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九十七話 『羽化』

 魔法の拡張、とは何なのか。


 俺は結構この数週間考え続けてきたけどよう分からん。

 拡張ってことは応用を効かせる、進化させるってことやろ? 


 やけど師匠みたいに触らんでも魔法を消せるようになるとか、童子さんみたいにテレポートの間隔を短くするとか、そういうんとはちょっと違う気がする。俺の魔法は正直ここから進化はしにくい、もう既に最高速やからな。



 見方を変える。発想を転換する。今までの偏見と想像と常識を壊す。



 この戦闘は頭が冴えわたる。

 常に殺気をふりまかれ、死と隣り合わせの魔法が迫ってくる。頭回転させて超集中せな死んでまう。


 だからこそ、日常では出てこない発想が浮かぶ!



 俺の魔法は、「物」にしか発動しないんか?



 ★ ★ ★



『おイ、私の体を返セ!』

『やっと起きたか。状況を考えろ。貴様が今変わったところで死ぬだけだぞ』

『二人デ! 二人で一緒に体を動かせバ! 私の魔法もキングの技術も両方使えル!』



 こいつは馬鹿なのか? 同じ体を二人で操るなど、不可能だ。同じ脳でも持っていない限りな。動きがかみ合わずに動けない。



『合わせてみせるかラ! 私の意識も浮上させロ!』

『却下だ』

『何か月同じ体を共有してると思ってんダ。この中で私だけ寝てられるもんカ。出セ』



 最後の妙に凄みのある声と同時に思わず意識が引きずられる。何という精神力。

 まずい、意識が霞む。やめろ、今はまずい!



『主導権もらったア!』



 チィ!



「体までは渡さねぇよ」

「二人表に出れたじゃないですカ。これでいいんでス」



 強引に意識を捻じりこみやがった。戦闘の邪魔を……するな!


 私に構うなヨ。前! 一旦体の主導権はあげますから戦ってくださイ。その間に私はこの感覚に慣れますヨ。


 思考が……! うるさい、なんだこの不快感!


 これならお互いが考えてることがノータイムで分かるじゃないですカ。二人同時に体を操れまス。テレポート。



 アリスの魔法で奴の背後に回り込む。それが分かっていた我は無防備な背中に完璧な攻撃を叩き込めた。



「なっ……んでそこに!」

「我に聞くな」



 貴様の思考が流れ込んできたせいで確かに対応できてしまうのが癪だな。


 身体強化掛けますヨ。走るとき思ってくださいネ、加速魔法掛けまス。一瞬先の未来が分かる予知魔法もちょくちょく使っていきますヨ。


 頭の中に未来が浮かんでくる。その魔法を余裕で避け攻撃につなげる。地味に役に立っているのが本当に癪だな。屈辱だ。


 というか触れるときに魔法無効化の魔法使いましょウ。そうしたらさっきみたいに一方的に殴れまス。



「いるのね。さっきの子が。あの憎たらしい魔法を使ってきた子」

「さあな」

「気持ち悪いわね。堕ちたな、餓狼の王」



 奴は貴様がいることは分かっている。もう迂闊な奇襲は受けないだろう。一瞬触れられてもすぐに離れられる。無意味だ。


 最初みたいに掴みかかるカ……その一瞬のうちに私たち以外の二人が倒してくれるカ、ってことですネ。


 だが正直赤フードの小僧はともかく二人に期待はできない。厳しいことを言うようだがな。


 まあシン君は今回は相性が悪いですネ。でも、ラルフなら何かやってくれないでしょうカ。


 実力差というものは小手先の技術や奇襲でどうにかなるものではない。大番狂わせなど起こらない。それは弱者が弱者と思われていたというだけの話だ。



「それハ……どうでしょうカ。私は見たことありますヨ。弱者が強者に変わる瞬間」



 予言通り、というのか。

 奇しくもアリスがその言葉を言い終えた瞬間、目の前を稲妻が走った、と錯覚した。



 ★ ★ ★



 足が割れる。絶対膝ぶっ壊れたなあ。流石に無茶やったか?


 でもなあ、やばい、威力や。



「ちーっと狙いが上過ぎたなあ」

「……は?」



 戦場が凍り付く。いや、ちゃうな。戦場中が俺を見ている。もちろん、不死王も。魔法を放つことも忘れて呆気にとられ俺を見ている。


 まあ、目ないけど。



「次は脳天ぶった切んで」

「……何をした? 今まで私に近づくことすら出来ていなかったじゃないか。そもそもあんな剣戟じゃ結界に傷もつかない。隠していたのか、その実力!」

「なわけないやんか」



 魔法の拡張、ようやくこの土壇場で意味が分かった。

 別に俺の魔法は物専用やない。『対象』を光速で動かせるって魔法や。それは、俺の肉体も例外やなかった。


 対象に魔法をかけるんは、対象の動く軌跡を考えなあかんかった。物にできててんは軌跡を無意識に考えられてたからなんやな。



 足の動く軌跡。それ考えて魔法を発動したらドンピシャや。体もつられて光速とまでは行かへんけど神速で動く。

 魔法で動かした物に威力は乗らん。魔法をかけずに撃った威力しか与えられへん。俺の火力不足の原因や。



 やけど、これは違う。足に魔法をかけただけで体、剣はその副産物。威力は神速で剣を叩きつけてんのと同じのが乗る。



「残念やったなあ。これで俺はもう魔剣だけのやっちゃないわ!」



『ラルフ! 決め切るヨ! 私が奴の結界を解くその一瞬デ、足を切り飛ばしテ!』

『無理やで、それや倒せん。倒す条件は――』

『多分、体を再生できない状態にするこト。だからシン君に頼んで奴の横の家を崩落させル。運が良けれバ、というか細かく爆破すれば確実に圧死させられると思ウ』

『『了解』』



 要はその一瞬で逃げられんように足を切れっちゅうことやな。

 任せろ。



 アリスがテレポートで上手く裏を取り、手を、触れる!

 一瞬で剥がされるだろう。だけど俺には十分な時間。



 足の軌跡をイメージする。大まかに、足の着地点とそのときの姿勢をイメージ。


 剣をあらかじめ構えて、魔法をかける。



 視界が一瞬で移動した。十数メートル離れてたアリスの横までほぼ瞬間移動する。

 テレポートと違うんは、その軌跡に、剣が乗ってる。



 足を一瞬のうちに綺麗に切断されて空中に浮いてる胴体。回避行動は取れないだろう。



「あ……っ」



 ゆっくりとそこらじゅうの家が爆散して奴に降り注ぐ。爆発音は遅れて聞こえた。


 大量の土煙と轟音を鳴らし、奴の体を押し潰した。



「……勝った?」

「のかな、お疲れラルフ」

「俺もう足が死んでる――」



 瓦礫が内部から吹き飛ぶ。

 俺たち三人は唖然として、信じられないような目でそっちを見つめた。



「よくも……」

アン・デッド(不死)……!」



 俺は少なくとももう戦えん。足も完璧に壊れたし、体ももう動かへん。

 他の二人もそや。俺たちは人間やし。



「……死ぬ」



 妙にゆっくりと稲妻が迫ってくる。回避行動は取れないからこれに焼き焦がされて死ぬねんな。

 ……いや動け動け動けぇ! 



「「ひっ」」



 反射的に目を瞑った。しかし、死は来ない。バリバリと何かが割れる音が耳に残る。


 ひんやりした風が頬を撫でた。



「よく、ここまでこの化け物を抑えきった」


「んあ?」



 周囲はいつの間にか氷に覆われている。どんな魔力量。

 すっと目が細められ俺を見据える。



「交代だ。ラルフ、アリス、シン」



 S級冒険者『氷炎の魔術師』の背中は、圧倒的に頼もしかった。

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