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束の間

「生き返った冒険者のクエスト攻略生活」のコミカライズが決定いたしました!

こちら小説版は絶賛発売中でございます。

コミカライズスタートまで、小説を読みながらお待ちくださいませ!

 拳を重ねたあと、優斗はテミスの惨状を見て言葉を失った。

 テミスは、全身がズタズタだった。


 一体どれほど攻撃を受ければこうなるか、優斗には想像も出来ない。


「テミスさん。こんなになるまで、孤児院を守ってくれたんですね。……ありがとうございます!」

「別に……孤児院を守るために頑張ったわけじゃねぇよ。ただの、自己満足だ」


 そう言って、テミスがぷいっとそっぽを向いた。

 恥ずかしさを隠すような顔色はすぐに消え、テミスの表情が激痛に歪む。


「て、テミスさん、大丈夫――」

「お、おじょおおおだばぁぁぁぁああ!!」


 優斗が声をかけたその時、孤児院の敷地内から猛スピードでリタが現われた。

 ぼろぼろと涙を流しながら、リタがテミスに抱きついた。


「おじょうだば、おじょうだば、おじょうだばぁぁああ!!」

「い、いでででっ!! 死ぬ死ぬ死ぬ、馬鹿離せリタ!!」


 抱きつかれたテミスが、涙を流すリタの肩を何度もタップした。

 他人とは思えない二人の様子に、優斗は目を丸くする。


「お、お嬢様?」

「……何でもねえ。今すぐ忘れろ」

「えっ?」

「いいな?」

「あっ、はい……」


 テミスに凄まれ、優斗はあっさり引き下がった。

 いまのテミスからは、ただならぬ雰囲気が漂っている。

 逆らわぬが吉である。


「はぁ……ふぅ……ユートさん、すごく早いで……」


 息を切らしながら駆け寄ってきたエリスが、テミスを見て目を見開いた。

 どういう状況か、すぐに呑み込んだのだろう。

 エリスが自分の胸に手を当てると、すぐに呼吸が整った。

 スタミナチャージを行ったのだ。


 てってって、とエリスが素早くテミスに近づき、しかしすぐに優斗に困惑の表情を向けた。


「おじょうだばぁぁぁあああ」


 エリスが回復するのに、テミスの腰に抱きついておんおん泣いているリタが邪魔なのだ。

 優斗は苦笑を浮かべ、リタをテミスから引き剥がした。


「ハイヒール」


 エリスの手から強く柔らかい光が溢れ出し、テミスの全身を包み込む。

 テミスの治療を始めたエリスを眺めながら、ダナンが優斗に近づいてきた。


「ユート。なにがあったんだ?」

「この孤児院がオーガに襲われたようで。それを、テミスさんが守ってくれていたんです」

「おお、すげぇ……。やるじゃねぇか!」


 優斗の説明で、ダナンが目を見開いた。

 Dランクの冒険者が、Bランクの魔物を食い止めるということは、並大抵のことではない。

 討伐出来なくとも、ただ守っただけで偉業になるほどのことなのだ。


 ダナンと同じように、エリスもまた驚いた顔をした。

 ヒールを続けながら、エリスが口を開いた。


「よく、持ちこたえた、です。今回だけは素直に褒めてやる、です」

「なに偉そうに言ってんだよチビっ子」

「チビじゃないです!」


 ムキーッ! とエリスが毛を逆立たせた。

 エリスにもテミスにも、緊張感が感じられない。

 どうやらテミスは、危険な状態を脱したようだ。


 優斗はほっと胸をなで下ろした。

 その時だった。


 ――ズゥゥン!!


「「「――ッ!?」」」


 大地が揺れるほどの音がクロノス中に響き渡った。

 音の発生源は、外壁からだ。


「僕は外壁を見てくる。エリスはテミスさんを治療。ダナンさんは、二人を守ってください。なにかあればこれを――」


 そう言って、優斗は魔道具の鈴の片方をダナンに放り投げた。

 その鈴は先日、マリーから譲り受けたものだ。


『もう使わないし、あげるわ』


 マリーがこの鈴をなにに使ったかは定かではないが、なにかに使えそうだからと優斗は素直にもらい受けていた。


 鈴を鳴らせば、対になっている鈴が共鳴する。

 これで、もしダナンたちが魔物に襲われても、優斗はすぐに駆けつけることが出来る。


「了解。無茶すんなよ」

「わかりました」


 そう言って、優斗は外壁に向かって走り出した。


 クロノスの外壁は、高さが二十メートル。幅が五メートルある。

 この壁が、外側からの魔物の侵入を防いでくれている。


 だが、


 ――ズゥゥゥン!!


 分厚い外壁から、不吉な音が響いている。


「一体、何が起こってるんだ……」


 優斗は真上を見上げ、足に力を込めた。


 優斗はここに来るまで、優斗はアルセイスのブーツの使い方を、なんとなく把握出来てきていた。


 二度オーガを討伐した時に、優斗は力を込めて地面を蹴り出した。

 この時、優斗の体から僅かに魔力が流れ込んでいた。

 それにより、オーガ討伐時にアルセイスのブーツが初めて真価を発揮した。


 一度目は、石畳を蜘蛛の巣状に粉砕した。

 二度目はその力を、前方に向けて加速した。


 アルセイスのブーツは、ただグリップ力の優れた靴ではない。

 魔力を込めると、次回の踏み込み時に跳躍力が増加する魔道具だったのだ。


 優斗はブーツに魔力を込めて、力いっぱい跳躍した。

 途端に優斗の体が空中を飛翔した。


 途中、バランスを崩しそうになりながらも、優斗はなんとか外壁の上に到達した。


「お、おおう……。出来そうだなぁとは思ったけど、まさか本当に出来るとは……」


 優斗の身体能力だけでは決して出来ない所業である。

 垂直跳びで外壁の上まで登り切ったことに、優斗は自分のことながら少し引いた。


 身を屈めながら、優斗は外壁の向こう側をのぞき込む。


「…………」


 その向こう側の光景に、優斗は言葉を失った。


 地の果てまで、黒クロくろ……。

 真っ黒い粒に埋め尽くされていた。

 その黒い粒は、すべて魔物だ。


 おびただしい数の魔物が、クロノスに群がってきていた。


「これは不味い……」


 スタンピードがまさかこれほどだとは、優斗は夢にも思わなかった。

 数えるのも馬鹿らしいほどの魔物の群れを前にして、優斗はクロノスの陥落を予感せずにはいられなかった。


 クロノスの外壁に殺到する魔物を、呆然として見つめている時だった。

 優斗の目の前に、音もなくスキルボードが出現した。


「――これはッ!?」

マガポケにて「劣等人の魔剣使い」が更新されました。

こちらも併せてお楽しみください!

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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