表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/96

己の信念、守り抜く強さ

拙作「生き返った冒険者のクエスト攻略生活」が発売中です。

是非、ご購入の程をよろしくお願いいたしますm(_ _)m

「――かはっ!?」


 テミスは水面から顔を出すように、止まっていた呼吸を再開した。

 鬼からの攻撃を受けて、僅かなあいだ意識が飛んでいた。


 鬼の攻撃で、全身が悲鳴を上げている。

 一番酷いのは、左腕だ。もう上がらない。


「はぁ……はぁ……」


 あまりの激痛に、足がガクガク震える。

 一度膝が折れれば、二度と立ち上がれないかもしれない。


「ふぅ……はぁ……」


 それでも、テミスは鬼を睨めつけ続ける。

 ここにはユートが、守りたいものがある。

 四年前のスタンピードで、テミスが守れなかったものだ。


 テミスの意識の中で、孤児院と実家が重なっていた。

 鬼を好き勝手に暴れさせれば、大切なものば失われてしまう。


(オレはもう二度と、同じ思いを、したくねぇ……!!)


 だからテミスは奥歯を食いしばり、鬼の攻撃を耐え抜いた。

 ここでまた、守るべきものを破壊されればきっと、テミスは冒険者として活動出来なくなりそうだったから……。


 ――ズンッ!!


「カハッ!!」


 もう何十度目かの攻撃を受けて、テミスは口から血を吐き出した。

 盾で受け流しても、衝撃で体の中がボロボロになっていく。


 それでもテミスは、決して諦めなかった。


(守るんだ……なんとしてでも、オレが、守り抜くんだ!!)


 なにも守れなかった時の絶望と失望は、もう二度と味わいたくない。

 だから、テミスは奥歯を食いしばる。


(あの頃のオレじゃ、戦場に立つことさえ許されなかった……)


 崩れ落ちた領主邸の前で、立ち尽くしていた頃のテミスでは届かない。

 けれど、いまのテミスは違う。


(変わったんだ……。オレは、変われるんだッ!!)


 思い出されるのは、ぐしゃぐしゃになったユートの掌。

 その努力の証と、彼の著しい成長が、テミスは希望だった。


 努力は決して、嘘を吐かない。

 諦めたのは、限界を決めていたのは、いつだって自分なのだ。


 だから、だからこそ――どれほど地面を舐めようと、立ち上がり続ければきっと、どんなに分厚い壁だって超えられる!


「うおぉぉぉおお!!」


 獣のような雄叫びを上げ、テミスは何度も何度も立ち上がる。


(くそっ! 酸素が足りねぇ……)


 酸素が足りない。

 頭がぼぅっとする。


 攻撃を受けすぎて、目が霞んできた。

 外側から徐々に、視界がぼやけてきた。


「すーっ! ふぅ~~……」


 だがぼやけたのは外側だけ。

 鬼の姿は、やけにはっきりと浮かび上がって見えた。


「すーっ! ふぅ~~……」


 気がつくとテミスの世界には、自分と鬼しかいなかった。

 苦しかった呼吸も、いまでは楽に行える。


 世界が、スローモーションになった。

 鬼が、右手を振り上げた。


 それをテミスは盾を掲げて待ち構える。


 ――もう二度と、腕が動かなくなっても良いッ!!


 そんな覚悟で臨んだテミスの脳裡に、


『そうじゃない。角度を付けろ!!』


 今は亡き、父の声が響いた気がした。

 瞬間。

 テミスは右足を僅かに引いた。


 テミスのスタンスががらりと変わった。

 そのテミスに、鬼の拳が届く。


 盾が拳に接触。

 鬼の拳が、盾の上をつるりと滑った。


 その光景に、テミスは目を見開いた。

 この盾の使い方が、テミスの父親のものとそっくりだったためだ。


 ――聖騎士の構え。


(オレは、すべてを捨てたと思ってた。けど、最後の最後まで、残ってたんだ。一番とびきり大切なもんが……残っててくれたんだ……)


 森で狩りをしてからずっと感じていたなにかを、テミスは今ここで、やっと掴んだ気がした。


>>職業:盾士→聖騎士

>>剣術Lv3(-)→(+)


 テミスの盾で、鬼が態勢を崩した。

 この期に、初めてテミスは反撃を行う。


 しかし、持ち上げた剣が、手から落下した。

 それと同時に、テミスの膝がガクンと折れた。


「あ……れ……」


 テミスの体は、既に限界だったのだ。

 限界を通り越して、テミスは意地だけで動いていた。


 その意地も、ここまでだった。

 膝が折れたテミスは、ふんばりが効かずにぺたんと尻餅をついた。


 戦闘中のテミスにとって、致命的な態勢だった。

 目の前の鬼が、にやり口を曲げた。


「――お嬢様ッ!!」


 リタの声が、テミスはやけにハッキリと届いた。


 目の前で、鬼が再び拳を持ち上げる。

 振りかぶった拳がテミスの顔面に打ち込まれる。

 その直前に、


「ライトニング――」


 まばゆい閃光が、テミスの視界で瞬いた。


「――スラッシュ」


 ちりん、と鍔が小気味よく鳴いた。

 次の瞬間、鬼の首がころんと落下した。


「…………遅ぇじゃねぇかよ」

「すみませんテミスさん。遅くなりました」


 鬼の首を落としたのは誰あろう、元最弱たるユートその人だった。


 ユートに向けて、テミスは拳を持ち上げた。

 その仕草に、ユートが目を丸くした。

 しかしすぐにユートも拳を持ち上げる。


 テミスの拳に、ユートの拳がこつんとぶつかった。

 こうした馴れ合いをするのは、四年ぶりである。


 もう他の冒険者となれ合うつもりはないと、テミスは考えていた。

 だが今だけは、馴れ合うのも悪くないなと思うのだった。

マガポケにて「劣等人の魔剣使い」が更新されております。

こちらも合わせてお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ