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砂漠の国の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【書籍発売中・コミック配信中】  作者: 守雨


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1 砂漠の国の雨降らし姫


 最強の水の魔法使いと呼ばれたアウーラは他国と手を結んで王国に大雨と大洪水を起こした。

 数千の民の命を奪った罪によりシェメル王国歴六十二年、アウーラは二十三歳で斬首された。


 シェメル王国史 第二章「魔法使いアウーラ」



・・・・・



 アウーラの処刑から三十年近い年月が過ぎたある日。



「アレシア、もう少しで家に着くからね。だから眠らないで」

「うん、うん、眠らないよ……」


 母の優しい声も背中をさすってくれる温かい手も、気持ちが良くて余計に眠くなった。


(なんで眠っちゃだめなのかな。気持ちいいのに)

 当時の私には不思議だった。


 私はラクダに取り付けられた籠の中に座っていた。

 大きな町に出かけた帰りで、おなかは満腹だったし疲れてもいた。月の光に照らされた砂丘がどこまでも広がる景色を眺めながらラクダに揺られていたら、三歳だった私がドロドロに眠くなるのは仕方のないことだと思う。


 私は栗色の髪の頭でコクコクと船を漕ぎ、金の星が散る青い瞳をパチパチして目を閉じないように頑張った。でもまぶたはゆっくり降りてくる。


 やがて私は眠ってしまった。


 母は私が外出先で眠ってしまった時に備えて、いつも油紙と蝋引きの防水布を用意していた。

 なぜなら雨が降るからだ。眠っている私の周囲にだけ。




 私には生まれながらに特殊な力があった。

 眠り込むと無自覚に雨を降らせる力だ。





 母が最初にそのことに気づいたのは私が生まれた数日後だという。

 王都にある小さな家の周囲だけに弱い天気雨が降る。昼となく夜となく。

 私が眠ると降り出す。目を覚ますと止む。母は最初、偶然だと思ったらしいが意識して見ていると完全に私の睡眠と雨は一致していたのだ。


 私が赤ん坊のときには雨とも言えないような霧雨で、降る範囲もごくごく狭かったらしい。

 近所の人たちは「最近よく天気雨が降るわね」と言い、母は「ほんとにね。でも、雨はありがたいわ」と笑って誤魔化したそうだ。


 まさか「うちの子が降らせているみたいです」などと言えるはずもない。



 父セリオは「これが知られたら化け物扱いされて嬲り殺されてしまうかもしれない」と心配し、母イルダは

「こんな力を知られたら偉い人に無理やりこの子を取り上げられて死ぬまでこき使われるかもしれない」と恐れた。だから両親は徹底して私の力を隠すことにした。



 両親は「これ以上ここにいては雨のことが噂になる」と判断した。そして生後二週間の私を連れて住み慣れた王都を離れた。


 父は僅かな蓄えと家財を売り払ったお金で野菜と麦の種、最低限の建材を買い、王都から離れた乾燥地帯の谷に掘っ立て小屋を建てた。


 そんな場所は普通は人が住めない。水が無いからだ。


 しかし我が家は私の力で水に不自由をしなかった。掘っ建て小屋の屋根に落ちる雨を自作の雨樋あまどいで集め、大きな樽にはいつもたっぷりと水が蓄えられていたそうだ。


 砂漠の谷に作られた畑にも優しく雨は降る。雨と陽光の両方を浴びる畑に種をまけば野菜や麦は青々と育ち、果樹の苗を植えれば甘い果実が豊かに実った。両親は私のことを「我が家の雨降らし姫」と呼んで大切に育ててくれた。




 ここラミンブ王国は旧シェメル王国の政権が崩壊した後にできた若い国だ。国土は西と南を高い山脈に囲まれている。

 西と南にある海からの湿った空気は山にぶつかって山脈の向こうで雨を降らせ、乾いた風だけが山を越えてくる。だから王国の四分の三は乾燥地帯だ。


 王宮は山脈から水を運んでくる川の近くにあるが、その川は王都を通って荒れ地に到達すると地下に潜って消えてしまう。王都以外に住むラミンブ王国の民たちは点在するオアシスの水に頼って暮らしている。



「この国では場所によっては水はお金よりも大切だからな」

「そうね。『寝ている間に雨を降らせる力』があると知られたら、まともな人生は送れなくなるわ」


 父と母は王都の最も外側に住む貧しい農民だったから、私の能力と権力を結びつけて成り上がることなど考えもしなかった。


「アレシアの力は成長と共に大きくなっているな」

「ええ。最近では家の周囲どころかずいぶん遠くまで雨が降るようになってるわ」


 雨が降る範囲は私の成長とともに広くなり、私が三歳の時には直径四百メートルほどの土地に雨が降るようになっていた。



 私たちの家と農園は王都からもオアシスからも交易の隊商が通るルートからも外れていて人は誰も近寄らない。一家三人での人里離れた暮らしは、私が五歳になるまで続いた。


 毎晩静かに降る雨のおかげで両親は豊かな収穫を手に入れ、父は夜に家を出て王都の市場まで作物を売りに行った。味と鮮度が良い野菜と果物を売り、王都に住んでいた頃よりも収入は随分上向いたそうだ。




 そんなある日、私たちの家にひと組の家族連れがやって来た。

 

 



たくさんある作品の中から本作品を読んでくださりありがとうございます。

どうぞ気長にお付き合いくださいませ。


ずっと書き溜めていたのですが、いい加減踏ん切りをつけようと公開しました。

自分の中ではほのぼの系のお話です。



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書籍『砂漠の国の雨降らし姫1・2巻』
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