第8話:再会
途中からしゃっくりが止まらなくなった。
だが、ふと気が付くと止まっている。
なんともミステリーな出来事だった。
鞄を肩に掛けるように持ち、後ろを振り返る。
今もなお、夕日に照らされている校舎が目に映る。
「ここで…あと三年か」
どこか意味深に口に出すクロト。
その言葉の奥にどんな真意があるのか、私には分からない。
他人だから、と言えばそうなのだが、私が、そうだ、と決定付けたくないのだ。
頭で理解したいと思えど、理解はできない。
だが、それ以前に自分のことは自分でしか分からない。
そんな当たり前のことを私は自分自身に再確認させられた。
「憂鬱だな………」
クロトは苦笑いを浮かべながらも、どこかこの先。
そう、何かが待ち構えているであろう未来を楽しみにしているようにも見えた。
私はそっと電柱から顔を覗かせている。
別に恥ずかしがり屋なわけではない。
かといって、あの人を眺めているだけで私は十分、などという恋焦がれている可憐な少女でもない。
ただの可憐な少女である。
そこは否定しない。何故なら真実なのだから。
今も尚、校舎を眺めていたクロトは、ゆっくりと歩き出した。どうやら帰るようだ。
用心に用心を重ねて尾行を開始する。
クロトを眺めながら、私は静かに微笑んだ。
「さて、どうしたものか」
誰にも聞かれない程度に呟く。
俺が校門を後にしてから数分が過ぎていた。
最初っから……いや、途中から突き刺すような視線を感じた。
中学の頃、俺はよく狙われていたので、誰かが見ている、という行為には敏感に反応することが出来た。
なので、今回も似たようなものだ。
ただ、違うのが一点だけ。
向けられている視線が微妙に違うということだけだった。
何か殺意のようなものではなく、ただならぬ興味を抱いているような。
言わば、子供が玩具を見つけた、そんな興味本位の視線。
初めてその視線を感じたのは、校門で立ち止まり校舎を見ていた時だった。
威圧されるような視線を俺は感じた。
さり気なく帰り際に視線を感じた方向を見る。
それと同時に電柱に隠れる人陰を見た。多分、女の子だろう。
隠れた時にスカートらしき物が目に入った。
まぁ、これで男だった時はこの上なく気持ち悪いが…………。
そして、数分が経過し、今に当たる訳だ。
女の子のストーカー行為はまだ続いていた。
そろそろ本気で逃げた方が良いだろうか。
それとも正体を突き止めて、詳しく説明してもらうか。
二択で迷う。
だが、この視線……前にも感じたことがあったような気がする。
前といってもつい最近……例えば、今日の朝とかに。
「………あッ」
俺には一つ心当たりがあった。
あまり思い出したくない心当たり、それは。
「まさか……お前」
顔が引きつりながら振り向く。
サッと電柱に隠れる影。
だがそれは、残念な形となっていた。
今回の電柱は隠れるには細すぎたようで、体の中央だけを隠し左右はバッチリ見えていた。
「いや、隠れてねぇから」
咄嗟に突っ込む。
「………私は電柱、道路の脇に立ち並ぶ何本もの電柱。だから、そっとしといて」
「あぁ、悪ぃ悪ぃ。この頃、ボケてきてて。じゃあ、またな………って、できるかぁぁぁぁあああ!!」
思わずノリツッコミをかます。
「……やっぱ、無理か。残念」
さすがに諦めたのか、電柱から完全に姿を現した。
やはり女の子だった。
そして、今日の朝のあの子でもあった。
「まさかとは思っていたが、お前……朝の奴か」
「朝の奴?私にはなんのことやら、さっぱり」
両手を広げ、やれやれと言わんばかりの仕草をするコイツ。
「本当にボケてきてんじゃないの?」
「……惚ける気か?」
「惚けるも何も、私、分かんない」
可愛げに首を傾げる確信犯。ちゃっかり、エヘッと笑いも入れる。
絶対にワザとやってるぞ、アレ。
そもそも、可愛い仕草をしている所から有り得ん。
普通に考えて、そんな奴がこの世に存在している訳がない。
いるとしたなら、そいつは策士だ。俺はそう思う。
現実とはそんなに甘くないのだ。
それが現実という所、俺達が生きていくこの世界の真理。
「……まぁ、別にそんなこと、どうでも良いがな」
ハァ、と溜息を吐く。
「それよりもなんでまた、貧乏人であるこの俺をストーカーしてたんだ?……えっーと、名前は?」
「ストーカーは興味程度かな。名前は………国家機密」
「ほうほう、コッカー・キミーツと言うのか。じゃあ、キミーツで良いか?」
「………バカ?」
「いや、ボケだから突っ込めよ」
「私、ボケ担当」
「知るか」
なんとなく流れに身を任せた話をした。結果、趣旨がズレる。
ハッと俺はそのことに気付き、自身の髪をグチャグチャにする。
「いやいや、違うぞ」
「いやいや。だから、私はボケ担当だってば」
「違うわ!!俺が言ってんのは、なんで世間話をしているのかってトコだ」
一瞬、固まるキミーツ(一応、命名)。だが、すぐに動き出す。
「突っ込み所が違くない?もっと前の方からだとは思うけど…………」
「ほっとけ」
故意にストーカーという部分に突っ込みを入れなかった俺は、また溜息を吐いた。
「ハァ」
「アンタが溜息するとスッキリ。でも、その溜息聞いて、私ガックリ」
俺は肩を落として、何故かキミーツもまた肩を落とす。
意味が分からん。
なんだ?俺をバカにしてんのか?
一応、頭をぶっておく。
「イタッ!……イタイ…何故、私をぶつんだ?」
少し涙ぐむキミーツ。ぶたれた部分を手で摩る。
しかし、そこはあえて何も言わず立ち去ろうとした。
「ちょっと、待てッ!!」
キミーツが声を掛けてくるが無視する。
だが、それでもしつこくガミガミと煩い。もう一回、ぶつか?
ふと、そんな考えも出たが、面倒くさくなった俺はあることを思いついた。
成功は低確率だが、相手に精神的ダメージは与えられる。
俺はキミーツに向き直り、人差し指で宙を指した。
たまに見るベタな奴だ。
「オイ!あそこにUFOが…………」
「未確認飛行物体、英語ならアナイデンティファイド・フライング・オブジェクト、その頭文字をとりUFO。で、本当にいるかいないかと世間が賛否両論で争われているそのUFOが、どうかしたのかな?かな?」
「い、いや、だからあそこに…………」
「こんな一般の町、それもどこにでもありそうな道路を歩いている私達がUFOを見る訳がないよね」
「あ、いや、あそこ…………」
「もしも、もしもだけど、UFOらしき物体を見たとする。だが、それをどうやって説明する?どっかに証拠があるの?あるなら見せて、ここにUFOがいました、と証明できれば良いんだけど。それで何かな?」
「いえ、なんでもないです」
あからさまに怪しい笑みを浮かべたキミーツが、フフフと不気味な笑い声をし、嫌味として聞いてくる。
絶対に仕返しのつもりだろう。
クッ、詳しく説明が入ったUFOがどうかしたか、などと聞かれて言える訳がないだろ。
あそこにUFOがいる、などと馬鹿げたことを。
完全敗北をきした俺は苦し紛れにハハハと苦笑いする。
キミーツはというとハハハと楽しく笑っていた。
もう一回ぶつ。
「イッ!?……タ〜。なんで、またぶつ?」
再び涙目になったキミーツを見て、いい気味と満足げに笑った。
「フゥ、さてと。今から帰るが、まだお前はストーカーを続けるのか?俺は別にどっちでも良いが、早く帰らんと親が心配すんだろ?」
俺はキミーツに聞いてみる。
口を尖らせてしょげていたキミーツは顔を上げる。
目が点になっていた。
ん?俺、今変なこと言ったっけ?
自分の頭の中がはてなで支配されていき、首を傾げた。腕組も忘れずに。
刹那、キミーツが笑った。
「フッ、やっぱ面白いな〜クロトは」
先程まで悪魔の皮を被ったかのように不気味に笑っていた少女が、今は打って変わったように天使のような明るい笑顔になっていた。
イキナリの豹変っぷりに驚かされ、思わず今度はこっちが目が点になる。
だが、本当に良い笑顔になっているのを見て、そのまま天使に見惚れていた。
「ってか、クロトって、なんで俺を知ってんだ?」
クロトと呼ばれて違和感がなかったことで突っ込みが遅れたが、一応突っ込んでおく。
時に悪魔であり天使のような容姿を持つキミーツは、ヘッ?、と間抜けな声を出した。
待てよ、と咄嗟にあるパターンが頭をよぎる。
「……私、クロトと同じクラスだけど?それにクロトの後ろの席」
やっぱりか。
初めっから、なんとなくだったが疑っていた。
そうじゃないか?、などと思っていたら本当にそうだったというオチが連発。
最早ここまできたら清々しい気分だな。
でもな、こうも旨い具合に事が進むと気味が悪いとさえ思う。
もしも、こんなちんけな世界に、それも普通である(?)この町に神様がいるとしたなら、迷わずハッキリと俺はこう言うだろう。
アンタは何をお考えで?、と。
そして、神様は言うに違いない。
クロトが望まない世界への変革、と。
これはただの俺の考えでしかない、妄想でしかない。
だがな、神様とはこういう存在なのかも知れない。
面白ければ良い、そんな神様もいるということだ。
なら、そんな神様に俺から一言だけ。
俺はアンタを許さない。
絶対、呪われるよな―――――――俺。
やっぱり、書くのは面白いですね。
読むのもまた悪くないですが、これはこれで悪くない。
そう思いませんか?




