命を燃やせ!
瞬間。
視界が真っ白に染まった。
続けて爆音。
――ドドドドドドドド!!
音が空気を揺らし、体をビリビリ震わせる。
優斗が放った魔術は前方に展開し、いくつもの雷撃を地面に落とした。
「えぇえ……」
その様子に、優斗は唖然とした。
優斗が予想した通り、サンダーボルトは範囲攻撃魔術だった。
しかし自分が放った魔術が、まさかこれほど広範囲かつ高威力になるとは、全く想像していなかった。
>>二時間以内に三千体の魔物を討伐せよ(823/3000)
魔術がこれほど広範囲かつ高威力になった原因は、優斗の特技【集中】と、ネーレイデスの杖によるものだ。
特技によって一度に放出出来る魔力量が大幅に増え、その魔力を杖がさらに増幅した。
これによって、通常の何倍もの範囲と威力を持ったサンダーボルトを放つことが出来たのだった。
しかし、自らの能力を超えた魔術の使用が、なんのデメリットもなく行えるはずがなかった。
魔術が終了すると同時に、優斗は平衡感覚を失い石畳に手を突いた。
それと同時に、胸に熱いものがせり上がる。
「……かはっ!!」
堪えきれず、優斗は口から大量の胃液を吐き出した。
これは魔力欠乏による症状だ。
今回は、中でも酷い。
一気に大量の魔力を消費したせいだ。
「ま……まだ、まだ……」
優斗は杖にしがみつきながら、再び魔力を練り上げる。
先ほどの優斗の攻撃で、かなりの魔物を討伐出来た。
だが優斗が穿った穴は、既に大量の魔物によって埋め尽くされていた。
森の奥から現われる魔物が、途切れる様子がない。
優斗だけでなく、他の魔術士も必死に魔術を放っているが、魔物が減る気配が一向に感じられなかった。
優斗は減らない魔物の群れを見て、より一層強く魔力を練り上げる。
(一回でも多く攻撃しなきゃ……。少しでも多く、倒さなきゃ……!)
魔力を必死に練り上げるが、特技を用いたことによる激しい疲労が、優斗の集中を妨げる。
なんとかしないと。
焦る優斗の背中に、突如温もりが宿った。
その温もりは瞬く間に全身に広がり、優斗の体の疲労をあっという間に打ち消した。
「ユートさん、大丈夫です!?」
「エリス……」
優斗の疲れを癒やしてくれたのは、エリスだった。
いつの間にか外壁の上に現われたエリスが、優斗にスタミナチャージを使ってくれたのだ。
「どうして――」
ここに来たのか?
そう尋ねようとした時、優斗の感覚が、攻撃の気配を捕らえた。
炎の塊が優斗らに向けて猛スピードで接近していた。
――魔物が放った魔術攻撃だ。
慌ててエリスを抱きかかえ、優斗は衝撃に備える。
だが、
「オラァッ!!」
突如優斗の前に現われた人影が、手にした盾で炎の魔術を弾き飛ばした。
その光景に、優斗は大きく驚いた。
魔術を盾で弾く冒険者など、優斗はこれまでの冒険者生活で初めて目の当たりにした。
そんな、希有なスキルを見せつけた人物が、気持ちよさそうに黒く長い尻尾を振る。
「テミスさん……怪我は……!?」
「そのチビっ子のおかげでもう完璧に治ったよ」
「だから、チビっ子じゃないです!!」
ぷんすこ。エリスが頬を膨らませながら抗議した。
同時に優斗にスタミナチャージも行っているのだから、なかなか器用である。
「ほら、ボサっとしてんじゃねぇ! ……救うんだろ? クロノスを」
「…………はいっ!!」
テミスの豪語に感化され、優斗は気力を取り戻した。
集中し、魔力を練り上げ集約し、ありったけを杖に注ぐ。
魔術のスタンバイが整った。
その時、優斗の肩にぽんと手が置かれた。
「ユート。この方向にぶっぱなせ。中でも一番敵が密集してる」
そう告げたのは、ダナンだった。
ダナンは斥候のスキルで、魔物の気配を探知出来る。
どこにどれくらいの魔物がいるかがわかるのだ。
これで、優斗がうっかり魔物の密度が薄い場所に魔術を放つ可能性が消えた。
優斗が持てる最大火力を、最大数にぶちまける!
「――サンダーボルトッ!!」
明滅、爆音。
大地に激震が走る。
――ダダダダダ!!
優斗が放ったサンダーボルトが、魔物を蹂躙する。
>>二時間以内に三千体の魔物を討伐せよ(1811/3000)
今回優斗が開けた穴は、なかなか塞がらなかった。
それだけ一度に多くの魔物を倒せたのだ。
魔術を発動すると同時に、エリスが優斗にスタミナチャージを開始した。
そのおかげで、優斗は先ほどのように胃がひっくり返るほどの症状が現われなかった。
しかしそれでも、魔力欠乏は発生する。
まるで血が大量に失われたかのように、優斗の顔が真っ白になる。
呼吸をしても、ちっとも酸素が体に行き渡らない。
――だが、まだ打てる!
優斗は再び魔力をチャージ。
ダナンの助けを借りて、魔物に魔術を放った。
「――サンダーボルト!!」