第10話:名前
「このお魚美味しい〜。舞ちゃんってお料理上手なんだね」
「えへへ、ありがとうございます」
キミーツと妹が二人で仲良く会話をする。
はて?何故、この三人で晩飯を食っているのだろうか?
そこの女の子は名前も知らない子だというのに。
俺は首を傾げながらも焼き魚を口に運ぶ。
確かに塩加減も焼き加減もバッチリでうまい。
将来は良いお嫁さんになりそうだ。
まぁ、悪い奴が手を出そうとしたら殴り飛ばすが。
いや、近づく男全て信用はできないな。男=敵だな。うん。
一人で頷きながら水の入ったコップを口につける。
「でも、ホント驚きましたよ。まさかお兄ちゃんにこんな綺麗で可愛い彼女さんが出来たなんて」
ブー!!と思わず水を口から吹き出す。
ちょっと、待って!そのネタまだ続いてたの!?お兄ちゃんはてっきり冗談と分かっているものばかりだと・・・・・・なんだろう、少し寂しい気持ちになる。
「綺麗で可愛いいってことはないけど、でも、ありがとね。私もこんなに可愛い妹が出来て嬉しいよ」
「えっ!?可愛いだなんて、そんな・・・・・・彼女さんに比べたら私なんて」
舞は頬を赤らめて俯く。
舞!騙されたらアカン!!その女は名前すら知らない女だ!
「本心だよ。こんな料理も出来てしっかりしてて可愛い子が妹だなんて、夢みたい」
ニコッと笑うキミーツに、さらに頬だけでなく顔全体が赤くなる舞。
舞!コイツ猫被ってる!さっきの俺に対する態度が180度違うぞ!
・・・・・・アレ?180度ってことは元に戻ってる?ん?
声を出そうにも先程飲んだ水が気管に入り、うまいこと声が出せない。
その焦りからか、どうも頭が回らないようだ。
決して、頭が悪いということではないはず・・・・・・多分。
「あっ、それと彼女さんっていうの禁止。今度からはお姉ちゃんって呼んでくれた嬉しいな〜」
「えっ?・・・・・・はい、お姉ちゃん!」
二人で笑い掛け合う微笑ましい光景が目の前に広がる。
な訳がない!
彼女が欲しいのは事実だ。
彼女を作り学生生活で淡い青春時代を過ごせたらどんなに良いかと、夢描いてはいた。
だがしかし!!
目の前にはいる自称彼女の女の子は、今日初めて出会って、それもストーカーされ、名前すら不明で、妹に取り入ろうとする危険人物なのだ!!
あまつさえ、頬にキスもされ・・・・・・いや、アレは嬉しかった、か。
とりあえず!今は名前すら知らない子とは彼女とは付き合えん!!
やっとこさ喉の調子も元に戻り、反論をしようと口を開く瞬間、舞が一つ質問をした。
「そういえばお姉ちゃん、お名前って何ですか?」
「そうだった。名乗るの忘れてたね。私は・・・テンマって言うの」
!?俺が聞いた時には教えなかったのに、何故、舞の時だけ!?
「良い名前ですね!!じゃあ、今度からはテンマお姉ちゃんって呼びますね!」
「嬉しい。今後ともよろしくね、舞ちゃん」
ヤバイ。
なんだがか入りづらい雰囲気なのだが・・・。
だが、ここで言わねば!!
そう!名前すら知らない子とは付き合えないと!
・・・・・・ん?名前?今知ったよな。
ってことは付き合ってもOK?ん?
でも、よく知らない子だしな・・・・・・惚れてしまったが。ん?
様々な思考が頭の中を駆け巡り、葛藤する。
そんな俺をよそに二人は食事を済ませ、楽しく会話をして仲を深めるのを、ただただ俺は眺めるしかできなかった。
よし、もう今日は考えるのは止めて寝ようっと。
人は時として、諦めも肝心なのであった。




