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誰も来ないダンジョンの片隅に

「エリス。戦闘は終わったよ」

「はっ!? ……はひ」


 優斗が話しかけると、一度ぴくんと肩を振るわせた。

 しかし優斗の声だとわかると、すぐに肩から力が抜けた。


「す、すみません……です。戦闘に参加、出来なかったです」

「16階は、ダメな人にとっては鬼門だって言われるからね」


 しょんぼり肩を落とすエリスに、優斗は笑いかけた。

 ダンジョンには様々な種類の魔物が生息している。

 それだけ魔物がいると、どうしても苦手な魔物というものも出て来てしまう。


 一番の不人気モンスターは、ダークスカベンジャ――巨大なGである。

『キモイ・しつこい・すばしっこい』の三拍子が揃った、不動の不人気モンスターである。


 理由は不明だが、『とにかく生理的に無理』という冒険者が非常に多い。

 これは太古の昔、人間がダークスカベンジャーに狩られていた名残ではないかと言われている。


 イビルスパイダーも不人気モンスターの定番だ。

 この魔物との戦闘を避けるための、16階の最速攻略法が出回っているほどである。


 不人気モンスターは見た目だけではない。性能の嫌らしさに苦手意識を持つ者もいる。

 優斗であれば、物理攻撃が通らない魔物が一番苦手である。


 といっても、魔剣術を習得した今ならば、昔ほどの苦手意識はないのだが……。


 さておき、蜘蛛が苦手ならば無理をさせるのは危険である。

 今のように身動きが取れなくなった状態で攻撃されると、回避が出来ないためだ。


「じゃあ……この階は最速で抜けようか」

「すみません、です」


 優斗が提案すると、エリスが申し訳なさそうに頭を下げた。


 優斗は、イビルスパイダー100匹討伐のクエストをクリアした気持ちはある。

 だがそれと仲間の安全を天秤に掛けるほど、優斗は落ちぶれてはいない。


 早速、ちまたに出回る攻略法通り、16階を進んで行く。

 いつもなら1階あたり2・3時間かけてクリアするが、たったの15分で16階を抜けてしまった。


 無論、優斗が2・3時間掛けて挑むのは、魔物の討伐クエストをクリアするためではある。

 しかし戦闘を避けながら駆け足で進んでも、大抵は1時間かかるものだ。


 たったの15分でクリア出来るほど、ダンジョンは狭くない。


「なんか途中途中、変な通路無かったか?」

「ああ、穴みたいなやつですね……もしかして」


 優斗の脳裡に『最速攻略を目指した冒険者達が、邪魔な壁を破壊した』可能性が浮上した。

 しかし、一般的にダンジョンの壁は不破壊補正が付いていると言われている。

 その壁を破壊したとは、優斗には考えられなかった。


 だがもし、そんな壁さえも破壊したのだとするなら……。

 一念岩をも通すならぬ、一念壁をも通す。

 人間に、不可能なことはないのかもしれない。


 17階に出現するのはデッドボア。

 突撃攻撃が危険な、四足歩行の魔物である。

 エリスが苦手な魔物でないため、クエスト攻略を狙って優斗はダンジョンを進んで行く。


 そこから20階まで、優斗らはノンストップで狩りを続けた。

 20階の魔物ミニタウロスを100匹倒した後、ボス部屋の前で小休止を取る。


 休憩しながら、優斗はクエストを確認する。


(……よし。クエストがチェインした)


 20階に到達したため、チェインクエストに20階のボスを倒せが出現していた。


>>レベル31→33

>>スキルポイント:4→8


 17階から20階の魔物を100匹ずつ討伐したこともあり、レベルとスキルポイントが沢山増えていた。


(次はなんのスキルに振ろうかなあ……)


 スキルの振り分けを考えるだけでも、優斗は丸一日潰せそうだった。

 休憩を終えて、優斗らはボス部屋に向かった。


 出現したボスは、ミノタウロスだ。

 もっと深い階でも出現する魔物だが、そちらは武器を携えている。

 20階のボスは素手のミノタウロスで、一部ではスデタウロスとも呼ばれている。


 素手ではあるが、ミノタウロスは体が大きく、非常に膂力が高い。

 なめてかかれば、あっさり攻撃を食らってしまう。

 また、ツノによる突き上げ攻撃もある。


 下階の劣化モンスターだからといって、油断出来る相手ではないのだ。


 しかし、既にBランクの魔物を倒したことのある優斗らにとっては、特段恐ろしい魔物ではなかった。

 戦闘が始まって三分で、ミノタウロスはあっさりダンジョンに飲まれて消えていったのだった。


「ダナンさん、お疲れ様です」

「お疲れ、ユート」


 優斗はダナンと拳を重ねる。

 とってって、とエリスが近づき、まるでバンザイするような姿勢で優斗に拳を向けた。


 頭にスライムを乗せた姿ということも相まって、エリスが非常に愛くるしい。優斗は無意識にエリスの頭――のピノを撫でていた。


「お疲れ様、エリス」

「むーっ!」

「い、痛い痛い」


 なにが不満なのか。エリスがぷりぷりと怒りながら、ぽこぽこ優斗の腕を叩くのだった。




 21階の転送部屋を登録し、優斗らは地上に戻ってきた。

 ダンジョンでの稼ぎを分配してパーティを解散したあと、優斗は再び16階に降り立った。


 優斗は本日中に、イビルスパイダー100体討伐クエストをクリアするつもりだ。


「100体くらいなら、なんとかなるよね」


 1分につき1体倒せば、100分でクリア出来る計算である。

 順調にいけば、日は跨がない。


 優斗はダンジョンを走りまわりながら、イビルスパイダーを探す。

 途中、気配察知で不自然な床を発見する。


 ダナンが何度も罠を解除する姿を見ていた優斗は、自分も気配察知で罠を探知出来ることを知っていた。

 うまく避ければ、罠に掛からずダンジョンを移動出来る。


 不自然な床を避けながら、優斗は迅速にイビルスパイダーを倒していく。


「……よしっ、終わったー!」


 イビルスパイダーを百体討伐した。

 百体の討伐には、さほど時間がかからなかった。

 というのも、通常の階に比べてイビルスパイダーの密集率が高かったためだ。


「冒険者のほとんどが最短ルートで通過するせいで、魔物がほとんど減ってないんだろうなあ」


 優斗のように、イビルスパイダーを討伐するためだけに16階を探索する者はまずいない。

 ここ数年で最短ルートを外れた冒険者など、優斗くらいかもしれない。


 優斗は急ぎ、16階の転送部屋に向かう。


 百体倒すために、ずいぶん奥までやってきた。

 ここから戻るには、急いでも数十分はかかりそうだ。


 急いで帰らなければ、日を跨ぐ可能性がある。

 ――明日の冒険に響いてしまう。

 それだけはなんとしてでも避けたかった。


 優斗が通路を走っている時だった。

 前方に、小さな箱を発見した。

漫画版「劣等人の魔剣使い」がマガポケにて更新されております。

そちらもどうぞ、宜しくお願い致します。

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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