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砂漠の国の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【書籍発売中・コミック配信中】  作者: 守雨


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16/68

16 絹糸への道(1)

(1)と(2)を同時に更新しました。

 図書館で絹糸の作り方を調べた。

 やはり桑の木に繭を作るあの芋虫を使うらしい。

 図書館はなんて便利なのか。身分を問わずお金さえ払えば知識を得られる。この制度を作った今の王家は立派だ。王家にいい思い出がない私だけれど、現王家の功績は素晴らしいと思う。


 かいこの育て方は、手間はかかるし神経も使うけど作業は単純そうだった。あの芋虫を空気が通る箱に入れて清潔な桑の葉を与えて育てると、およそ月が満ち欠けする二十八日ほどで繭を作るらしい。おなかを満たしてやり、清潔を保つ。様子を見ながら丁寧に育てる。それって鶏やラクダを育てるのと同じね。


 前世なら悲鳴をあげていたであろう芋虫たちも絹糸の素材だと思って世話をしていると慣れてくる。翌日から私はせっせと芋虫を集めて蓋つきの籠に閉じ込めた。




「アレシア、何をやってるんだ?」

「イーサン、これを集めて絹糸を作ろうと思ってるの」

「これが絹になるの?絹ってすごく高価な布でしょ?」

「その高価な布を織る糸を吐き出してくれるのよ」


 イーサンは高級品の絹が虫の口から出る糸で織られていると知って「ウヘエ」と顔をしかめて驚いている。それでもせっせと桑についてる芋虫を集めてくれた。


「ほお。カイコを育ててるのか」

「お父さんは蚕のことを知ってるの?」

「やったことはないが、聞いたことはある。アレシアは図書館で調べたのかい?」

「うん。絹糸が作れるようになったら桑の木を買う時に出してもらったお金はお父さんに返すね!」

「あはは。そんなに稼げる日を楽しみに待ってるよ」


 父は子供の遊びと思っているようだが私は本気だ。


(絹製品は裕福な貴族たちに人気だから、少しくらい高値を付けても売れるだろう。私の九歳の体じゃ農作業を手伝ってもたかが知れてる。養蚕ならこの体でも役に立つわ)


 私はやる気満々で桑の木の枝をどんどん挿し木した。大々的に蚕を育てるならたくさんの桑の木が必要になる。挿し木でバンバン増やせば苗木代も節約できる!


 と、考えながら働いていたらイーサンに注意された。


「なあアレシア、お前自分で気づいてないと思うけど、最近仕事しながらすっごく悪い顔になってるぞ。悪い商売をして金儲けするのが好きな婆さんみたいだ」

「ええっ」


 思わず近くにいたハキームを見たら笑うのを必死に我慢してた。うわ、ほんとなのね。まだ九歳なのに。『悪い顔の婆さん』って……。あんまりじゃない?



「言いにくいことを言ってくれてありがとうイーサン。気をつける」

「ああ、気をつけろよ。あんな顔を誰かに見られたら嫁に行けないぞ」


 きいぃぃ。こんな子供に嫁入りのことで注意されるとは。






 私の雨の範囲は少しずつ広がっていて、今は直径が二キロメートル近い範囲になっている。近くの農家の人は

「今まで馬や人が井戸水を汲み上げていたけど、その手間がなくなった」

 と皆が口を揃えてそう喜んでいるそうだ。


 雨の範囲はまだまだ広がるだろう。

 そうなればますます雨の原因はわかりにくくなるはずだ。うちの農園だって大手を振って桑の木をたくさん植えられる。我が家だけじゃなくて他の農家も絹織物を作れるようになったらいいのに。



 

 夕食時、ハキームが

「近頃、俺の妹が薬を全く飲まないでも起きていられるようになったんです。俺はここの水と食べ物のおかげだと思ってます」

と言い出した。


「それじゃ水と食べ物が薬みたいじゃないか」とイーサン。

「そういや我が家もアレシアの家も誰も病気をしてないな」とナタンおじさん。

「ちょっとした切り傷は雨水で洗えばすぐ治るのよね」とベニータおばさん。

「毎日山ほど働いても腰が痛くならないな」とお父さん。

「この年で肩こりさえ無いわね」とお母さん。



 いやいや待って。

 私が降らせる雨にそんな力があるはずない。


 前世の私はただの水の魔法使いだった。治癒魔法なんて使えなかったのよ。言えないけど。

 

 慌てている私をハキーム以外の全員が見る。違うって。私にそんな力無いから。言えないけど。

 ハキームが「え?なんですか?」という顔になった。ハキームは何も知らないものね。


「コホン」と咳払いをした父が

「原因は何にせよ、ハキームの妹さんが元気になったのはいいことだ。そのうち我が家に遊びに来られるといいな」と言った。


「実はずっと妹にねだられているんです。一度皆さんに会いたいって。お礼を言いたいそうです。それと、この農園も見てみたいらしくて。すみません。仕事場なのに」

「じゃあ、今度図書館に行く時にラクダで行くわ。帰りに妹さんを乗せて、ひと晩うちに泊まって翌日にまたラクダで送って行けばいいじゃない?」

「そりゃいい。妹さんの具合がいい時にそうしてあげよう」


 父の許可が出て、ハキームが嬉しそうだ。

 私も嬉しい。なにしろ今世では女の子の友達どころか知り合いさえいない。イーサンとハキームだけが友達だもの。


 人の役に立つ第一歩が家族とイーサン一家だった。

 次はハキーム一家の役に立てたら嬉しい。


 

 夜寝る前に、蚕たちの箱を点検する。

 蚕は脱皮しながら大きくなっている。箱に耳を近づけると「シャクシャク」と桑の葉を食べるかすかな音が聞こえるような。繭から絹糸を取れる日が待ち遠しい。最初は絹糸一本でいい。成功しますように。




 それからしばらくして、桑の木がやたら成長しているのに気づいた。

 葉を取っても取ってもどんどん新芽が出てすぐに葉を広げる。

「桑の木は成長が早い」と苗木屋さんのおじさんに言われたけど、驚くほどの生命力だ。


 その成長の早い桑の葉をガシガシ食べて、かいこはやがて箱の中のあちこちで繭を作った。


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書籍『砂漠の国の雨降らし姫1・2巻』
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