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第九話 誰も知らない地下道

「この街の地下には、いつの時代のものかも分からない、大規模な地下道が存在するんです。街中を通るその地下道は、もちろん城の地下にも繋がっています。ですが、どういう理由かは知りませんが封印されていて、その地下道はどこからも入ることができないし、どうやって入るのか誰も知らないんです」


 俺達の目は点になった。

 そりゃそうだろ。

 誰も知らない地下道を、なんでお前が知ってるんだって話だからな。

 いよいよこいつの悪名がかま首をもたげたんだろうか。

 俺たち全員が訝しんだ。

 

「あ、いやいや、誰も知らない地下道って言うのは通り名で、この街の人間なら誰でも知ってる迷信って言うか、おとぎ話の類いなんですよ」


 空気を察した様に、ヨッギは慌てて言い繕っていた。

 まぁ、そういうことなら納得はいくけどさ……


「迷信なんだろ? じゃあなんであんたは入れるって断言したんだよ?」


 当然の質問を俺はぶつけた。


「それは……」


 ヨッギは言い淀んだ。

 だが、明らかに何かしらの考えを口にしようと、でも、それを押し留めた、そんな感じの口振りだった。

 だからなのかな。

 続けたのは、ルチルだった。


「それは、誰もが知っているおとぎ話っていうものは、往々にして事実に基づいているからこそ語られるものよ」


 ヨッギもまた、頷いた。

 正直、俺には思いもよらない発想だ。だってそうだろ? おとぎ話はあくまでもおとぎ話。そう思っていた。


「地下道の話は、昔話の王様が魔物の侵略から逃れるために、地下道を通って時計台まで辿り着き、無事に生き延びたというおとぎ話から来てます。ですから、俺は時計台にその出入り口があるのが必然かと思うんです」

「んじゃま、そこを調べるとしましょぉねぇ」


 話はまとまった。

 全くの手掛かり無しよりも、ましてや地上から王城に忍び込むなんかよりもよっぽどまともかもって思えた。

  

 でも、俺の気持ちには少しばかりのささくれが立っていたのも事実。


 だって俺、勇者なんだぜ?

 なんで最初に忍び込むことを考えちまったのか、自分でも後悔していた。

 


 ―――


「おい、ヨッギ。あんたはもうこの街を離れろ。ディアナとリトルルチルと一緒にいるんだ。そんでもって、もう二度とこの街には帰ってこない方がいい」


 俺は、ルチルから借り受けた路銀を手渡しながらそう伝えた。

 ヨッギももうこりごりなんだろうな。素直に頷くと、そいつを受け取った。


「お金は必ずお返しします。ディアナが。港街に立ち寄るときは是非お顔を見せて下さい」


 こいつ、言葉の間になんか変な一言挟まなかったか? ディアナも苦労するよ、本当。


「それと、じぃさんよぉ」


 それからヴァンサンじぃさんに向き直った。


「口封じとか考えるなよ? こいつが死んだら俺達がヨルムンド家のことをぶちまけるからな」


 じぃさんは笑って答えた。


「当たり前だ。こっちもそのつもりで今回の件に手を貸してんだ。逆に貴様はニーナ様とご内儀に感謝するんだな。俺が責任持ってこいつを送り届けてやる」

「す、すみません」


 その一言に、ヨッギは肩をすくめて礼を述べた。


「だが、お前らは別だ」


 じぃさんの眼光が一際鋭くなり、それは俺達へと向けられたんだ。


「印章を手に入れた後は、無論、こちらへ渡せ。変な気を起こせば、ニーナ様の身の安全は保証出来んぞ。サービスでお前らの渡航許可証だけは発行してやるって条件で手を打て。異論は認めん」


 流石は始末屋だよ。よくもまぁそこまで情にほだされずに仕事に徹せられるもんだ。

 俺は半ば呆れ返っていた。


 そうして、俺達はヨッギを見送った。

 その背中は、胸が痛くなるくらいに清々しくて爽やかな温もりに満ち溢れてるものだったんだ。



 ―――翌日、俺達は時計台を訪れた。

 街の西側の地区。特に(まつりごと)に関わる施設が多く集まる、とても閑静な地区の中心にそれはあった。


 時計台って言うからさ、俺はてっきり頂上に時計が掲げられた塔みたいなものをイメージしていたんだけど、実際は少し大きめな屋敷の壁に大時計が掲げられていただけだった。

 まぁかなり古い建物っぽいから、竣成当初は一番高かったのかもしんねぇけどな。

 一応はこの街の観光名所となっており、屋敷内は現在、博物館として国に管理されているんだそうだ。


 つーわけで、入館するのに金を払う必要があった。


 入ると、まぁ、博物館だった。

 なんか色んな歴史資料が展示されてたり、古い工芸品だったり武具だったり、そんなんで埋め尽くされていた。

 平日の日中ってこともあって人影もまばら。

 館内を捜索するにゃもってこいなシチュエーションと言えた。

 とりあえずは地下道ってんだし、地下から探すのが妥当だろうからな。

 俺達は地下の展示室へと降りていった。


 地下には合計六つの展示室と、それを繋ぐ通路が一本。まぁそんなに時間もいらなそうな規模感だった。

 

「んで、どうやって見付けるんだ?」


 俺はルチルに問い掛けた。

 規模は手頃でも、探し方が分からなければ、なぁ?

 ぶっちゃけ俺にはその方法の見当もついていなかった。


「うーん、そぉだねぇ。まぁ、地下道って言うくらいなら空間が開けてるんでしょーからねぇ。もしかしたら床のどっかの音が違うとかなら楽なんだけどねぇ」

「なるほど。ソナーか」


 ルチルの言葉に反応したのは、珍しく船長の方だった。しかも全く聞き慣れない単語を用いながら。 


「ソナーってのは何のことだ?」

「船乗りはたまに使うんだが、水中に聴診器みたいなもんを浸けると遠くの船の航行音を拾えるんだ。夜間に敵索したい時なんかに便利なんだぜ」


 へぇ、そんなもんがあんのか。


「んで、そのソナーってのはどこにあるんだ?」

「作るのは簡単だ。ラッパと聴診器をくっつけりゃいいんだからな。ちょっと待っとけ、俺とアンドレでひとっ走りして作ってくるから」


 そう言うと船長達は時計台を出ていった。……ルチルからラッパと聴診器を買う金と再入場代を貰ってな。

 たまに思うけど、こいつのポーチはなんだってそんな金が湧いて出るんだ? どーでもいいことを考えながら、船長達を見送った。



 ―――


「ここだ」


 船長が指差したのは奥の奥、昔の祭事なんかに使う民芸品が展示されてる部屋の、更に奥の壁際の床だった。

 手前から歩いただけに、結局は一番最後の最後に見付かることとなっちまった。

 逆から歩きゃ良かったぜ。


「このタイルの下だけ他と音が違う。明らかに籠ってやがるな」


 俺もソナーってやつを貸してもらったが、うん確かに、なんとなくだが音が違う気がするな。なんとなくだけど。これでそんなしっかり分かるのすげぇな。

 俺は素直に感心していた。


「で、このタイルの下が空洞になってるとして、どうやって降りるんだ?」


 どうもこのタイル、ただ置いてあるだけじゃなさそうだ。隙間をしっかりとセメントで固められてるくさい。これじゃ叩き割るにしてもかなりの労力が必要だし、何よりも音が出る。

 時計台職員の方々にバレたらアウトだしな。


「確かにそうだ。きっとこのタイルの下には石が敷かれている。厚みは、そうさな、一メートルはあるんじゃないか? ここを誰にも気付かれずに掘るのは現実的じゃないな」


 船長が言った。なんでそんな分かりきったことを再確認のように言うのか。


「念のためだ。ルチル、扉を閉めてくれ」

「はぁーい」


 船長の指示に、素直に展示室の扉を閉めに行くルチル。そうか、そうかよ。分かったぜ。

 俺だけ意味が分かってねぇってことを、今理解したぜ!!

 こうなりゃ黙って見守るしかねぇな。お手並み拝見、高みの見物と洒落こみますか。

 が、すぐにネタバレはされたんだ。


「じゃ、いきやすぜ」


 アンドレがタイルに指を触れさせ、スッと引いた。

 なるほど、そういうことか!

 指の沿った後には光の筋が引かれた。その筋にアンドレが指を差し込むと、硬いはずのタイルにぱっくりと隙間が生まれたんだ。

 

 タイルの下にはやはり一メートル弱の石材が見えた。

 そしてその更に下。

 真っ暗闇が口を広げていた。


「これが、誰も知らない地下道ってやつか」


 俺達は息を飲んで暗闇を覗き込んでいたんだ。

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