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第13話:嘘

「ふぅ、いっちょ上がりだな」


 新聞配達を終えて、帰宅途中。


 家の近くの自動販売機に立ち寄り、そこでコーヒー牛乳を買う。


 最近では珍しいビンのコーヒー牛乳で、近所ではココの自販機でしか売っていない、超レアな飲み物だ。


 片方の手を腰にやり、もう片方の手でコーヒー牛乳を一気飲みするように飲みきる。


 そして「くはぁああ!」と一言。


 最高だ。分かる人には分かるだろう。


 普通ならお風呂上がり、いや、温泉上がりに飲むのが定番だが、俺の場合は一仕事終えた後のささやかな楽しみなのである。


 疲れた後は何かしらの癒やしが欲しいものなのだ。


 特に今日は。


「どうしよう・・・どんな顔で会えば良いんだよ・・・」


 今朝のことを思い出し、再び顔を赤く染める。


 実の所、てんまのことが頭から離れないでいる。


 新聞配達中もずっと。


 そのせいか普段より配達が遅れた。


 遅れたと言っても、配達時間内には終わっている。


 ただ、色々とミスをした。


 まず、早起きのおじいさんに対しては、いつも手渡しなのを忘れ、何故か差し出された手を握りしめて熱く応えたり。


 ふくよかな奥さんに対しては、タイミング悪く今朝の事がフラッシュバックして「可愛い」とうっかり口に出し、何故か抱きしめられ「私があと30年若かったら」とよく分からない答えが返ってきたり。


 いつもガンを飛ばしてくる暴走族やヤンキーに対しては、普段の無表情で顔を向けただけなのだが「笑顔が逆に怖えぇぇ!!」と逃げ出したり。


 全速力で走行する自転車と並走する兄貴に対しては、また殴られると警戒してファイティングポーズを取る兄貴を裏腹に「いつも殴ってごめんな」と優しく言葉を掛けると、突然立ち止まり「だ、誰だオマエは!?き、気持ちわりぃ・・・」とえずいたり。


 ・・・ん?後半、ミスと言えるのか微妙なラインだな。


 まぁ、取り敢えずいつも通りではなかったということだ。


「ハァ。まぁ、贅沢な悩みなのだろうがな」


 そう。コレこそが青春!!というベタな漫画のようなシュチュエーション。


 だが実際に起こってみると分かるように、嬉しい!というより、どうしたら良いんだ!?という困った気持ちのがデカい。


 再びため息を吐くも一つ疑問に思うことがある。


 本当に俺はテンマのことを好きなのだろうか?


 惚れた、と瞬間的に何度か思ったのだが、ただ可愛い子に告白されて舞い上がっているだけなのでは?


 ふと思った些細な疑問だったのが、自分の中で次第に大きくなる。


 もしもだ。もしも、モテたことない男子がいるとしよう。それが急にモテたと勘違いする。するとどうだ?親しげに話しかけてきた女の子を好きになるのでは?それもよく知らない女の子、そう彼女・・・テンマのような昨日初めて知り合い、好意を寄せているかのような振る舞いをする子に。


 いやまぁ、本当に好意を寄せられているのだが。


 いやいや、それこそ勘違いのでは?単なる思わせぶりということも?どうなんだ!?


 頭の中で、様々な論争が繰り広がれる。


 そうこうするうちに自宅の前へとたどり着く。


 もう逃げ場はないと覚悟を決めるのと同時に不意に我に帰る。


 面倒くさい男ナンバーワンの考え方をしている自分に嫌悪した。


 自分を傍から見た結果、あの男・・・・・み、み・・・た・・・ナナシ野郎と同レベル。


 否、それを下回っているかのようなゴミ同然のような人間に自分が思えた。


 ダメだ。考えるな。


 俺は一度考え込むと自然とネガティブ方向へと流れる傾向がある。


 自分の悪い部分が出ていることで嫌気が差すのを振り払うかのように気合を入れた声を出し、両手を顔に叩きつける。


 バシィ。


 小さく響いた音。もう顔に迷いはない。


 むしろ清々しい気持ちであった。


 いつも通りに接すれば良いんだ。


 ・・・まぁ、昨日会ったばかりの子にいつも通りというのはオカシイ話だが。


 さらに追い打ち掛けるかのようにもう一発。


 バシィ。


 よし!行くぞ!!


「お、お兄ちゃん?なにしてるの?」


 突如として舞の声がした方を見る。


 玄関のドアが開かれており、そこには呆然と立ちすくむ舞の姿がある。


 当然だろう。


 家の前で急に自分の顔にビンタしている兄がいるのだから・・・・・・恥ずかしい。


「い、いや、なに大したことじゃない。まぁ、これから学校だし気合を入れようとな」


 今日一番の紅潮しているであろう顔を隠しながら「気を付けてな」と舞の隣を横切る際に、ポンと頭に手を乗せてから玄関へと向かう。


 少しの間、固まっていた舞。


 するとハッと思い出したかように振り向き、口を開いた。


「あっ!そういえばテンマお姉ちゃん帰ったよ。それと寸劇に付き合ってくれてありがとうって」


「・・・ふぇ?寸、劇?」


 思わず情けない声で反応する俺は振り向き、舞は満面の笑みでピースサインで応える。


「ドッキリ大成功!なんちゃって」


「ドッキリだったのか!!??うそ、だろ・・・」


 愕然とする俺に対して、舞は少し困った表情を浮かべた。


「ごめんね、お兄ちゃん。テンマお姉ちゃんがお兄ちゃんにドッキリしたいって言ってたから、思わずつい・・・」


 驚きと悲しみに加えて、舞が不良になっていく現実を見て絶望するかの立ち尽くした俺を見た舞は、アワワと慌て始める。


 思っていた反応と違ったのか、困惑しつつ涙ぐみながら言う。


「ご、ごめんなさい。ま、まさか、そんなに落ち込むなんて・・・わ、私・・・うぅ〜・・・」


 妹の涙にすぐに我に返る。


「だ、大丈夫だぞ!!いや、ってか、ビックリしたなーー!!いや、ホント、メッチャ驚いたぞ!!テンマもそうだけど舞って演技上手かったんだな!!そこら辺にいる女優も顔負けの演技力だったぞ!!」


 泣く寸前の舞に親指を立てて無理矢理に笑う。


 そこら辺にいる女優なんているわきゃないが、焦りで考えが上手くまとまらず、よく分からない言葉を口走る。


「ホントに?怒ってない?」


「怒ってない!全然怒ってないぞ!!驚いた!!いや、むしろ感動した!!舞の成長を見れて泣きそうになった!!」


 確かに別の意味で泣きそうになった俺は思ったことを口に出し、ゆっくりと舞を抱きしめた。


 微かに震えている身体。


 落ち着くように頭をなで続けた。


 なんとか落ち着きを取り戻した舞の涙をハンカチで拭い、お互いの頬を引っ張り始めた。


 頬を急に引っ張るなど、他人が見たらおかしな光景だろう。


 ただコレは二人のおまじないのようなモノだ。


 互いに喧嘩したり、相手を泣かしたりしたとする。


 その後、和解する際にお互いの頬を引っ張る。


 痛くない程度に引っ張るのだが、これには理由がある。お互いに落ち度があったのだと反省の念を込めるのと、相手を想いやるため。これ以上、苦しまなくていいよという行動の表れ。


 そして、今後も仲の良い二人でいようという想いも込めて。


 おまじないも終わり、舞は学校へと向かった。


 元気よく手を振る舞に対して、安堵の表情を浮かべながら見送る俺。


 姿が見えなくなるまで見送り、安心した俺は玄関へと向かう。


 両腕を回しつつ、指の関節から音も立てて歩く姿は、さながら戦地へと向かう兵士であるかのようであった。


「さ〜て、久々のスペシャルスーパー失神デコピンスペシャルの出番かな」


 フフフと薄気味悪く笑う。


 ん?スペシャルが2つ付いてるって?


 そりゃあ、そんだけスゲェデコピンってこと。


 お、わ、か、り、かな?


 同時刻。


 突然、寒気を感じているテンマがいたのは、また別の話である。

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