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仲間を信じる

「――サンダーボルト!!」


>>二時間以内に三千体の魔物を討伐せよ(2687/3000)


 一度に大量の魔物を葬っている優斗に危機感をもったか。

 先ほどよりも優斗を襲う魔術の数が増えた。


 しかしそれらはすべて、テミスが丁寧に盾で弾き落とした。

 優斗は相手からの攻撃の一切を気にせず、次の魔術に集中した。


「――サンダーボルト!!」


>>緊急クエスト:二時間以内に三千体の魔物を討伐せよをクリアしました

>>EXクエスト:できうる限り大量の魔物を討伐せよ(454)


 ――邪魔だ!


 目の前に現われたクエスト画面を即座に消して、優斗はさらに魔術を放った。


「サンダーボルトッ!!」


 喉の奥で、血の味を感じる。


>>できうる限り大量の魔物を討伐せよ(1131)


「お、おいユート。大丈夫なのか?」

「だい、じょうぶ……ですっ」


 不安げな表情を浮かべるダナンに、優斗は気丈に振る舞い魔術を放つ。


「サンダー、ボルト――カフッ!!」


 咳をした優斗の口から、少量の血が飛び出した。


>>できうる限り大量の魔物を討伐せよ(1831)


「ユートさんっ!? もう、いいです。辞めるです!」

「エリス……僕は、大丈夫」


 エリスが涙を浮かべて袖を引いた。

 だが優斗は首を振り、限界まで魔力を練り上げる。


「――サンダァァ、ボルトッ!!」


>>できうる限り大量の魔物を討伐せよ(2531)


 7度目のサンダーボルトを放った時、優斗の視界が真っ黒に染まった。

 ――ブラックアウト。


 かなり重篤な魔力欠乏の症状だ。

 これ以上放てば、優斗の命に関わってくる。


 それでも、優斗は杖を握りしめて離さない。


「ゆ、ユートさんッ!!」

「ま、まだまだ……」

「ユートさん、死んじゃうです!!」

「そうだぜユート。これ以上やったら、お前は間違いなく死ぬ!」

「でも……まだ、魔物が……」


 外壁の下ではいまもなお、魔物が壁を壊そうと次々と群がってきている。

 魔物は減った。

 明らかに減っていたが、まだまだ殲滅速度が足りていない。


 この状態で倒れれば、次眼が覚めた時にはクロノスがなくなっているかもしれない。

 そう思うと、優斗はまだ魔術を止める気にはなれなかった。


 優斗の視界が、徐々に正常を取り戻していく。

 これでまた、魔術が放てる。


 そう思った優斗だったが、しかし、どれだけ集中しても魔力が杖に流れない。

 体の中に、魔力が1ミリも残っていないのだ。


「くっ……。この、ままじゃ……」


 ただ魔物に襲撃されている様子を眺めることしか出来ないのか……。

 ぎりっと奥歯を鳴らした、その時だった。


 優斗の脳裡に、一つだけ魔物を倒す方法が思い浮かんだ。

 刀を振るわずとも、魔力を使わなくとも、魔物が倒せる優れた方法だ。


 だが、その方法を実行するには動き回らなければならない。

 いまの優斗は、ちっとも体が動かない。


(くっ……! ちょっとだけでも、体が動けば……ッ!!)


 魔力を使い果たした優斗は、本来気絶していてもおかしくはない状態だった。

 それを、優斗は気力だけで意識を保っている。

 体を動かすことなど出来ようはずもないのだ。


 じっと魔物の群れを睨み付けていると、優斗の体がふわり浮かび上がった。


「えっ……テミスさん?」

「……まだ、諦めてねぇんだろ?」


 テミスが優斗の腕を首に回し、体を持ち上げたのだ。

 その様子に、エリスが眉をつり上げた。


「テミスさんっ! ユートさんは、限界です!! これ以上動かしたら、ユートさん、死んじゃうです。今すぐ辞めるです!!」

「なに寝ぼけたこと言ってんだよチビっ子」

「チビっ……」


 エリスの顔が、耳まで真っ赤になった。

 怒りが爆発する。


 優斗が確信したその前に、テミスが瞳に強い光を灯して口を開いた。


「ユートはまだ諦めてねぇ。なのにここでユートを止めて、もしクロノスが滅びるようなことがあれば、ユートは絶対に後悔する。自分が戦闘に参加してもしなくても結果が変わらねぇことがわかってても、だ。

 やれることをやらないで何万人も死んだら、ユートは今後一生死んだ奴らのことを背負いながら生きていく。毎日が死にたくなる日の連続になるんだぜ? どうしてオレだけが生き残ったんだ、情けねぇ……ってな。お前はそれを、わかって言ってんのか? お前はそんな思いを、ユートにさせ続けたいのか?」


 テミスの言葉からは、まるで実体験を語るような強い気迫が感じられた。

 その気迫に圧されたか。怒りに染まったエリスの顔から、赤みがすっと抜けた。


「それは…………でも……」

「いま、目の前に大量の魔物がいる。それを前にして、ズタボロになりながらもまだ諦めてねぇ男がいるんだ。それを止めるのが仲間か? たとえ止めたことで、心に一生深い傷を負ったとしても、仲間だから止めるのか?

 ――いや、違うな。その背中を、信じて支えてやるのが仲間ってもんだろ! 仲間なら、最後までユートの力を信じてやれよ!!」


 その言葉に、優斗の胸がカッと熱くなった。

 静かに燃えていた心の炎が、一気に大きく燃え上がる。


「……テミスさん、ありがとうございます」

「感謝は全部やり終えてから言え。で、どうすんだ?」

「まずは、あそこにお願いします」


 優斗が指示を出して、テミスが外壁の際まで移動する。


 そこで優斗はこっそりスキルボードを取り出した。

 素早くボードをタップして、インベントリを表示。

 その中に収納されていたアイテムを、次から次へと取り出していく。


 そのアイテムは、瓦礫だ。

 救出時にインベントリに入れていた瓦礫を、優斗は次々と空中に排出する。


 空中に出現した瓦礫が、重力にひかれて落下。

 二十メートル分を加速して、ズゥゥンと大きな音を立てて地面で砕け散った。

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