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第五話 家族の温もり

 ディアナ親子とヴィッキー親子、それからルチルと一緒に街を歩いた。

 向かう先はディアナの家だ。

 スカーレットさんやアシュリーは、せっかくだから創立メンバー水入らずでゆっくりするようにと、気を利かせてくれたらしい。


 歩きながら、色んなことを聞いた。

 サロン・ド・メロはディアナとヴィッキーとルチルの三人で立ち上げたメゾン……聞き慣れない言葉だったが、単純に洋服屋やその工房のことを言うらしい……であること。

 三人はその過程で一年ちょっと共同生活を送っていたってこと。

 その辺りで、俺の知ってる名前が飛び出した。


「スクード君、ミサミサは知ってるべか?」

「あ、ええ。大臣の奥さんですよね? あっちで色々あった時に知り合いました」

「そう、そうなのよ。すごい玉の輿を勝ち取ったもんよね。ある意味ではあいつが一番の勝ち組だわ」


 ディアナもヴィッキーも笑っていた。


「ミサミサとも知り合いなんですか?」

「ミサミサはね、元々はこの街の劇団の看板女優だったのよ。ルチルがきっかけで知り合ったんだけど、あたし達がここまでこれたのはあいつのお陰でもあるわね」

「そうそう。オラ達のお洋服の宣伝をしてくれたし、最後にはモデルになってもらっただよ」


 それで合点がいった。

 ミサミサの異常によく通る声や細かな演技力なんかは、元女優だったからなんだ。俺の感想はずばり当たっていたわけだ。

 

 サロン・ド・メロが軌道に乗ってから、ルチルは水の都へと戻り、一緒にミサミサも移住したこと。

 それからサロン・ド・メロは成長を続け、今ではこの街で一番の、ひいては世界一の人気メゾンへと大成したこと。

 とにかく色んな昔話を聞いた。

 そこで俺が思ってたのは、ルチルのことだった。

 始めはルチルとディアナが出会って、それからヴィッキーを探しに行ったんだそうだが、それが今から十年前のことらしい。

 ってことは、ルチルは十代半ばでそんな大仕事に関わっていたことになる。

 まぁ、聞けばディアナもその頃は十代後半だったみたいだし、それを考えても無茶ではないのかもしれないけど、俺がそのくらいの歳の頃って、アカデミーに入るために延々と剣の素振りをやってた思い出しかねぇ。


「ほんと、あん時はマジであんたに殺されるんじゃないかって思ったわよ!」

「えー? そぉ? なんだかんだで楽しそうに作ってたじゃん?」

「そりゃ幻想だべよ。あの時のヴィッキーはあと何日か仕事が押したら本気で死ぬくらいに追い込まれてたべ」

「確かに、あんたも無休で店に立ち続けて半分死んでたから、それで幻想見たに違いないわね」

「そーだっけぇー? どぅへへ、そん時のこと、確かに記憶にないかもぉ」

「ほら! 頭は死んでたべ!」


 仕事で死ぬって、どんだけのことしてたんだ? 俺には想像すらつかない未知の世界の話だ。

 そう考えると、こいつやディアナ達ってやっぱり凄いんだよなって、俺は楽しげに話すルチルの横顔を見ながら思ってた。

 


 ―――ここがディアナの家だ。って聞かされて、俺は仰天してしまった。

 前方にとてつもなく巨大な、いくつもの階層を持った建物が見えてたのは分かってたが、だからってそれがディアナの家だなんて思ってなかったんだからな。


「こ、ここ?」


 俺は出来るだけ驚きを隠しつつ、でも隠しきれずに建物を見上げていた。数えると五階建て。しかも一階当たりに窓がいくつも並んでる。こんなん、昼間行ったギルドともほとんど変わらねぇじゃねぇか。まさか個人でこんなすげぇ家を所有出来るなんて、世界一のメゾンってとんでもなく儲かるんだな。


「いや、これはコンドミニアムっつって、共同住宅なんよ」


 俺が何を考えてるのかなんて、もはやバレバレらしい。ルチルが俺の脇腹を肘で突っつきながら言った。


「水の都には無いの?」

「そぉだねぇ。普通の下宿屋みたいなんはあるけど、こういうシステムのは無いねぇ」

「確かに、オラも密林の国じゃ見たことなかっただよ」


 その三人の会話を聞いて、俺は内心で胸を撫で下ろしていた。この街にしかねぇんじゃ、俺が知らなくてもおかしくはない訳だ。恥をかかずに済んだぜ。ってか、ディアナは密林の国の出身なのか。


「オラとヴィッキーの部屋は五階だべ」

「をよ? んじゃ、ヴィッキーはクローゼさんの部屋にそのまま転がり込んだってこと?」

「そうだべ。そんで、オラもお隣に部屋を借りたんだべ」

「あんたね、転がり込んだっておかしいでしょうよ。結婚したんだから同居って言いなさいよ」


 また新しい名前が出てきたな。話の流れからして、ヴィッキーの旦那さんのことみてぇだな。

 俺は少しほっとしていた。だってさ、いくら承諾したとは言え、こんな女の人だらけの中に俺一人ってのは少し居心地が悪いんだ。初対面でも男がいてくれんのは純粋に心強かった。



 ―――晩飯は、ヴィッキーの部屋でとることになった。

 女性陣が食事の支度をしてくれてる間、料理の出来ない俺はリトルルチルとリリーナの面倒をみていた。

 いつもぶっきらぼうな俺だが、地味に小さな子供達の相手をすんのが得意だったりする。孤児院じゃ、小さな子供達の面倒をみるのは年長者の役目でもあったからな。

 三人で飯事(ままごと)遊びをしていたら、台所から旨そうな匂いが漂ってきた。三人同時に腹の虫が鳴り、俺達は笑いあった。


「今日はご馳走だべー」


 弾むような声で言いいながら、ディアナがテーブルに第一号の料理を運んで来た。もはや我慢の限界を迎えていた腹の虫に急かされて、俺達もそれを手伝い始めた。


「せっかくの創立十周年記念とルチルとの再会記念なのに、なんでまたもやし料理なのよ!?」


 フライパンから皿に料理を移しているらしきヴィッキーの背中がそう言っていた。


「そりゃーだって、私達の思い出の味じゃんさぁ。ヴィッキーが初めて作ってくれたもやしのチーズソース和え、ありゃ美味しかったかんなぁ」

「ですだべな」

「……そ、そお? そんな美味しかったっけ?」

「ですだべな」

「あんたそれ、思ってるほど便利な返事じゃないからね!」


 ヴィッキーの切れのある突っ込み。

 彼女もまた、俺と同レベルの突っ込み力を所持した人らしい。ルチルみてぇなアホなことばっか言う奴の周りにゃ、こういう人が集まるもんなのかな。



 テーブルの上には豪勢な食事が並べられた。それから大人五人分の食器と、子供二人分の食器。いつでも食事会を始められるってタイミングで、玄関の扉が開くのが分かった。


「パパ!」


 一番に反応したのはリリーナ。次いでリトルルチルも駆けて行った。


「二人ともただいま。元気だったかい?」

「うん! オラ、元気!」

「リリーナも良い子にしてたよ!」


 そんな会話が聞こえて、俺達も一斉に立ち上がった。


「これはこれは、お客さんですか……え、ルチルさん?」


 二人を抱きかかえながら部屋に入って来たのは俺と同じくらい背丈の、ミドルエイジの男性。すげぇハンサムって訳でもねぇけど、愛嬌があって好感の持てる顔付きで、笑顔がすこぶる素敵な人だった。


 

 それから皆で晩飯を食べた。

 突然の訪問だったから、急遽で用意されたご馳走。ステーキとかパスタとか、あまり手間の掛からないものが多かったが、どれもめちゃくちゃ旨かった。

 特に数多(あまた)のご馳走のど真ん中に置かれた、もやしのチーズソース和えがすこぶる旨い。文字通り、もやしにチーズソースを絡めたものをパンの上に乗せて食べるだけなんだが、ずっと食べていたくなるほどだ。リリーナもリトルルチルもそいつを何度もおかわりしてたっけ。

 飯の間もサロン・ド・メロの昔話は止まなかった。


 クローゼさんは貴族の執事の仕事をしており、その雇い主からの仕事が切っ掛けでヴィッキーと知り合ったこと。

 ヴィッキーはこう見えてすごい奥手で、踏ん切りを付けるためにわざわざ水の都へ仕事に出掛けたこと。

 その貴族の顧客とは今でも付き合いがあり、たまにオートクチュール……また知らない単語だ……を作りに孤島の国へ出張しに行くこと。

 

 ずっとずっと話は尽きなかった。


 俺も、孤児院の皆でこうやって食卓を囲んでいた。

 だから、家族って何だかは知っているつもりだったけど……今、改めて思う。


 家族の温もりって、こういうもんなのかな。って。

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