表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の国の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【書籍発売中・コミック配信中】  作者: 守雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/68

12 母の説得

 「わかった」と言いながらも父はハキームを雇うことについて渋っていた。


 すると普段は口数の少ない母が猛然と父を説得し始めた。こんなにしゃべる母を私は初めて見た。


「あなた。他人を全部疑ってアレシアを鳥籠に閉じ込めるようにして守るのは、そろそろやめましょうよ。それともあなたはこのまま世間と関わらせないで育てるつもり?」


「いや、別に俺は……」


「アレシアの力を秘密にすることは必要だけど、年頃になるのはすぐだわ。このまま誰とも関わらせないで育てて、恋人どころか友達もいないような寂しい娘にしたいの?私たちは先に老いて死ぬのよ?セリオ、あなた私たちが死んだ後のアレシアのこと、考えてる?」


 父は視線を下げて何も言わない。そこにナタンおじさんが参加した。


「実際、人手があると助かるな。昼間だけなら雨とアレシアの関係は気づかれにくい。俺はアレシアがあんな風に頼み事するのを初めて見た。セリオ、お前気づいてるか?」


「何をだ?」


「アレシアの聞き分けの良さは普通じゃない。わがままを言ってるのを見たことがない。アレシアは自分の雨のことで俺たちに迷惑をかけてると思って全てに遠慮してるんじゃないのか?」


「……」


「アレシアに世話になってるのは俺たちだ。引け目なんて感じてほしくない。普段あんなに聞き分けがいいアレシアが泣いて頼むんだ。俺はハキームとやらを雇ってやりたい」


「そうよ。このまま私たちだけしかいない環境で育てたら、この先どんな悪い奴に騙されて利用されるかわからないわ。私だって他人を入れることには不安はあるの。でも、アレシアにはそろそろ人の中で生きるすべを身につけさせるべきだと思う。ハキームは、まず最初の一人よ」


「……」


「人との関わり方を知らないまま大人になって、恋もせずひたすら隠れて生きろと?それ、幸せな人生かしら。偉い人に閉じ込められて利用されるのと、たいして変わらないわ」


「そうだな……そうだった。お前の言う通りだな。自分を守るために誰とも関わらずに生きろと言うのは、残酷だな」


「そうよあなた。これからはもっと先を見てアレシアを育てましょうよ」


 話し合いは母の言葉で締めくくられた。

 私は母のことを勘違いしていた。優しい人だとは思っていたけど、それだけじゃない。大切なことを教えてくれる賢い先輩だった。




・・・・・




「ハキーム君、ここで働く気はないかい?毎日じゃなくてもいい。少々人手が足りなくてね」

「野菜や果物はどんどん成長するから困ってたのよ」


 ナタンおじさんとベニータおばさんがハキームを勧誘している。


「この農園で働いてくれれば昼と夜の食事はうちで食べればいい」

「それとも水売りの仕事は休めないのかしら」


 父と母も誘っている。ハキームは水を分けてもらうお願いに来ただけだから、戸惑っている。


「ここで働けたら、決まった収入になりますよね?俺は正直言ってすごく助かります。でも俺、うちが貧しいから同情されてるんじゃないかと心配です。誤解されると嫌だからうちのことを説明させてください」


 大人たちがうなずく。


「俺の家は俺と母と妹の三人家族です。父親はだいぶ前にいなくなりました。妹は長いこと病気で薬が必要なんです。薬代は絶対に必要だから、俺の稼ぎが少ない日は日雇いをしている母さんも食事を抜いています。俺だけ食事抜きってわけじゃありません。妹だけはなんとかお粥やスープは食べさせています」


「苦労してるのね。まだ十三歳なのに頑張っていて偉いわ」


 母が口を押さえて涙声になる。


 説明が終わってハキームは笑顔でうちで働くことを了承してくれた。週に六日を我が家で働いて、一日の賃金は小銀貨二枚と大銅貨五枚、昼と夜の食事が付くことに決まった。





 父は雨水を溜めている樽を見せて

「ここに雨水を溜めているんだが、畑にも撒かなければならないから売り物にするほどの量を君に分けてやるわけにいかないんだよ。すまないね」

と言い訳をした。


「ああ、そういうことでしたか。わかりました」


 本当は畑には水やりはしてないのだけど、あの美味しい水を売り物にすれば人の興味を引いてしまうから。




 農園に通うようになったハキームは真面目な働き者で、度々「農作業は楽しい」「頑張った分だけ野菜も果樹もよく育つから働きがいがある」と言って大人たちを喜ばせた。


十三歳にしては力のあるハキームは、痩せた体なのに父たちに負けないくらい力仕事をこなしてくれている。遅刻することもなく、夕方もギリギリまで作業している。


 私と母が作る料理も毎回美味しそうに食べてくれる。私と母はこっそり夕食を多めに作り「たくさん作ったから。良かったらだけど、おすそ分けなの」と言ってハキームに食べ物を持たせて帰している。これで彼の家が少しでも楽になったらいいのだけど。


 ハキームは「ありがとうございます。母と妹がとても喜んで食べています」と言って嫌がらずに受け取ってくれる。



 私の水魔法が思い通りにならないこと以外は万事が順調だ。私はいまだにコップ一杯の水さえ作り出せない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍『砂漠の国の雨降らし姫1・2巻』
4l1leil4lp419ia3if8w9oo7ls0r_oxs_16m_1op_1jijf.jpg.580.jpg
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ