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砂漠の国の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【書籍発売中・コミック配信中】  作者: 守雨


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37/68

37 告白

「殿下。教えていただけませんか。うちの農園を探っていた『彼』とは、誰ですか?」


 殿下は眉を寄せて考え込んでいらっしゃる。


「王太子殿下がそこまで厄介とおっしゃる人は他国の人なんですよね?東のバルワラ王国は殿下のお血筋の国。我が国に接している国に限れば、こそこそ隠れて私たちを探り、殿下が尾行する必要がある相手となると北のファリル王国のような気がしますが」

 

「実は今、王宮にファリル王国の第四王子、ヘルード殿下が滞在している。最近我が国に遊学という名目で訪れている」


『厄介』の意味がわかった。


「殿下、そのファリルの王子がここに来ていたんですね?その方はどのくらいの期間遊学されるのでしょうか」

「全くわからない。突然あちらの国王から頼むと言われて王宮に留まっているんだ」


 遊学とやらが短期間なら私だけがどこかに逃げてその王子をやり過ごす手もある。でも長期間だったら困る。私が長い間留守にすると農園の桑の木は全部枯れてしまう。また最初から農園をやり直している間に助けられるはずの人がたくさん死んでしまう。


 ならば今は逃げるのではなく、王家の権力を頼るのもひとつの方法ではないだろうか。


「殿下。ファリル王国がどんな国か、おおよそなら知っております。その方が何を探っていたのかも想像がつきます。農園の周囲を歩いていたらと言うならおそらく、まだこの布のことは知らないはずです。布のことも含めて全て殿下にお話ししたら、私だけでなく農園のみんなを守ると約束してくださいますか?」


 マークス殿下は私の唐突な条件を聞いて戸惑ったようだ。


「君たちはこの国の国民だ。しかも病も怪我も治すこの布のこともある。他国に渡すはずがないだろう?」

「お約束くださいますか?」

「もちろんだ。両親の名にかけて誓う」


 私は覚悟を決めて口を開いた。


「殿下、その方が探っていたのはおそらく、雨のことかと」

「アレシア!」

「やめろ!」


 父とイーサンが叫ぶ。私は「大丈夫」と安心させるように小さい声でなだめた。


「お父さん、私達は十四年間もうまくやってきたわ。でも私はいつかこんな日が来るだろうと覚悟もしてた。お父さんだってそうでしょう?一生隠し通すのは無理じゃないかと思っていたはずよ。ファリル王国は恐ろしい国だわ。今、殿下を頼らなかったら、ある日突然私達全員が襲われてファリル王国に運ばれる可能性だってあると思う」


 いきなりのことで父はオロオロしている。


「お父さん、今は王家から逃げたり隠れたりするより王家のお力を頼るべき時だと思うの」

「アレシア。いったいどういうことか私にわかるように説明してくれるか」

「はい。殿下」


 両親とイーサン一家に向かって笑顔を作った。


「私やみんなのことも農園も守れるよう、殿下とお話し合いが必要だわ。みんなにも聞いていてほしい」



・・・・・




「そうだったか。いや、まだ全部理解したわけではないんだが。雨のことは以前から疑問に思っていたんだ。君たちと雨の関係を知りたいと思ったこともある。おそらくあの砂漠の農園も君たちなんだろう?」


 やはり気づかれていたのか。


「君たちの人柄を知っていたから僕はあえてここのことを誰にも報告しなかった。砂漠の農園の時のようにまた逃げられることの方が国の損失だと思ったんだ」


「そういうことでしたか」


「絹の力は二度も経験したから信じている。それにしても三年も前からあの絹を使いながら効果を調べていたとは。いや、雨はアレシアが生まれた時からだったな。十四年間か。君たちは本当にすごいな」


「殿下、どうかアレシアをお守りください。この通りです」


 父が頭を深々と下げた。母も、おじさんとおばさんも。イーサンも頭を下げた。


「必ずアレシアを守る。君たちもだ。ファリルに奪わせたりしない。この農園を守る方法も考えよう。少し考える時間をくれるか」


 そう言ってから横たわるメイールさんをチラリと見た。


「ピューマに組み伏せられたメイールには傷が無いことをどう説明したものか……」


「殿下、幸い今夜は月明かりがありません。ここはひとつ、メイールさんの勘違いで押し通しましょう。失禁したから着替えさせた、これです」


 ナタンおじさんの提案は珍妙だったけど、聞いているとそれしかないという気になる。





 殿下はメイールさんを揺さぶって起こし、ドアの外で見張っていたヨアヒムさんに声をかけた。

「いやぁ、農園の人たちに迷惑をかけてしまったよ」

と朗らかに笑いながら。


「殿下!メイールの具合は?」

「大丈夫だ。ただ、メイールが失禁してしまってな。農園の皆さんに着替えをお願いしたところだよ」

「えっ?怪我はないんですか?」


 ヨアヒムさんが驚いている。


「怪我はない。暗かったから私もすっかり動転してしまった」


 メイールさんを助ける時に血がついてしまった殿下は上着とシャツを父の服に着替えていて、殿下の後ろから下だけナタンおじさんのズボンをはいているメイールさんが「実に面目ない」という顔で出てきた。


「ものすごく血が出て痛かった気がしたんですが、自分の思い違いだったようです。ピューマに飛びかかられて押し倒されましたけど、ほら、この通りだ。騒がせてすまなかった」


 メイールさんがズボンをめくってヨアヒムさんに見せた。


 メイールさんには申し訳ないけど、みんなで彼に失禁していたと話した。本人は裂傷もなければ血も出ていない自分の足を見て納得するしかなかった。


 ヨアヒムさんが笑いだした。


「なんだ、俺はてっきりピューマにやられたかと肝を冷やしたぞメイール!」


「だがピューマがいたことは本当だ。足跡も残っているだろう。農園の方が警備兵を呼びに行ってくれた。ここの農園の果物は母上のお気に入りだからな。ピューマが出たのを知りながら警護も置かずに何かあっては問題だ」


 ナタンおじさんの連絡で警備兵が来てくれた。殿下は小声で「後で連絡する」と私に告げて帰られた。


 メイールさんは帰りに盛大に腹の虫を鳴かせ、ヨアヒムさんに「いい加減にしろ!殿下に失禁の後始末をさせたお前が腹の虫を鳴かすなど打ち首ものだ!」と叱られて恐縮のし通しだったそうだ。


 後日殿下が「メイールは実に気の毒だった」と苦笑しながら帰り道での様子を話してくださった。


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書籍『砂漠の国の雨降らし姫1・2巻』
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