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テミスの失態

明けましておめでとうございます。

本年も、どうぞ宜しくお願いいたします。

「了解です。テミスさん、お願いします」

「おおよっ!」


 ユートに請われて、テミスが鼻息荒く前に出る。

 森の奥から現われたのは、Dランクのダークビット。ソルジャーとチーフの集団だった。


 その魔物に、テミスは斬り掛かる。


「牙流剣術〝食突(くらいつき)〟!!」


 幼い頃からその身に修めた牙流剣術は、テミスの意のままにダークビットの首を穿つ。

 しかし、テミスの剣はダークビットの首に食い込み、停止した。


「なっ――!?」


 首を切り落とせなかったのは、剣の切れ味が悪かったからではない。

 攻撃の威力が足りなかったためだ。


 これまでのテミスならば、ダークビット程度一撃で葬れた。

 にも拘らず威力が足りなかったのは、テミスの職業にある。


 テミスは先日より、盾士の職業に就いた。

 それによって、テミスの能力は大幅に変化した。


○テミス(19)

○レベル25  ○職業:盾士

○スキル

・基礎

 ├筋力Lv3

 ├体力Lv2(+)

 └敏捷Lv2

・技術

 ├剣術Lv3(-)

 ├盾術Lv1(+)

 ├受け流しLv1(+)

 └気配探知Lv1

・特技

 【牙術】【空中機動】【頑強】


 得意だった剣術にマイナス補正が付いた。

 現在剣術はレベル3だが、このマイナス補正によって、体感レベルが2程度まで下がってしまっている。


 これが、ダークビットを一撃で葬れなかった原因だ。


 テミスは盾士に就いたときから、剣術レベルの低下を自覚していた。

 にも拘らず、ダークビットの体で刃が止まるまでそれに気づけなかったのは、ユートに勝とうとばかりしていたせいだ。


 己の攻撃力の無さに呆気にとられているうちに、ダークビットチーフが、ソルジャーに指示を出した。


 フリーになったソルジャーが、最も弱そうに見えるエリス目がけて突進した。


「くっ!」


 慌てたテミスが剣を引き、盾に力を込める。


 盾術〝挑発〟を行うも、既に遅い。

 ソルジャーは既に、エリスの目と鼻の先にいる。


「しまっ――」


 エリスが切り刻まれる未来を想像し、テミスの背筋が凍り付いた。

 次の瞬間、


「しっ!」


 エリスに向かっていたソルジャー二体から、同時に首がぽろりと落下した。

 ソルジャーの横に、いつの間にか刀を抜いたユートが佇んでいた。


 その光景から、テミスはソルジャーの首を落としたのは、ユートだとわかった。


(なんも、見えなかった……)


 しかしテミスは、ユートの攻撃を一切目で捕らえることが出来なかった。

 たった一瞬の戦闘でテミスは現実を、嫌というほど思い知らされた。


(オレはもう、剣士じゃねぇんだな……)


 テミスは強い剣士を目指してきた。

 どんな魔物でもたちまち倒してしまえる剣士だ。


 その夢は既に閉ざされてしまったのだと、テミスはようやく実感した。


(それじゃあ、これまでのオレの努力は、決意は、なんだったんだ……)


 激しい喪失感が胸を締め付ける。

 その時だった。


「テミスさん後ろ!!」

「――ッ!」


 ユートの声で、テミスは我を取り戻した。

 まだチーフが死んでない。


 振り返りざまに、テミスは盾を付き出した。


 ――シールドバッシュ。


 その盾が、チーフからの攻撃を弾いた。

 さらに勢いは留まらず、チーフの体を大きく突き飛ばした。


 突き飛ばされたチーフの眼球に、いくつもの針が突き刺さる。

 ――ダナンの攻撃だ。


 その針が脳髄まで達したか。

 チーフはしばし体を痙攣させた後、動きを停止した。


「お疲れ様でした。テミスさん、大丈夫ですか?」

「あ、ああ……」


 ユートの言葉に、テミスは上の空で頷く。

 先ほど放ったシールドバッシュは昔、父から学んだ技術だった。


 剣士になると決めてから一度も使わなかったため、完全に忘れていると思っていた。

 だが、体はかつての努力を覚えていた。


 無論、シールドバッシュは幼い頃に学んだ技術だけで行えたわけではない。

 チーフを突き飛ばせたのは、職業によるプラス補正が大いに働いた結果である。


 自分が冒険者として積み重ねてきた実力ではない。

 それでもテミスはこの状況に、なにかを気づかされた気がしたのだった。



 テミスが漏らしたダークビットが、まっすぐエリスに向かった時、優斗は慌てて全力で地面を踏んだ。


 すると、これまでよりも体が急加速した。

 靴がしっかり地面を捕らえたため、力が無駄なく加速に繋がったのだ。


 おかげで、エリスに指一本触れさせずに、ダークビットを討伐することが出来た。


 冷やっとはさせられたが、誰もなんの被害も受けなかった。

 だがこの一件で、エリスがいたく憤慨した。


「盾士なのに、攻撃に夢中なのはおかしいです! そのせいで、すごく危なかったです!!」


 狙われたエリスが怒るのも当然だ。

 盾士は後衛を守ることが仕事なのだ。


 その仕事を放棄して魔物を倒すことに夢中になっていては、優斗が盾士を雇った意味がない。


 優斗が盾士を雇ったのは、殲滅力を上げるためではない。

 あくまで様々な角度から狙われるフィールドで、より安全に狩りをするためである。


 怒れるエリスを宥めながら、優斗はテミスに告げる。


「テミスさん。ここからはスタンダードに行きましょう。もし魔物を漏らしても、僕とダナンさんがしっかりフォローしますから、安心してください」


 具体的な欠点は指摘せず、優斗はそれだけを口にするに留めた。


 優斗は様々なパーティに所属してきた。

 所属したパーティは、和気藹々としたものばかりではない。

 中には常に殺伐としていて、僅かな連携の齟齬をきっかけに解散したパーティもあった。


 長年冒険者をやってきた者には、それ相応のプライドがある。

 叱責や嫌味で相手のプライドを刺激しても、状態が改善するわけではないのだ。


「あ……ああ、わかった……」


 今回の一件で思うところがあったか、はたまた優斗の助言が通じたのか。

 そこからのテミスは、盾士としてスタンダードな動きに変化した。


 接敵すると盾術の〝挑発(タウント)〟で敵意を引き、魔物を固定する。

 魔物の攻撃を封じながら、攻撃役が攻撃するタイミングを作る。


 作業は単純だが、魔物の攻撃を受けとめる勇気がなければあっさり崩れてしまう。

 崩れればパーティが瓦解するため、盾士はパーティにおいて、非常に重要なポジションなのだ。


 初めてダークビットに遭遇して以来、テミスは盾士としての役割を完璧にこなしていた。

 まるで、それ以前とは別人になったと思えるほどの切り替わりだった。


「ふんっ。ちゃんと動けるなら、最初からそうしていれば良かったんです」


 テミスを嫌っている節のあるエリスでさえ、突っ込みどころが見当たらないようだ。

 それほどまでに、テミスの動きは完璧だった。


(まるで初めから盾士だったみたいだなあ)


 それが優斗の評価だった。

 一日を終えて、優斗らが倒した魔物は50に登った。


 ダンジョンは魔物が密集しているが、森の中は違う。

 にも拘らずこれほど魔物が倒せたのは、ダナンの索敵が優れていたことも理由の一つである。

 しかし、


「ちょっと、魔物が多かったですね」

「だな。俺が索敵しただけじゃ、ここまで倒せねぇ」


 やはりギルドが言っていたように、森に生息する魔物が増加しているのは間違いない。


 このままでは、スタンピードが起こる。

 そうならないように、優斗らは魔物の間引きに当たっているが、万が一スタンピードが発生すれば、高い外壁のあるクロノスとてただでは済むまい。


 スタンピードを防ぐため、クロノスを守るため、重要な仕事だ。

 責任の重大さに気がつき、優斗はぶるりと体を震わせるのだった。

小説版『劣等人の魔剣使い』が発売となりました。

また2月5日には本作『生き返った冒険者のクエスト攻略生活』が発売となります。

両者共に、宜しくお願いいたします。

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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