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第十三話 友達

 おいおい、この国の権力者に対してどんだけ強気に出られんだ。

 歳だって俺と変わらねー、勇者としても人間としても青二才だって評されてもおかしくねーくせに。

 こいつが言うように、互いの全てを賭ければ、この場で片が付くような提案だ。しかもこっちがその提案を飲まなければ、ほぼ黒だと認めたようなもんになる。

 どうやってやり過ごすべきか。

 俺が足りねぇ頭をフル回転させていた、そんな時だった。


「確かにそなたの言う通りでしょう」


 先に口火を切ったのはミサミサ。

 一体何を言うのか、俺は慎重に耳を傾けた。


「ですが、やはりそなたの提案を飲むことは致しません。そなたが私に言い掛かりをつけた以上、私は既に不敬罪を主張します」


 来た! 強権発動!

 確かにそうだ。いくらクリスの主張に筋が通っていようが、相手は大臣夫人。あんな態度を取った時点でそう切り捨てられてもおかしくねぇんだ。

 

「これはこれは、失礼致しました。慎んで謝罪致します」


 流石に証拠も掴まずに捕縛は旨くないと悟ったんだろう。クリスも素直に頭を下げた。

 これで少なくともこの場はやり過ごせる。

 だが、問題は残る。

 どうせこいつはこの後も付き纏うことになるだろう。下手すれば、どうにかして俺の鎧を剥ぎ取ろうと仕掛けてくるかもしれねぇ。

 そんな中で、悠長にルチルを探せるものか。

 これはかなり厳しい。出来ればこいつの監視から身を隠したい。

 その為にはどうするべきか。

 ミサミサも同じことを考えていたらしい。


「もはや手遅れです。その者を拘束なさい!」


 号令と共に俺以外の近衛兵が一斉にクリスへと詰め寄ったのだ。

 なるほど、これが正解かもな。

 本気で罪に問うかどうかは別として、今ここでクリスを取り押さえておけばそれが最も都合が良い。

 どうやら抵抗する方が不利だと判断したらしい。クリスも両手を挙げて大人しくしてるみてぇだ。

 俺とミサミサは、そんなクリスを尻目に足早に馬車に駆け寄ると、キャリッジに乗り込もうとした。


 カァン!


 甲高い金属音が辺りに鳴り響いた。

 と同時に、俺の頬を、濡れた頭皮を、爽やかな風が撫でて通り過ぎた。

 俺は戦慄した。

 この感触……開けた視界……そしてこの透き通る程の解放感……間違いねぇ。

 兜が飛ばされたんだ。

 

「やっぱりな! スクード!」


 クリスの嬉しそうな声が辺りに響き渡った。

 一瞬思考が停止しそうになったものの、俺は無理やりにミサミサを馬車に押し込むと、御者に向けて怒鳴り付けた。

 扉を閉めると同時に馬車は猛スピードで走り出した。

 キャリッジの覗き窓から背後を振り返ると、近衛兵に押さえ付けられるクリスの姿。

 だが見たいのはそれじゃねぇ。

 周囲に視線を巡らして、通り沿いの大きなホテルの屋上にそれを見付けた。

 二人組だ。

 どうやったかは知らねぇが、あそこから俺の兜を狙撃して飛ばしやがったんだ。

 どう考えてもクリスの仲間だよな。あいつ、始めからこれを狙ってやがったのか。


「どうしよう、バレちゃった!」


 ぐんぐんと離れ行く馬車の中で、ミサミサが不安そうに声を上げていた。

 分かってるさ。これでミサミサは誘拐犯を匿ってた罪に問われることになる。

 だが、それに関しちゃ俺だってちゃんと考えてんだ。


「どうもこうもねぇ。あんたは俺に脅された。それだけだ」


 俺はきっぱりと言ってやった。

 その言い訳なら少なくとも大臣様やミサミサに危害は及ばねぇ。もし捕まったとして、罰せられるのは俺だけになる。

 もはや甲冑は不要だ。狭い車内で中腰になりながら、ガチャガチャと装備を取り外していった。

 後はどうやってルチルを探し出すかだ。

 色々問題は山積みだが、俺一人ならまだやりようもあるし、ここでミサミサとは別れた方がいいかもしんねぇな。

 そんなことを思い巡らせていた俺に、ミサミサは怒声を浴びせ掛けた。 


「そんなのどっちでもいい! 私が言ってるのは、ルチルを助けられなくなっちゃうってこと!!」


 怒声だけじゃない。片足立ちで具足を取り外していた俺の肩を思い切り押し退けやがった。

 もちろんバランスを崩すよな、そんなんされたらよぉ。

 俺はキャリッジの壁におもっくそ頭をぶつけた。


「いってぇな! 押すなよ!」

「君ね、君がいなくて私だけで魔族からルチルを取り戻せると思ってるの!? 今は変な嫌疑が掛けられちゃったから大臣家(うち)の家臣の人達も迂闊に動かせないし! もう君しか頼る人いないんだよ!?」

「って、おい! まさかあんた、この期に及んでもまだ自分でルチルを助け出す気でいるのかよ?」

「当たり前でしょ! ルチルは私の大切な友達なんだから!」

「……友達、かよ。それだけの理由かよ」


 頭を押さえながら呟いた。

 言いたいことは分かる。

 もし仮に俺が捕まっちまったとして、どんなに短くても数日は尋問を受けるだろうし、ミサミサにも謹慎処分が下るだろう。その間は俺やミサミサがどんなに真犯人の存在を主張したところで、衛兵が動くことはないはずだ。

 そんだけ時間が経ちゃ、ルチルの生存確率はどんどん下がる一方だし、魔族が絡んでるとなりゃその隙に何をしでかすかも分からねぇ。

 てか、魔族はそれを望んで誘拐なんか企てたんだろうからな。

 恐らくミサミサもそれを分かって言ってるんだろう。

 こうなりゃもうスピード勝負だ。

 クリスが衛兵を連れて俺に追い付く前にルチルを見付け出すしかねぇ。


「あんたの気持ちはよく分かった」


 馬車に隠してあった荷物を取り出すと、髪をかき上げてからフライトキャップとゴーグルに頭をねじ込んだ。


「俺だって、魔族が絡んでんなら手は引けねぇし、何よりもあんたの友達を見捨てるつもりもねぇ」


 目指すは大聖堂、ただ一つだ。


「やろうぜ。俺とあんた、それにルチルもだ。こんな目に遭わせたクソッタレ魔族の鼻を明かしてやるんだ」


 馬車は大聖堂を目指してまっしぐらに進んでいったんだ。

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