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五人の姉妹

――――――数年後。


「【火球(フレイム)】!」


銀髪を一本に纏め、右に靡かせた小柄な少女、シルヘイトの短剣型のメイヴから拳大の炎の塊が発射される。


「シル。こんな安直な攻撃じゃあ突破出来ないよ」


ショートカットの少女、エーリサイドは鎖鎌型のメイヴをジャラジャラと振り回すと、炎の球目掛け投擲する。

鎖の長さは直径十メートル程度、まだ射程には入っていないが。


悠久へと続く道(トワイライト)


刹那、鎖が拡張する。

発動したのは鎖鎌型メイヴの限定魔法、悠久へと続く道。

魔力の流れている物体を複製、接合し長さを拡張するという単純な魔法だが、鎖鎌のような特殊なメイヴを扱う際、この魔法は必ずと言っていい程最初に教えられる。

というのも。


「今度はこっちから行くよ!」


エーリサイドが鎖鎌を横薙ぎに振る。

鎖鎌の本領はその射程。

一見殺傷能力が低いように見えるその見た目だが、一度鎖に触れてしまえば即座に遠心力により巻き付き、先端の鎌が命を奪う。

制御には力と技術が必要なため、エーリサイドも未だ制御できるのは20メートル程度だが、それでも距離の優位を確保できることに変わりはない。

相手がこちらの特性を熟知していなければ、だが。


「むっ、面倒なのです!」


振るわれる鎖鎌に対し、シルヘイトはタイミングよく小さい背を利用し、しゃがんで躱すと、地面を蹴って距離を詰める。

鎖鎌は近接戦闘を得意としない。

近寄られてしまえば鎖は使えず、残るのは小さな鎌だけだ。

だからこそ、エーリサイドは咄嗟に判断する。


「詰めさせないよ」


エーリサイドは咄嗟に後方に跳ぶと、鎌を引き戻す。

彼我の距離は数メートル程度。

丁度、鎖鎌の優位射程だが。


「かかったのです!}


その時、追い詰められたはずのシルヘイトの表情は笑っていた。


「っ、不味い!」


刹那、エーリサイドが気づくよりも早く後方の魔法陣が発行する。

火属性の罠型魔法。

エーリサイドは咄嗟に体を捻り、メイヴで魔法陣を破壊しようとするも、遅い。


炎柱(フレイムピラー)


直後、魔法陣を中心に巨大な火柱が上がった。






「戦闘訓練。勝者、シルー!!」


数秒後、最初に聞こえてきたのは元気一杯なハクアの声だった。


「ふふふ、私の勝ちなのです!」

「シルは強いね。良い子良い子」


エーリサイドは喜んでいるシルヘイトの元へ歩いていくと、頭を優しく撫でる。

そして自然な動作で首元に手を回すと、どこから取り出したのか、首元にナイフを突きつけた。


「これで‥‥‥一勝一敗かな?」

「‥‥‥忘れてたのです」


「暗殺訓練。勝者、エリ―!!」


再び元気な声が響く。

ハクアの役目は審判。

戦闘訓練と暗殺訓練。

二人ずつで行う訓練のため、毎日ローテーションでこの役回りを行っている。


「おっ、終わったぁ~?」


その時、奥にあるもう一つの部屋から二人の銀髪の少女達が出てくる。

レイティアとキラサイト、執事であるレクトを審判に同訓練をこなしていた二人だ。


「エリー、今日はどっちが勝ったの?」

「ああ、ティア。いつも通りだよ。戦闘訓練はシルで暗殺訓練は私。もうお姉ちゃんの威厳が保てないよ」

「ふふん、もう私の方が強いのです!」


胸を張るシルヘイト。

褒めて褒めてと言わんばかりの表情だが、少し気になるところもある。


「シル、暗殺訓練また負けたの?」

「‥‥‥むぐぐ」


唸り声を上げるシルヘイト。

元々、性格的な問題なのかシルヘイトとキラサイトは警戒心が異常に薄い。

否、薄いという訳ではないのだが、信頼しきった相手には直ぐに無防備になってしまう。


「シルは戦闘力は高いんだから、そこだけ直せばもっと強くなると思うよ」

「むぅ~、はいなのです」

「よしよし」


エーリサイドが頭を撫でる。

と、そこで思い出したようにハクアが口を開いた。


「そう言えば、お姉ちゃんの方はどうだったの?」


この言葉に、視線がレイティアとキラサイトの方へ向く。

ただこちらは反対に、結果は分かり切っていたが。


「こっち?こっちは私の二勝だよ、いつも通り」

「レー姉強すぎるのだ。背後から接近しようと思ったら『今は止めた方が良いと思うよ?』って‥‥‥」

「‥‥‥うわっ、大人げない」


エーリサイドが呆れたような声を出す。

五人の中でそれぞれこれまでの勝敗を纏めているが、レイティアだけは未だ無敗。


「相変わらず、ティアは圧倒的だね」

「まあ、一番強くなきゃ次期当主にはなれないからね」


レイティアが苦笑する。


リーフェンシア家では8年に一度当主が決まるが、その基準は魔力量によってと決められている。

現状では恐らくレイティアの独走と言った所だろう。


「む~、私も負けないわ」


ハクアが息巻く。

きっとそれは単なる対抗心のようなものだったのだろう。

当主になれば母ともう一度会うことが出来る。

勿論、レイティアがなっても一緒に暮らせるのだろうが、一番に母にただいまを言うのは自分が良い。


「いくらお姉ちゃんが相手でも今回は譲れないわ。私が最初にお母さんに褒めてもらうんだから!!」

「おっ、言ったね。私も負けないよ……!」


二人が笑う。


「ちょっと、私達を忘れてない?」

「そうだそうだ、なのだ~!!」

「私達もじきとーしゅになるのです~!!」


そこへ、隣から入ってきた3人も交え、暫くの間、訓練場の中には笑い声が木霊していた。






「私と姉様はどちらが勝っても恨みっこなし……」

「どっちが勝っても……」

「ええ……どうせ全員自由にしてあげるつもりだったし、皆お互いが大好きだったから、面倒事は自分が引き受けよう、その程度の軽い気持ちだったわ」

「……それなら何で」

「分からないわ……」






「エリ、訓練場は?」

「ううん、いない!ハク、中庭は?」

「いなかったわ!」


三人は慌てて事前に教えてもらっていたサイラスの部屋に駆け込んだ。


「当主様。シルとキラが居なくなりました!」

「何っ?」


エーリサイドがノックも忘れ慌てて部屋に入るとモニターと向き合っていたリーフェンシア家現当主、サイラス・リーフェンシアがモニターを閉じ三人の方へ向き直る。その横には執事であるレクトもいる。


「当主様。シルとキラが、シルとキラが!」

「落ち着いてエリ、大丈夫だから」

「う、うん。ごめんティア」


レイティアが落ち着いた口調で宥めると少し落ち着いたのかサイラスに頭を下げる。


「当主様申し訳ありません。ノックもせず」

「いや、今回は構わん。エーリサイド、レイティア、ハクア。今の話は本当か?」


エーリサイドは急いで状況を説明しようと一歩前に出ようとするが途中でハクアに服を掴まれ静止する。ハクアはエーリサイドに小さく「大丈夫」と言うとそれを見計らったかのようにレイティアが一歩前に出て説明を始める。


「はい。今日の朝私たちが起きた時部屋から二人が消えていました。戦闘の痕跡はなし。しかしいくら寝ていたとはいえ、私たちが誰も気配を察知することができなかったので、相当な手練れかと思われます」


レイティアの説明にサイラスが頷く。


「分かった。お前たちは下がっていい。今日は訓練も中止だ。部屋でおとなしく過ごしていろ。俺達は今から捜索に入る」


四大貴族であるリーフェンシア家、その影響範囲は国全土に及ぶ。

恐らくリーフェンシア家が捜索すると約束してくれたのならシルもキラも見つかるだろう。

国外にでも逃亡されない限り。


「当主様」

「ん、なんだ?」

「シルとキラを、よろしくお願いします」


その時、勢いよく頭を下げたエーリサイドに驚いたのはここにいる全員だっただろう。

エーリサイドは元々自分から話しかけるのをあまり得意としない内気な女の子だ。

勿論、レイティアやハクアといる時は普通に話すし、人見知りも徐々に治ってきてはいるが、それでも彼女がサイラスに自分の意思を伝えたことなど、連れてこられたあの日から一度もない。


「エリー……」

「ふっ、良い変化だ。レクト、『三刃鬼』も使って構わん。今動員できるすべての戦力を使ってシルとキラを捜索しろ」

「了解しました」


その瞬間、レクトの体が空気に溶け消えていく。それを見届けたサイラスは三人の方に向き直りエーリサイドに僅かな笑みを湛え話しかけた。


「これで大丈夫だ。エーリサイドも早く部屋に戻って休め」

「はいっ!ありがとうございます」


エーリサイドは少し嬉しそうにお辞儀をするとハクアとレイティアの手を引き部屋に戻っていった。






「四大貴族であるリーフェンシア家の総力をもってしても見つからなかったのか?」

「ええ。そう言っていたわ。もしかしたら第三世代の排斥団体が関与している可能性もあるから、捜索は家に任せて3人は訓練に励めって」

「そうか」

「そう。そしてその1年後……」






「今日3人には魔力適性検査を受けてもらう」


サイラスの言葉に、3人が姿勢を正す。

次いで口を開いたのは近くにいた若い女性だった。


「初めまして。私が今日君たちの検査を担当する果空(はてぞら) 蓮花(れんか)です。さっそくで悪いけど、三人には順番にあのカプセルの中に入ってもらうね」


果空が指さす先には、丁度人が一人入るほどの大きさの黒いカプセル。


「……あれは?」

「ん、あれは魔力適性を図る検査装置。君たちの今の魔力量や属性、武具適性まで図ることが出来るんだよ」


果空はそこで言葉を切ると、画面を開く。


「ええっと、赤いリボンを着けてる……君がハクア・リーフェンシアさんで合ってるかな?」

「は、はい!」


恐らく、画面にはそれぞれの特徴が書かれていたのだろう。

当の本人たちは忘れがちになるが、確かに3人は姉妹なのだ。


「で、その横のストレートの子がレイティア・リーフェンシアさん」

「はい」

「そして、最後のポニーテールの君がエーリサイド・リーフェンシアさんだね」

「あ、は、はい」


そしてエーリサイドの名前も呼ばれ三人全員の名前確認が終わったところで、果空はハクアへと手を差し出す。


「それじゃあ、ハクアさん。君から行こうか」

「はい!」


そして、導かれるままハクアは、黒いカプセルの中へと足を踏み入れた。






「結果はどうだったんだ?」

「私が勝ったわ」

「そうなのか?」

「ええ……偶然かもしれないけど、魔力量は私が上だった」

「なら……」

「でも、その時からだった。姉様がおかしくなったのは……」






数日後。


「お姉ちゃん!エリー!」


ある日の深夜、ハクアはリーフェンシア邸の廊下を走っていた。

理由は至極単純、目を覚ました時レイティアとエーリサイドの姿が消失していたからだ。


(そんな……絶対に嫌……!)


一年前、消えてしまったシルとキラは未だ見つかっていない。

不安が募る。

行く可能性のある場所は全て調べた。

ハクアは微かな可能性を信じ、当主の部屋を目掛けて走る。

きっと行動こそが間違いだったのだろう。

微かに扉から漏れる光を頼りに、焦っていたハクアは咄嗟に扉を開き……見てしまった。

荒れた当主室の中、血溜まりの中で目を瞑ったまま横たわるエーリサイド。

そして、そんな横たわる彼女の身体の前で、全身を深紅に染めたまま立ち尽くす姉の姿を。


「お……ねえちゃん……?」

「……ハクアちゃん」


何が起きているのか理解が出来なかった。

レイティアがエーリサイドを殺したのか、否、それは有り得ない。

ならばサイラスかレクトが殺したのか、否、それなら姉しか返り血を浴びるわけがない。

嫌だ……認めたくない……それを口に出してしまえば、全てが変わってしまいそうで。


「……ごめんね」


レイティアの姿が消える。

長い付き合いなのだ、現れる場所は分かる。

だが……身体が動かなかった。


「……あ」


直後、視界が反転する。

何処で間違えてしまったのか。

自分はただ、姉がいてくれるだけでよかったのに。


「どう……してよ……お姉、ちゃん……」

「……さようなら」


途切れ行く意識の中最後に見たのは、ハクアへと冷徹な視線を向ける姉の姿だった。






「……これが、私と姉様の全て」

「それから、シアはどうしたんだ?」

「どうもしないわ。ただ目が覚めた時は元々寝てたベッドの上で、その日から私はリーフェンシア家の中で隔離されるようになった」


まるで腫れ物を扱うかのような、誰からも興味を向けられない日々。


「レイティア先輩は、当主になりたかったのか?」

「分からないわ。それに……」

「エーリサイドさんを殺したのは先輩?」

「ええ。信じたくはないけれど……」


ハクアの言葉に、沈黙が走る。

全てを悟り、諦めたような重い沈黙。

そんな中、最初に口を開いたのはフィデスだった。


「シアはどうしたいんだ……?」

「……?」


フィデスの質問にハクアが首を傾げる。

質問の意味が分からなかった。


「どうって……」

「深く考えなくていいよ。俺達はシアが望む方へ協力する。もう一度レイティア先輩と話したいっていうのであれば協力するし、関係を断ちたいっていうなら――――――」

「――――――そんな訳ない!!」


ハクアはあっ、と口を噤む。

だが、それは確かにハクアの本心だった。


「そうか。分かった……」

「だねぇ~」


二人が微笑む。

そして、座っているハクアへそっと手を差し出した。


「行こう、レイティア先輩と話をするために……!!」

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