表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の国の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【書籍化・コミカライズ】  作者: 守雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/68

30 ヤエル婦人(2)

ヤエル婦人はあえて自分から夫人ではなく婦人と呼ばせているので誤字ではないのです。しばらく後にその事情が明かされます。

 この国では聞いたこともないヤエル婦人の話に、私はただただ驚いている。


「バルワラではとにかく『知識は力』と言われてね。代々学者の血が流れるバルワラ王家では国を成長させる要として学術文化の振興に力を入れているの。この国の大洪水も、記録を取り続けていたバルワラではある程度予測できていたわ」

「ええっ」


 私は本当に驚いた。

 大雨を予測するなんてことができるのだろうか。


「正確にいつ降るかまではわからないんだけどね。心構えをせよ、と通達は出されてたわ。バルワラ王国の学者たちは王家の指導でとにかくありとあらゆる記録を取ることを大切にしているの。すると周期的に大雨が降ることや日照りが起きること、バッタが異常に増えることなどがわかるの」


「周期があるんですか?」

 とハキームが質問した。


「ええ。ただ、周期が長ければ長いほど予測を立てるのが難しいのよ。でも、いずれ来ると言うことはわかる。当時のシェメル王国が大雨をアウーラのせいにして処刑してしまったと聞いた時には私の両親たちは愕然としたそうよ。知識が無いということはそんな恐ろしい悲劇を生むのだ、だからお前たちは学ばなければならないって、私だけじゃなく当時の子供たちは繰り返し親から言い聞かせられたものよ」


 ハキームはたいそう感心して話を聞いている。私は脱力してしまって気の利いた相槌を打つこともできなかった。東の隣国では大雨が私のせいじゃないことを当時から知っていた、という衝撃の事実に頭の中が真っ白になった。


「でも、この国の人たちは『証拠があった。アウーラはバルワラと密約を交わしてこの国を侵略させるために洪水を起こした』『アウーラは自国よりも豊かな国の王妃になるつもりだった』って言うけど、結局、侵略なんかなかったじゃない?」


「でも私、歴史の本で読みました。侵略はされなかったけど、この国で起きた反乱を陰で応援したのはバルワラ王国ですよね?」


 ヤエルさんがまた感心したような顔で私を見た。


「そうよ。だって魔法使いアウーラとバルワラ王国が密約を結んでいるとシェメル王国が偽証したんですもの。私の父は当時バルワラの下っ端外交官だったから、それはそれは大変だったのよ。長いこと家に帰らずに仕事に追われていたわ」


 ヤエル婦人の話では『アウーラと密約を結んで侵略の機会を狙っている』とされたバルワラ側は蜂の巣をつついたような騒ぎになり、議会で対策を練っていたそうだ。その最中にこの国の民衆の間に反王家の気運が盛り上がっていることを知り、その動きを支援することにしたのだという。


「バルワラ王国は自分の国と民を戦争から守るためにシェメル王家を倒すことに力を貸したの。バルワラとアウーラに洪水を起こされたと信じている民衆の怒りは凄まじかったから、いずれこの国が復興したらバルワラが攻撃されるだろうと判断したのよ」


「先手を打ったのですね?」


「ええ。シェメルの軍部の一部と手を結んで反乱を陰から応援したの。結果、バルワラ王家の第二王子がこの国の王に収まったわけ。当時、愚かな法律が次々打ち出されて民衆の怒りの矛先がシェメル王家に向かったのが幸いしたのよ」

 

「そんな重要なことを俺たちに喋ってしまっていいんですか?」


「あら。今のラミンブ王家はみんなそのことを知っているし、この国で政治を執り行っている者たちも全員が知っていることだわ。今のこの国の高位貴族たちはその時に王家を見限ってバルワラ側に協力した人の子孫がほとんどのはずよ。今の貴族たちがアウーラについてどう考えているかまでは私にはわからないけれど」


 そこまで喋ったヤエルさんは「大変、勉強する時間がなくなっちゃう」と慌てた。この話はそこで打ち切られ、バルワラ語の会話を教わって勉強会は終わった。





「アレシア、大丈夫かい?なんだか元気がないな」

「ああ、うん。大丈夫。知らなかったことをたくさん聞いたから驚いてしまって」


 私たちは途中で買った甘いお菓子を食べながら歩いて帰るところだ。


「あのさ、アレシアがバルワラ語を勉強し始めたのは、バルワラに逃げることを考えているからか?」


 真っ直ぐな目のハキームに質問されて私は返事ができなかった。


「さっきの話を聞いた感じじゃ、バルワラは国民のことを考えてくれる国だ。でも、この国の王家もバルワラの血筋だから希望があると俺は思ったな。マークス殿下のことも俺はいい人だと思ってる。だから……」


 ハキームはその続きを言わなかったけど、彼は友人の私に出て行って欲しくないのかもしれない。だけど私は自分を守るためにハキームたちを置いて逃げ出すことを考えている……後ろめたかった。



 前世の記憶が戻ったばかりの頃はとにかく安全に暮らすことしか考えてなかった。やがて自分の両親やイーサン一家を守りたいと思うようになって、次はなるべく多くの人の役に立ちたいと願っていた。


 なのに今になって逃げ出すことも考えている。私は正しい選択をしているんだろうか。幸せな家庭に生まれ直した私は、自分と家族のことだけを考えていればいいのだろうか。なんだかとても自信がない。


 迷いに答えは出せないままだったけれど、週に一度のバルワラ語の勉強は楽しく続いていた。ヤエル婦人に学ぶことはたくさんあった。


 私は少しずつバルワラ語が話せるようになっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍『砂漠の国の雨降らし姫1・2巻』
4l1leil4lp419ia3if8w9oo7ls0r_oxs_16m_1op_1jijf.jpg.580.jpg
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ