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第二十二話 宝物庫

「私はこの城の宝物庫の場所を知っているから、黙って勝手に渡すことだって出来ちゃうんだなぁ、こりがさぁ」

「クックックッ! 何者だ? 貴様は。確かに貴様の就いてる職業が人間どもにとって要なのは知っていた。だが、貴様自身に何かあるとは思ってもみなかったぞ」


 魔族の言う通りだよ。


「別に私はそんな大層なもんじゃありませんよーだ。ただ知ってるだけ」

「よかろう。ならば証拠を見せてみろ。もし貴様が言うことが本当ならば、貴様との交渉に乗ってやろう」

「おーし、言質(げんち)は取ったかんね。嘘ついたらぶっ飛ばすよ、この後ろの厳つい連中がさぁ」


 笑いながら言っていた。

 笑いながらだ。普通笑えるか?

 少なくとも俺はこの魔族を遠目から見ただけで殺気に押し潰されそうだったってのに。

 それはクリスやビー兄弟も同じだろう。

 さっきから一言も発せず、ルチルの動向を見守ってるだけなんだからな。 


「ご託はいい。証拠だ」


 魔族が言った。


「せっかちめ。まず、この城には宝物庫が三ヶ所あり、国庫も三分割されてまぁす。それぞれの場所は……教えられませぇーん。ただ、ここから一番近い場所だけ、教えてしんぜよう」


 まるで俺に話してる時みたいに、悠々と言葉を紡ぐルチル。


「一番近いのは……あんたの真後ろだよ」


 そして指差した。

 魔族の背後に佇む、みすぼらしい古びた小屋を、指差したんだ。

 魔族は振り向かなかった。

 とても信じられるもんでもねぇからな。俺だって信じなかった。

 だが、魔族の腕の中に捕らわれた王様の反応を見るまでは、だ。

 ルチルの言動と共に王様の体が一瞬だけ脈打ったんだ。

 それはきっと、ルチルの言ったことが真実である証拠だから。


「なるほど。どうやら嘘ではないらしいな。では女よ、貴様が宝物庫の扉を開け、中を見せろ」


 まぁ当然の対応だろう。敵からしても、いつ俺らが奇襲を仕掛けるか分かったもんじゃねぇからな。


「えー、しょーがないなぁ。んじゃ、ちゃんと見てるんだよ」


 ルチルは言いながら歩きだした。

 魔族の脇をすり抜けると、小屋の扉を開けた。


 中には金銀財宝が!!


 なんてことはなく、そこにあったのはただの古びた内装だけだった。

 小屋の中は手狭ながらも、綺麗に手入れが行き届いた、清潔感溢れる空間だった。

 何の匂いかも分からないが、仄かに香る甘い匂いが漏れ出てきて、俺の鼻をくすぐった。

 一間しかないその部屋には、小さな釜戸。

 一人用のベッド。

 オーク材とおぼしき衣装ダンス。

 そして、中央には小綺麗なテーブルとイス。


 そこが宝物庫だなんて嘘にも程がある、本当にただの小屋だったんだ。


 だがしかし、ルチルが嘘をついてるとはどうしても思えない。少しの間しか絡みは無いが、あいつがそんな下らない行為をするはずがない。何故か俺はそう思いながら、ルチルの行動を見守っていた。


 ルチルは扉を開けたまま室内に入り込むと、ゆっくりとした足取りで衣装ダンスに近付いて行った。

 そしておもむろにタンスの戸を開くと、中に手を突っ込んだ。

 何かが外れる様な音が響いた。それに続いて重い金属が擦れる様な音も聞こえてくる。これはきっと、太い鎖が巻き取られる音だろう。と言うことはだ……


 小屋の脇には小さな泉があった。

 その泉からどんどんと水が抜け始めた。

 きっとルチルは、あの水を抜く装置か何かのスイッチを押したんだろう。

 ものの数秒で泉は空っぽになり、底に現れたのは、重そうな金属の蓋だったんだ。


「そこが宝物庫の入り口だよぉ」


 小屋から出てきたルチルが言った。

 こんな仕掛けを見せられたら、そりゃもう本物だって信じるしかねぇだろうよ。

 魔族も同じ思いだったらしい。


「開けろ」


 ルチルに向かって再び指図をしていた。


「ちょっと重いからなぁ。誰かに手伝って貰ってもいい?」

「よかろう」


 魔族の許可を得たルチルが俺に向かって手招きをして見せた。

 俺もそれに呼応して、ゆっくりとルチルの側まで歩み寄った。

 

「いい? にゃー! でいくよ?」


 なんだ、その掛け声は。


「分かった」

「「にゃー!」」


 俺達は蓋に取り付けられた太い金属の取っ手を握り締めると、同時に引っ張り上げた。

 足元がぬかるんでるから踏ん張りが効きにくい。

 バランスを取るため、俺は腰から鞘ごとブロードソードを外した。

 しっかりとバランスを取ればなんてことはない。扉は意外にもすんなりと持ち上がった。きっと頻繁に開閉される場所だから、しっかりと手入れが行き届いてるんだろう。


 両開きの扉が解放された。


 覗き込むと、中には、凄まじい量の金銀財宝が積み上げられているのが見えた。


 す、すげぇ。これがマジもんの宝物庫ってやつか。そのあまりの輝きに、俺は正直、目眩すら覚えるくらいだった。


「ほれ、どーよ?」


 意地汚く中を覗き込む俺を尻目に、ルチルは魔族へと振り返ると言い放っていた。


「ククク! まさかだな。本当にまさかだ。貴様が生き延びて出てきたことに感謝せねばなるまい。まさか、こうも容易く目的を果たせるとは」

「本当よ。私があのまま死んでたらどーするつもりだったんよ?」


 普通は死ぬような瘴気の中で一晩生き残ってた奴が何を偉そうに。本当なら死んでたんだからな。なんなら、この魔族はめちゃくちゃ運が良くて、お前はそのアシストしてんだからな。


 魔族は王様を抱えたまま浮き上がると、音も無く宝物庫へと近寄って来た。

 俺達の目の前までやって来ると、中を確認していた。


「下がれ」


 そう指図する魔族に従い、俺達は退いた。

 俺達が攻撃の間合いから出たのを確認すると、魔族は自らの頭上にドス黒い瘴気の渦を生み出しやがった。

 やりたいことは分かる。

 きっと、あの瘴気の渦はどっか違う場所に繋がってるんだろう。ってことは、あそこを通して王様の身代金である三千万G(ゴールド)を運び出すつもりなんだ。


「ちょっと! お金は王様を放してから!」


 ルチルが声を張り上げた。


「バカな人間だ。本当に我が貴様ごときとの交渉なぞに応じるとでも信じたか?」


 ま、そうだろうよ。

 魔族は王様を放す気配を微塵も見せない。むしろだ、このまま金を持ち逃げした挙げ句に王様も(あや)めるつもりなんじゃねぇか?

 きっと俺の想像は当たってる、きっと当たってるはずだ。

 みるみるうちに、宝物庫の中身は瘴気の渦に吸い込まれ始めた。


「魔族のくせに汚いぞぉ!」


 そりゃそうだろうよ。魔族だし。


「王様を放せぇー!」


 口だけで仕掛けようとはしないルチル。

 魔族も呆れてんだろう。特に動く様子もなく、ルチルの方を向いたまま宙に浮かんでいた。


「くっそぉー! ()()()!」


 ルチルがそう叫んだ。


 だから俺は解放したんだ。

 腰から外して魔族の足元に転がしたまんまのブロードソードに纏わり付かせていた、マリオネットの術をよぉ!


 「!?」


 魔族は完全に虚を突かれたらしい。

 瞬間的に足元から舞い上がったブロードソードが、王様を抱え込んでいた魔族の腕を切り落とした。


 同時にルチルも動いた。

 解放された王様の体を空中でひったくると、とんでもねぇ逃げ足で魔族から離れて行った。


 自らに何が起きたのか、魔族の野郎もそこでようやく気が付いたらしい。

 離れ行くルチルの背に向けて、何かしらの攻撃を仕掛けようとしているんだろう、残った腕を大きく振り上げやがった。


 させるかよ!


 俺は一気に魔族との間合いを詰めると、圧縮された風の手甲を纏った渾身の拳を叩き込んでやったんだ。

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