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第九話 推理

 俺らが話し合いを終えた頃にはとっくに深夜を回っており、とりあえず仮眠を取ることになった。

 一応は客間を貸して貰え、俺は浅い眠りについた。

 朝になり、応接間には再び俺とミサミサが集まっていた。大臣様は早朝から登城なんだとさ。


「まずは真犯人の目星からだな」


 脅迫状を前に、俺から切り出した。


「あんた、誰か心当たりでもないのかい?」


 普段、ルチルと最も接点があるのはこの大臣夫人様だし、まずはそこからヒントを探ることにした。


「んー、そうだなぁ。ルチルは別にそんな恨みを買うような人でもないしなぁ」

「あれがか? 本当かよ?」

「本当だよ。そりゃまぁ、スクード君はルチルのことを良く思ってないだろうけど、普段は普通の人なんだから。たまーにあぁやって悪ノリしちゃうとこもあるけど、特に変なことはしない人だよ」

「なら、私怨の線は消すべきかな。んじゃ、次は金銭目的の線か。なぁ、悪いんだが、三千万ってのはどの程度の大金なんだ? 俺、貧乏人なんでいまいちピンときてないんだよな」


 この期に及んで見栄を張っても仕方ないからな。俺は率直な疑問を投げ掛けた。


「あら随分と素直なんだね。やる気出てきたってことかな?」

「まぁな」

「私も正直なところそこまでピンとは来てないんだけど、ルイスちゃんから聞いた感じだと、このお国の年間国家予算のほぼ三分の一くらいだって言ってたよ」

「…………全然ピンと来ねぇわ。まぁ、とりあえずは、王様がセーレンだろうが非セーレンだろうが、普通に考えてまず払うはずがねぇ金額ってことなんだな?」

「うーん、確かにルチルはこの国に必要な重要人物だけど……単純にイメージしても国民の三分の一の生活費と、ルチル一人が同じ重さとして換算出来るわけだし……流石に難しいよね」

「なら金目当てってわけでも無さそうだな。まともな犯人なら、もっと現実味のある額を提示するだろうし」

「ってことは、始めから貰える訳ない金額を提示したってこと?」

「だしよ、そもそもだ。もし俺が金目立ての誘拐をやるとしたら、ルチルじゃなくてあんたを狙うね」

「私!?」

「ああ。だってあんたは大臣の奥さんなわけで、あんたを拐えば大臣から金をふんだくれる。もっと言えば、あんたを餌に大臣を拐うことも不可能じゃねぇ。そしたら三千万って金額だってルチルよりは現実味が出てくるってもんだ」

「んー、確かにそうかも」

「だろ? だとしたら、金目当ても消える」


 俺は考えられる可能性を一つずつ紙に書き記しては、バツを付けていった。


「じゃあどうして脅迫状なんか送ってきたんだろね?」

「そこだ。少なくとも、犯人はルチルを誘拐した事実を伝える意図があるわけだ」

「うーん……でも非現実的な金額を要求してる……うーん。一体何をしたいんだろう?」

「だから、他の目的があるんじゃねぇかと、俺は思う」

「例えば?」

「そうだな……例えば……ルチルが誘拐されたことにより、不利益を(こうむ)る奴がいる場合だ。あんたもその可能性を感じてただろ? 意味深な感じで言ってたじゃねぇか」

「あれはぁ、あれよ。そう言った方がスクード君がちゃんと言うこと聞くかと思って」

「カマを掛けたってことかよ!? どーしょもねぇな、あんた」

「うるさいなぁ。でも、なんとなくそう思ったのは本当だし」

「じゃあ誰なんだよ?」

「それはいっぱいいるよ。私だって悲しいし、嫌だもん」

「そういうこっちゃねぇんだよ。言った通り、不利益を被る奴だ。管理不行き届きだとかで責任を取らされる奴とか、心当たりがあるだろ?」

「その観点からすると……ルイスちゃんかな。旅人の酒場はルイスちゃん直轄の公的機関だし、ルチルがいなくなって機能しなくなれば、ルイスちゃんが責任を取らないといけなくなるし……」

「だろ? じゃあ仮にルイス大臣に不利益を与えたいって奴なら、このパターンに当てはまらないか?」

「それって、軍務大臣?」

「まぁ、可能性の話だ」

「うーん、いくら仲が悪いとは言え、そんなことするかなぁ? もし露見したら完全アウトだよ? 私も軍務大臣はそれなりに知ってるけど、そこまでトンチンカンじゃないと思うな……」

「あくまで可能性だ。偉いさんのことは俺の知るところじゃねぇし、何を考えてるかなんて想像もつかないからな」

「そっか。でも納得はいくかな。他の目的かぁ……」


 ミサミサは考え込むようにして顎に指を当てていた。


「だが、それはあくまでも真犯人が人間なら、の話だ」


 その一言に、ミサミサは勢い良く顔を上げた。


「魔物ってこと!?」


 俺は頷いた。


「ルチルは勇者の伝導師なんだろ? じゃあ、ルチルの存在自体を疎んでるとしたら、それは魔物が一番だ。ルチルの命を取るために拐ったとしてもおかしくはねぇ」

「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ!じゃあ君は、ルチルが最初から助からないって思ってるってこと!?」

「そうじゃねぇよ。それが目的ならわざわざ脅迫状なんか送らねぇ。さっさと殺っちまえば良いだけなんだからな」

「じゃあ何よ?」

「例えば……ルチルを餌に衛兵の注意を引き付けて、手薄になった城を狙ってるとか、かな?」

「お、お城を!?」

「ルチルは邪魔だし、勇者輩出に勤しんでるこの水の都だって魔物からしたら邪魔だろう。一挙両得でぶっ潰せるなら願ったりだろうよ」

「君、魔物の気持ちが分かるの? なんかとんでもない悪党みたいなんだけど!」

「別にそんなんじゃねぇよ。ただ、俺が魔物の立場ならそうするのが楽だと思っただけだ」

「……魔物の立場に立てる勇者とか、不謹慎極まりないね」

「推理だよ。あくまでも推理だ」


 一応は言い繕う俺をジト目で睨み付けるミサミサだが、それで可能性を捨てるほど俺もバカなつもりはない。

 少なくとも可能性がある限りは、その線でも物事を考えなきゃ解決策なんざ導き出せねぇんだからな。


「とにかくだ。まずは真犯人が人間なのか魔物なのか、そこから突き止めねぇと目的も見えてこねぇ。目的さえ分かれば、誰が犯人なのかを炙り出すなんてそう難しいことじゃねぇさ」

「随分と自信満々じゃないの。それじゃ聞くけど、一体どうやってそれを突き止めるのよ?」


 その問いに、俺は改まってミサミサに向き直った。

 今から言う頼みには、ミサミサの協力が不可欠なんだからな。


「手はある。悪いが、俺を院長先生に会わせてくれねぇか?」


 そう言って俺は軽く頭を下げたんだ。

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