第二十話 勇者の力
「おせーぞ! クリス!」
俺はその名を叫んだ。
「すまんな! 第八納骨室に着いてもお前らがいないから、探すのに手間取ってしまった!」
そう言われればそうだ。確かに目印とか置き手紙とか何もしなかったからな。
俺がそんなことを考えていると、体の下から声が聞こえてきた。
「ちょっと、よそ見禁止って言ったでしょー!」
そんな台詞と同時に下敷きになってたルチルが俺の体を片足で持ち上げた。
重力から解放された様にフワリと投げ飛ばされた俺は、クリスの側まで勢いよく飛んでく。空中で体を捻るとしっかりと地面に着地した。
それを追って、ルチルも瞬時に立ち上がると猛ダッシュで俺の元へと駆け寄ってきた。
「さっきの部屋でも死骸を見たが、一体何なんだ? あの見たこともない魔物は」
俺の傍らで仁王立ちしたクリスが問い掛けてきた。
「魔族の手先ってことらしいな。しかも中々に手強い」
ルチルを腕で後ろに追いやりながら、俺はクリスに答えた。
「しかもとんでもない数だな。ここは引くべきじゃないのか?」
正論を返してくるクリス。
が、ハリトカゲはそれを許してくれそうもない。
既に数体が通路に入り込んできてるんだからな。
「逃げるのは失策だ。もし俺らがこいつらを引き連れてこの地下墓地を出たらどうなるよ?」
「それもそうだ。であれば、ここで殲滅するしかないということか」
クリスは笑いながら言い放った。
「えー? 殲滅ってどんだけ時間掛かるん? もう結構やばいと思うんだけどなぁ」
脇から異論を唱えたのはルチルだった。
無茶を言いやがる。
俺は困った様子を全面に押し出して首を振ってやった。
「どうした? 急ぎか?」
が、どうもクリスはお人好しらしい。まともにルチルの意見に耳を傾けた。
「早く抜けないと王様の大ピンチなんだよねぇ。それこそ、国家転覆?」
何故、疑問形。
「そうか。よく分からないが、ここを通るのが最善の策なんだな?」
「イエース。そぉでぇーす」
「分かった」
言いながら、クリスは俺とルチルを押し退けた。
「下がってろ」
通路のど真ん中に立つと、脇に構えた両腕が激しく光り輝いた。
「おい、一人でやるつもりかよ!? いくらお前が強くても……」
そう言いかけた俺の肩を誰かの手が叩いた。
この大きさ、ルチルじゃない。
「一人じゃありませんよ?」
振り返ると、俺とルチルを挟む様にして、二人の長身の男達が立っていた。
「そうそう。クリスにゃ俺様達がついてるからな」
丁寧な口調で言ったのは、ローブを纏った坊主頭の超絶イケメン。そして俺様なんて自信過剰な一人称を使ったのは、黒い長髪を後ろで束ねたジャガイモみてーなブ男だった。
「あんたら、クリスの仲間か?」
俺はピンときていた。きっとあの時、俺の兜を狙撃した二人組だ。
「申し遅れましたが、僕はガレス。そしてこちらはキャリム」
その名に驚いた。
ガレスとキャリムって言や、大陸の方じゃ知らぬ者はいねぇっつーくらい有名な傭兵、ビー兄弟の名前じゃねぇか!
「まさかあんたら、ビー兄弟か?」
俺の問い掛けに、二人は笑って頷いた。
「先ほどの死骸を見る限り、あなたは剣技で魔物を葬ったようですね。あの数を相手にするのは苦労するでしょう」
「だからここは俺様達に任せておけ」
自信満々に言い放つ二人。
正直ちょっとムカつく物言いだが、実際に図星だったりもするからな。
相手は名うてのビー兄弟だ。ここはお言葉に甘えて、お手並み拝見といこうじゃねぇか。
「サントシャーマ!」
そんな俺らのやり取りを尻目に、クリスの雄叫びが地下墓地に響き渡った。
同時に眩いばかりの光が充満する瘴気を払い、放たれた光の帯は迫り来るハリトカゲの群れを飲み込んだ。
ジャッ!
先ほどと同じく、水が熱せられて蒸発するみてぇな音を立て、ハリトカゲ達は一瞬で絶命していった。
「す、すげぇ」
俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
「このくらいはお手のものですよ!」
クリスの光の精霊術により、通路に道が開けた。それに合わせてビー兄弟も即座に動いた。
クリスの脇をすり抜けると、王家の墓の中へと飛び出した。
「フレイム!」
「グレイス!」
力ある声と共に、激しい熱気と凍てつく冷気が交互に通路へと流れ込んできた。
どうやら坊主のガレスは火の精霊術を、長髪のキャリムは氷の精霊術を使うらしいな。
「行くぞ、スクード」
俺の目の前で仁王立ちしていたクリスが振り返って言った。やはり歯を光らせてな。ムカつく。
クリスに付いて石室に入ると、既に半数近いハリトカゲが骸と化していた。
こいつら、たった一発の術で何体の魔物を倒しやがったんだ?
あまりにも規格外の攻撃に、魔物達も驚異を感じたらしい。
ビー兄弟から距離を取り、動けずにいるみてぇだ。
「フレイム!」
再びガレスの力ある声が響き、同時に巨大な炎の渦が石室を埋め尽くした。
どんなに距離を取ろうとも、あんなバカでかい炎の前では無意味に等しかった。
より集まっていたハリトカゲの小さな群れに襲い掛かると、いとも容易くこんがりと焼き上げていた。
「グレイス!」
同様にキャリムも術を放つ。巨大な氷解が空中に現れ出ると、別の場所で小さな群れを作っていたハリトカゲ達を押し潰し、氷漬けにしていった。
「サントシャーマ!」
極め付きはクリスの野郎だ。太い腕から放たれた極大の光の帯は、闇から生まれた魔物達を浄化するように焼き付くす。恐らく力の弱いやつなんだろうが、個体よっては蒸発して消え去るものすらあるくらいだ。
三人が、たったの、たったの二発ずつ術を放っただけだ。
広い石室を埋め尽くしていたハリトカゲの群れは、そのほとんどが葬られ、まばらに散らばっているだけになっていた。
「よし! 今だ! このまま走り抜けるぞ!」
クリスに先導され、ビー兄弟も走り出す。
もちろん俺とルチルもそれに追随した。
地面に転がる無数のハリトカゲの死骸を跨ぎながら、俺達は難なく石室を駆けて行く。
きっとそういう風に作られちまったんだろうな。生き残った奴ですら、まるで命なんか何とも思ってないみたいに最期まで襲い掛かってきたけど、もはやクリス達の敵じゃない。
一刀の元に叩き伏せられ、切り捨てられ、俺達が石室を通り過ぎる頃には、生き残ってる奴なんか居なくなっていた。
俺は唇を噛んでいた。
一体倒すのにあれだけ苦労したってのに。
これが本物の勇者の力か。
その時の俺は、悔しくて仕方がなかったんだ。




