第5話:学食
キーンコーンカーンコーン、昼休みの鐘が鳴る。
机に突っ伏していた顔をそれと同時に顔上げる俺。
「起立」
学級委員が号令を掛ける。
「礼」
一同が頭を下げて、次に上げる瞬間、それは起こった。
そう暴動だ。
「……い、今、なんて?」
「いや〜、だからね。もう全部、売り切れちゃって何も残ってないのよ〜。ほんとゴメンね〜」
学食のおばちゃんは俺の横を通り過ぎる。
俺はその場に立ち尽くした。さっきまでパンを売っていたであろう目の前に。
そしてもう一人、俺と惨劇を受けた奴がいた。
み…ず……いや、思い出すのが面倒だし、ナナシでいいか。
そう、名が無しと書いてナナシもまた、昼抜きとなったのだった。
ナナシは足から崩れ、膝がつくように倒れており、少し痙攣していた。
俺はというと顔が今日一番に引きつっていた。
「マ、マジっすか?」
あれは数分前のこと。
起立、礼が終わった瞬間を見計らっていたのか、教室のほぼ全員の男子は急にどこかへ走り去った。
男子だけで残されていたのは、俺とナナシとこの教室の一番の常識人(?)である藤宮。
俺は藤宮に近寄る。
どうやら雑誌を見ているようだ。表紙にバイクなどが書いてある。
中身もそれ関係でいっぱいだ。だが、どうも俺は興味が無い。
将来、車かバイクを買おうとは思うが、あんまり詳しくは無かった。
俺が興味で雑誌を見ている視線を感じたのか、藤宮が気付いた。
「興味があるのか?クロトも」
「ん?ああ〜いや、違うんだ。ちょっと、聞きたいことがあってな」
雑誌に落としていた顔がこちらを見ている。
クールというべきなのか、無愛想なのかは定かではないが、あまり表情が顔に出ないタイプだ。
顔は悪くない。女子にモテそうなタイプというべきだろうか?まぁ、そんな所。だが、顔が無愛想だからと決して悪い奴でもない。男子にも女子にも結構人気があって、気軽に話せるタイプでもある。
「さっき物凄い形相で出て行った男子のことなんだけど」
一瞬、固まり「あぁ、アレか」と納得した藤宮は少し引きつった顔で言った。
「あれはな、簡単に言うと学食に行ったんだ」
「学食に?」
「ああ」
学食といえば、あのパンやら何やらが売っている場所だよな。
だが、あんなに急いで行く程か?普通はもっと歩いていくだろ。まぁ、小走りぐらいならするかも知れないが、あそこまでは……なぁ?さすがに引くぞ?
「何故に学食に?」
どっからか出した紙容器の飲みの物にストローを挿した藤宮は言った。
「一瞬で無くなるらしいぞ」
「…一瞬って、パンとか弁当やらその他もろもろのことか?」
ストローを咥えた藤宮が「あぁ」と答えた。
俺は「そんな、バカなぁ」と笑っていた。
そして、現状に至るわけだ。
「ってか、納得いかねぇぇぇぇ!!」
普通はありえねぇ状況だぞ?
さっき、そこら辺にいる転がっている戦争の産物に聞いてみたが、今回は五分で完売。いや、五分も経たずに完売したらしい。
チャイムが鳴って五分後には完売、ということか。
何たる失態だ。この俺がまさかの昼抜きになるとは………ショック。
これでも欠かさず朝、昼、夜。三食を楽しみに生きてきたというのに。最悪だ。
これでは、これまで積み上げてきた記録がぁぁぁぁぁあああ!!
立ち尽くしたまま、頭を片手で抑えたままの状態になった。
これで俺もまた戦争の産物となったことを認めたことになる。
これまた顔が引きつる。
一瞬、知り合いから分けて貰おうか?などと考えてみたが、仕方なく断念した。
つまり、まともな奴がいないわけ。
亜美はあの性格だからくれないだろうが、麻里はあの性格からいくと貰えるかもしれない。
だが、問題がある。麻里は超が付くほどの甘党だ。なので、麻里の弁当は甘くなっている。魚も肉も野菜も、勿論のことご飯さえも甘くしてしまっている。全て砂糖を加えて調理しているらしいが、聞いただけで少し気分が………。
だが、俺は直ぐにこんなことをしている場合じゃないと気が付き、他の友人に頼もうと思ったが結果は見えているので諦めた。
「こんなことなら、朝、コンビニでも寄っとけば良かったな」
肩を落として深い溜息を吐いた。
「ハァ」
そんな時だった。俺に天使が微笑んだのは。
「あの〜すいません」
女の子らしい可愛い声を出して、誰かが俺に声を掛けてきた。
戦争の産物となった俺は、気の無い返事をしてそっちを向いた。
そこには俺と同年代の子がいた。
「もし、ご、ご迷惑でなければ、一緒に……」
俺は一瞬、違和感を覚えた。
だが、その可愛らしい女の子に違和感があったのでない。もっと他の恐ろしい者達に…………。
「ほうほう、クロトよ。友人を差し置いて、一人だけ女の子の弁当かい?ええ!?」
俺はその違和感がようやく分かり、後ろを振り向く。
ほぼ学食の奴らがこちらを見て、殺意に近いものが確実にこちらに向けられていた。
さっきまで倒れていた屍ものそのそと立ち上がり、その先頭にはナナシがいた。
「誰が友人だ。それにここにいるお前ら、何をそんなに殺意むき出してんだ?」
「そんなの決まっているだろ」
ナナシが代表として喋る。
「それは」
『それは』
ナナシの言葉を繰り返しす一同。そして、静かに震えだす。
さすがに一々、相手するのが面倒臭くなってきた俺は、さっきの女の子の手を引いて連れ出す。
運良くバレなかったようだ。
バカ一同は揺るえながら下向いていたからな、何か叫ぼうとしていたのだろう。
俺が女の子を連れ出して、十数秒後『お前が!!!っていないのかよ!!!』と聞こえてきた。
凄いな。まさか、そこまで揃うとは合唱団の皆さんもさぞビックリされているだろう。
それに突っ込みまで息ピッタリとはどういうことだ?
アレは………さすがに練習してんだろうな。
ふと、逃げながらもそんなことを思い、苦笑いを浮かべたのだった。
毎日、書くのは少し辛いので気が向いたら書くことにします。
来訪者さん達は気軽に読みに来てくださいね。
待ってますよ……フフフフフ。




