手は三人、見た感じ素人。俺は新人冒険者より強いぐらい。多分実力的には申し分ない。……負けは、無い!
「はぁっ!」
ナイフを大きく振りかぶる。……遅いな、あくびが出る。師匠のところで鍛えた、体を軽くする技! 名付けて!
「『ゼログラビティ』」
体にかかる重力が限りなく小さくなる。
振りかぶってくるナイフを指の間で受け止める。そして……!
「『へビリティ』」
「ぶぐぇっ!」
重く、加速した蹴りの一撃を横っ腹にぶちこむ。
「がはっ!」
「こいつ、身体強化か!」
「残念ハズレだ」
「ふっ!」
今度の奴は魔法使うのか。2人に見えるのは魔法だよな? 目の異常とか洒落にならない。
「はっはー! 見分けつかないだろーが!」
「関係ねぇよ」
どっちも殴ればいいんだもん。
一体目! ……は手応えなし、じゃあ二体目! も手応えなし……? ……三体目か!
「上だぁ!」
「チッ!」
最後の奴は?! って……魔法使おうとしてんのか……? やばっ!
「はっはー!」
「『炎弾』!」
右から炎弾、上からナイフ、やべーな。……今までの俺だったら。俺は……重力使いだぞ?
「やったでしょう! 兄貴! …………兄貴?」
「やられてるわけ、ねぇだろ!」
浮遊魔法で上に上がり、かなりの速度で二人目の顔面をガシッと掴み、地面に思いっきり突き落とした。そして三人目、お前だ。油断しきったその顔面が凹むぐらいの突きを叩き込む。
「ふぅ」
討伐完了、魔物じゃないが。気を取り直してギルド行こう。




