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第十七話 勇者、海賊になる。

 まさかの話だった。

 まさか鎖国してる大国が、実は魔物の手に落ちているなんて、想像すらしたことがなかった。

 俺は、しばらく呆然としていたと思う。それくらいに驚いていた。


「さて、理由は話したぜ。こっからはお前らの番だからな。これでディアナ・メロを俺らに合わせる気になったのかどうか、聞かせて貰おうか?」


 (かしら)は腕組みをし直すと、改めて俺に視線を向けた。


「どうする? ルチル」


 正直、俺の答えは決まっていた。

 たが、ディアナはルチルの友達だ。俺が勝手に答える権利はねぇ。


「スクードに思うことがあるなら、私はそれで構わないよぉ」


 が、なんてことは無い。そう言って笑っていた。

 俺が思うこと……か。


「分かった。あんたらをディアナに引き合わせる」

「そうか!」


 俺の返答に、お頭の表情はパッと明るくなった。

 

「だがその前に、少しだけ時間をくれ。今すぐ、こいつと話したいことがある」


 そう言うと、俺は顎でルチルを示して見せた。


「いいぜ」


 頭とアンドレが椅子から立ち、部屋を出ようとした。

 だが、俺はその前に話し始めた。

 もちろん、二人の耳に話が入るようにだ。


「なんで魔族は孤島の国との交易を許したと思う?」


 ルチルは事も無さげに答えた。


「そぉだねぇ。孤島の国は世界で一番、魔物が攻められない国だからねぇ。理由は分からないけど、外から攻められないんならさぁ、中から攻める方が楽なんじゃないかなぁ?」

「だよな。ってことは、密林の国の魔族は、そこを足掛かりに他国も狙ってるって考えていいよな?」

「だと思いまぁす」


 やっぱりそうだよな。

 俺は少し自信が無かった。だけど、ルチルもそう思うなら間違いねぇはずだ。


「ディアナの旦那はどう思う?」


 この質問には、珍しくルチルも困った様に眉を下げていた。


「魔族の手先は……無いと思う。ってか思いたい。利用されたんだと、思いたい。最近姿をくらましたのも、密林の国の事実に気が付いて、逃避したんだと思いたい。ディアナ達に迷惑を掛けないためにも」


 だよな。

 現時点では五分五分だよな。

 俺達のこの会話を、海賊達は黙って聞いていた。


「分かった。……おい、海賊」


 ルチルに頷いて見せた後、俺は扉の前で立ち止まったままの二人に声を掛けた。


「あんたら、俺に手下になれって言ったよな?」


 その言葉に、お頭は振り返った。


「ああ、言った。密林の国に殴り込むにゃ、お前みたいな強い手下が必要だからな」

「手下にはならねぇ。だが、一緒に船に乗せろ。あんたらに手を貸すんなら、してやってもいい」


 俺の申し出に、お頭は返事をすることなく、アンドレに短刀だけを手渡した。

 アンドレもまた、無言で俺達の背後に回り込むと、手早く縄を切るだけだった。


「同意でいいんだな?」


 縛られてた手首を擦りながら、俺は問い掛けた。ここは空気を読んでとか、(あん)にとか、そんなんで進んで良い場面じゃねぇからな。

 一国を牛耳る様な巨大な勢力を持つ魔族と相対(あいたい)するんだぜ。当然命も懸かる。そんな時、俺達のこの同盟は互いの命綱にもなり得るんだ。

 きちんとした言質(げんち)が必要なんだ。


 お頭が俺に向かって振り返り、そして言った。


「お前を船に乗せるんなら、お前は俺の手下だ」

「なんでだよ!?」


 正になんでだよ。

 何故ここでいきなりこんなに意固地になるのか、俺には意味不明。

 俺は全力で突っ込んだ。


「このタコ野郎が! お前はこの俺に負けたんだぞ!? なんでいきなり五分(ごぶ)みたいな顔してんだ!」


 が、お頭は真っ正面から反論……て言うか、ガキの言い訳か? とにかく言い返してきた。

 あまりの屁理屈に頭に血が昇った俺は、お頭に詰め寄ると胸ぐらを掴み上げた。


「そりゃそうだけど、ほとんど相討ちだろーがよ! それに、俺達が協力しなきゃディアナに会えねぇんだぞ!」


 が、お頭も引く気はさらさら無いらしい。


「うるせぇ! それでも、俺の船に乗るんなら、お前らの命は俺が預かることになるんだよ! お前らにもしものことがあればそりゃ俺の責任だ! だから俺はお前の頭になんなきゃ筋が通らないんだ!」


 その言葉に、俺は気付かされた気分だった。

 こいつにも、こいつなりの矜持(きょうじ)みたいなもんがあんだな。

 俺は無意識に、掴んだ手を素直に放していた。


「分かったよ。じゃあ手下でいいよ」


 その言葉に、お頭は安堵した様に見えた。


「よし、交渉成立だ。お前は今から俺の手下だ。俺を呼ぶ時は『キャプテン・トマシュ』と呼ぶがいい。それか『お頭』か、じゃなきゃ『船長』でもいいぞ」


 結局はほぼ何でもいいんじゃねーか!

 アホ面して笑いやがって!

 ちょっと本気でイラっとしちまうぜ。さっき少し感銘を受けた俺の気持ちを返せ。

 悔しかったから、俺はここで言い返すことにしてやった。


「その代わり条件があるからな!」

「なんだ? 個室は与えねーぞ?」

「こいつは俺の仲間だから、もちろんこいつも連れてくからな!」


 そう言ってルチルをびしりと指差した。


「え? いいよ?」


 あまりの即答具合にちょっとムカついた。こいつちゃんと考えて喋ってんのか?


「いいのかよ!? お前、こいつは一般人だぞ!? 戦闘とか出来ねぇぞ!? 何なら金儲けと金の計算と料理くらいしか取り柄無いんだぞ!?」


 後ろではルチルがウケていた。

 おいお前の悪口だぞ! ウケてんじゃねーよ!


「その(ねえ)さんがお前の参謀だってのは見てて分かったぞ。てかお前、姐さん無しじゃ割と役立たずだろ?」


 そんなことねーよ!!

 って言いたかったが、そこはグッと堪えた。

 だって本末転倒だし。


「うるせぇな」


 俺はそっぽを向いて吐き捨てた。


「そんじゃ、ま、改めて宜しく頼むぜ。俺はトマシュ」

「俺はスクード」


 トマシュが手を差し出し、俺もそれを握り返した。


「ようこそ。俺らのルージュカノン海賊団へな」



 ―――それから俺達は港街に戻ることになった。

 俺はペケのことがあるから一旦ルチル達と別れて陸路で帰ることになり、そのルチルは船長達と一緒に海路で行くことになった。


 約三時間後。


 改めて合流した時には、ルチルは既に海賊団の航海士の座を射止めていた。


「いや、話し聞いてたら、姐さんの天測技術は半端じゃねぇんだ。航海を生業にしてる俺らも知らなかったような知識持ってる、すげぇ人だ! もちろん手放しで航海士に任命だぜ!」


 船長は俺の肩を組みながら、興奮した子供みてぇに話していた。

 いやいやいや。

 なんだよ、航海士って。得意なもの、金儲けと金の計算と料理くらいじゃなかったのかよ。

 当のルチルは、暇そうに鼻をほじっているだけだった。

 

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