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第二十六話 誤解

 俺達は王様を担ぎ上げ、中庭から城へと引き上げた。

 あんだけドンパチやってたんだ。

 城の中では、とんでもねー数の兵士や侍従達が俺達を待ち受けていて、王様の帰還を喜んでいた。


 俺達は国を救った英雄になった。

 昨日初めて勇者になったばっかなのにな。

 俺は出来るだけ悟られないようにしたけど、やはり嬉しかった。

 

「ルチル!」


 俺が再びルチルに視線を移そうとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「ルチルぅー! 良かったぁー!」


 人ごみをかき分けルチルに抱き付いたのは、ミサミサだった。


「を、ミサミサ。元気だったぁ?」


 涙でぐちゃぐちゃになりながら生還を喜ぶ友達に言う言葉じゃねーだろ。

 でも、そんな気の抜けた感じだけど、それでもルチルも嬉しそうにしてるのは分かった。

 

「よく頑張りましたね。スクード」


 そんなルチルを見つめていた俺にも話し掛ける声があった。

 

「無事で何よりです」


 院長先生だった。


「院長先生。どうしてここに?」

「魔族の気配が一気に強まったので、君に何かあったと思い急いで来たのですよ。ですが杞憂でしたね」

「すいません。ありがとうございます」

「頑張ったのは君です。君は(わたくし)の、いいえ、私達の誇りです」


 今までバカばっかりしてきたし、院長先生には迷惑の掛け通しだった。

 だけど、その言葉が、何よりも嬉しかった。


「そうだぜ、スクード!」


 クリスが俺の肩を抱き寄せた。


「お前は最高だ! 英雄に相応しい奴なんだ! だから胸を張れよ!」


 そんな言葉に皆も賛同してくれたみたいで、その場を大きな拍手が包み込んだ。

 

でもよ、俺が英雄になれたのは、ルチルのお陰なんだよな。

 



 ―――その日、俺達は英雄として国賓の扱いをして貰い、城に泊まることになった。


 夜に行われた祝賀パーティーにはルイス大臣と共にミサミサが駆け付けてくれた。更には院長先生や院の子供達、それからクリスの家族とか、たくさんの市民が呼ばれて、お祝いは盛大に行われた。

 

 夜が更け、パーティーはお開きになり、俺達は来賓用の寝室へと戻っていた。


 天蓋付きのベッドが目立つ、とても豪華な部屋。ぶっちゃけ俺みたいな貧乏人にゃ居心地が悪くて仕方ねぇんだけどな。


 その部屋の中央に並べられたテーブルセットに腰を落ち着けていたのは、

 俺、クリス、ビー兄弟。


「なぁ、スクード。俺達と一緒に旅に出ないか?」


 口火を切ったのはクリスだった。


「一緒にか。いいのか?……俺は落ちこぼれスクードだぞ?」


 俺は意地悪な言葉を返してやった。

 まぁでも仕方ないよな。

 あんだけ落ちこぼれだってバカにされてたんだ。結果を出したからって掌くるりってのは虫が良すぎないかね?

 

「落ちこぼれ? そうなのか?」


 が、クリスの反応は意外そのものだった。


「何言ってんだ。お前らみんなそう言ってたろうが」

「……すまん。俺は卒業が早かったからか、そう言われてるのは知らなかった」


 その言葉に、俺の時は一瞬止まった。

 言われてみればそうかもしれねぇ。

 俺が落ちこぼれだなんて言われ始めたのは同期の連中の卒業が続々と決まり始めた頃で、確かにこいつは俺のことを落ちこぼれだなんて言ったことはなかったかもしんねぇな。


「悪い。確かにそうかもな」


 俺は思い直すとクリスに頭を下げた。


「やめろよ。俺が居なくなってからどうだったのかは知らないが、俺自身はお前を買ってたんだぜ? 入学したての頃からな」


 それはまたしても意外そのものだった。


「本当かよ?」

「ああ、そうだぜ」


 クリスはにっこりと微笑んで見せた。


「実はですね、今回、僕達がこの水の都に訪れたのは、クリスの提案なんですよ」


 横から口を挟んだのはガレスだった。


「なんでもよ、優秀な同期がいるから、そいつを仲間に勧誘しに行きたいって言うもんでな」


 続けてキャリムが説明を引き継いだ。


「マジかよ? それが俺だって?」

「ああ、そうだ。俺はお前を待ってたんだ。だから大陸に渡っても、アカデミーに頼んでお前の卒業時期を連絡して貰ってた。お前が卒業したら最初に仲間に誘おうと、ずっと考えてたんだ」

「ですが、やって来てみれば、意中の君は誘拐犯だって言うじゃないですか。とにかく真相を知りたいってクリスが言うので、君を追ってたんですよ」

「追ってみてクリスの言ってる意味はよく分かったぜ? なんせお前ときたら、全然尻尾を掴ませないんだからな。そりゃ納得したぜ」


 ビー兄弟のどちらも笑いながら語っていた。名うての傭兵にそこまで言われるなら悪い気はしねぇよな。


「それに、魔族の手先に深手を負わせたあの爆発。お前はやっぱり俺の見込んだ通りの男だと思ったよ。あんな風に術を掛け合わせるなんて、普通は思い付きもしないだろう」


 爆発を再現するみたいに腕を広げるクリス。その様は、まるで興奮した子供みたいだった。


「まぁ、な。ほら、複数の属性を持つ術士は上位の複合精霊術を使えるらしいだろ? 術士単体で複合出来るなら、他人の術にも乗せられるんじゃねぇかと思ってさ」


 俺は照れながら、でもそれを隠しながら説明した。……冷静に考えたらそんな説明をした時点で気分が良くなってるのがバレるよな。


「そんな発想が出来る奴だから、俺はお前を買ってるんだ。その理論なら、キャリムの氷属性にも乗せられるだろ?」

「そうだな。多分、そうだと思う」

「なら最高じゃないか! 俺達が四人揃えば最強のパーティーが出来上がる! きっとどんな魔族にも太刀打ち出来るし、もしかしたら俺達なら前人未到の魔澪(まれい)大陸にも到達出来るかもしれないぞ!」


 いよいよ本当の子供みたいに、クリスは大きな身振りで夢を語っていた。

 魔澪大陸か。

 そこには魔族の巣があって、魔族達の親玉もいるって話だ。

 そいつらをやっつけるのが俺達勇者に与えられた使命だ。

 だが前にも説明したかもしんねぇけど、未だかつてその大陸に上陸した人間はいねぇらしい。

 俺達が第一号か。

 悪くないな。


「そうかもな。魔族の親玉も倒せるかもな」

「そうだ! やれるさ! 俺達ならやれる!」


 もはや立ち上がらん勢いだ。

 クリスには夢がある。

 それは、俺と同じ夢だった。


「なぁ、一つだけ聞いていいか?」


 ずっと気になっていた。

 四人がこの部屋に集まった時点で、もしかしたらこういう話になるかもしれないって思ってたから。


「どうした?」


 煌めくような瞳のまま、クリスが聞き返してきた。


「あのさ、ルチルのことなんだけど」

「ルチル? ああ、酒場の主人のことか」

「ああ、そうだ」

「彼女がどうかしたか?」

「俺な、あいつに仲間になりたいって言われてるんだ。もし良ければ、あいつも一緒に連れて行ってもいいか?」

「は? 何を言ってるんだ?」

「え?」

「彼女はただの酒場の店主だろ? 一般人だ。そんな人を連れていけるわけないだろ?」

「いや、確かにあいつは戦闘に関しては一般人かもしれないけど、だけど、お前らだって見てただろ? あいつの凄みみたいなやつをさ」

「スクード。悪い物でも食べたのか? いくら俺達が強くても、一般人のお守りをしながら旅なんか出来やしない。それに、この国の英雄である俺達がそんな訳の分からないことをしてたら他に示しがつかないじゃないか」

「……そうか?」

「そうだ。そりゃ、彼女から見れば俺達勇者は憧れの対象かもしれないが、無理なものは無理なんだ。彼女はここに置いていけよ」

「……そうか」

「そうだぜ。さぁ、スクード。答えは決まったろ? 俺達と一緒に世界を救おうぜ」


 クリスの白い歯が光った。

 

「悪い。今日はもう眠たいんだ」


 それだけを言い残して、俺は部屋を後にしたんだ。

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